第10話 魔王のマナと、玉座の役割

「チサ様はああ見えて、膨大な魔素を必要とします。甚大ではない消費量を抑えるには、同じほどのマナをその身に孕む存在が不可欠なのです」


「それが、ボクってコトですか?」

 ボクは自分を指さした。


「おかげさまで。あなたがここにきて以来、チサ様の魔力は安定しています」


「ボクって、そんなに強い部類に入るんですか?」

 こう見えて、ボクはケンカに弱い方だ。

 柔道だって、護身程度でしか習っていない。

 人を傷つけるのがイヤなのだ。




「マナの量が問題なのではありません。質の問題です」




 言うには、マナは質の方がよっぽど重要らしい。

 属性というか環境というか、そういった性質こそ大切なのだという。


「相性と言えば、分かりやすいでしょうか? あなたとチサ様の相性は抜群にいいのです」


「そうだったんですね」


 どうやら、ボクは貴重な存在らしい。


 でも、これでいいのだろうか。


 ただ魔王の側にいるだけなのは、楽だ。

 けれど、何かできないものか。


 異世界まで来て、タダ飯を喰らうわけにはいかない。



 カゴを重そうに担いでいるおばあさんを見つけた。カゴには、山盛りのオレンジが。


「ねえチサちゃん、あの人を手伝っていいかな」

「ダイキなら、そうすると思った」


「ありがとう。行ってくるね」

 ボクはチサちゃんに断りを入れて、おばあさんの元へ。


「持ちます」

 おばあさんの代わりに、カゴを担ぐ。


「いやいや、お気になさらず」

「これも何かの縁ですので。どこまで」


 おばあさんの案内で、指定の場所までオレンジを運ぶ。

 倉庫にある大きな箱に、カゴの中身を入れる。


「どうもすみません」

「いえいえ。畑仕事も協力させてください」

 カゴをおばあさんに返す。ついでに、桑を持たせてもらう。


「いやいや玉座様に働かせるなんて」


 おばあさんは遠慮していたが、ボクは身体を動かしたい。


「わたしも手伝う。配下が何をしているか、人員が足りているか把握するのは、上の仕事」

 チサちゃんまで、手を貸すと言い出す。


「恐縮です」

 村人たちが、頭を下げる。


 二人で協力して、畑を耕す。肥料や水を土に与え、種をまく。


 その後は、再びチサちゃんを肩車して、腰にカゴをくくりつける。

 チサちゃん先導で、オレンジを摘んだ。

 質のいいものはそのまま販売する。質の悪いモノは、潰してジャムやポーションとして売るそうだ。


 夕方まで身体を動かしたので、久々にクタクタである。


「すいません。魔王さまに働かせて」


 村人の一団が、チサちゃんに頭を下げる。


「勉強になった」

 チサちゃんは満足げだ。


「ボクなんかを受け入れてくれて、ありがとうございます」


「ありがとう。いつでも、オレンジを食べにいらして」 

 おばあさんから大量のオレンジを受け取って、農地の調査は終わった。

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