第12話 ハダカのお付き合い

「じゃあ、シャンプーはこっち」

 白い方の液体を、チサちゃんはボクの手に垂らした。


「は、はい」


 シャンプーだけじゃなく、ひげ剃り用ローションの文化まで。


 チサちゃんは隣に座り、ボクが頭を洗う様子をうかがっている。


「どうしたの、チサちゃん?」


「両手を使わないの?」


 使ったら色々とまずいでしょ。


「おてて、ケガをしたの?」

「してないよ。心配してくれてありがとう」


 白い手が、ボクの頭に伸びる。

 ワシャワシャと、シャンプーを泡立ててくれた。


「ああゴメン。気を遣わせちゃったね」

「いい。今日はダイキ、がんばったから。ごほうび」


 そう言われると、うれしい。

 お言葉に甘えて、ボクはされるがままになる。


「ありがとう」

「まだ終わってない」


 頭を流すと、チサちゃんはボクからタオルを取り上げた。

 ボクは内股になる。


「お背中流す」


 固形石けんを手に取って、チサちゃんはタオルに付けた。


 背中に、弱い力を感じる。

 いつも強くゴシゴシと洗っているせいで、チサちゃんの力は頼りなく、もどかしい。

 けれども丁寧だ。

 腕も足も、隅々まで丹念に洗う。


 心なしか、チサちゃんの表情は楽しそうだ。


 ボクの方も、心地よくなっていく。


「次は前」


 チサちゃんが、ボクに前を向かせようと肩を掴んだ。


 すごい力で、前を向かされる。


「洗えないから、おててをどけて」


 これをどけると、倫理的にボクが死ぬ!


「いいよ。さすがに前は自分で洗うから」


 ボクはタオルを返してもらい、自分で洗うべき所を洗い、お湯で流した。


「ありがとう、チサちゃん」

「わたしも洗ってもらう」


 目の前で、チサちゃんがバスタオルを取る。

 湯気が大量に発生し、無事に隠せていた。


 隣で、チサちゃんが背中を見せる。

 ボクも、チサちゃんの方へ身体を向けた。


「頭と背中、どっちから洗おうか?」

「背中で」


 ボクはチサちゃんのマネをする。

 前は自分で洗ってもらうことに。


「強い。気持ちいい」


 背中を洗われながら、チサちゃんがうなった。

 最後に頭を洗って、お湯で流す。


「じゃあ、入る」


 いよいよ温泉だ。

 一瞬使っただけで、身体じゅうの疲れが吹き飛ぶ。

 やはり、労働の後の風呂は最高だ。


「ふぅ」


 ボクの正面で、チサちゃんが同じように癒やされている。

 完全に背中をボクに預けながら。


 こんなお風呂なら毎日でも入りたいが、毎回混浴なんだよな。


 でも、ボクが入らないとチサちゃんが入浴しない。

 それでは、不潔な魔王になってしまう。やむを得ない。


 ボクのモヤモヤなんて気にしていないのか、チサちゃんは寝てしまう勢いである。

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