第4話 幼女愛されすぎおじさん

「もう一度、説明していただけます?」


「魔王チサ様の玉座という重要な任務が、あなたに与えられました。誰もマネのできないことであり、魔族の誉れであります。ウソだとお思いでしょうが、魔王様のお背中をお守りするのですから、立派な仕事なのですよ?」


するとボクは、幼女の玉座が再就職先ってコト? マジかよ。


「ただですね、予算が不足しておりますので、日本人の平均年収の二倍しか提供できません」


「それだけもらえれば十分ですよ!」

 どんな金銭感覚してるんだ。


「いいえ。せっかく玉座になっていただくのですから、こちらも誠意を見せねば」

 セイさんの目が本気だ。


「いや、あの。冗談でしょ?」




「決して不得意というわけではないのでしょう?」




 何もかもお見通しと言いたげに、セイさんは図星をつく。



 なぜか、ボクは幼女を引きつけてしまう。

 友人や知り合いの子どもは、やたらとボクの膝の上に載りたがる。


 ボクにそんな趣味はないのに。


 女性に話しかけようとすると、必ず小さな女の子がボクの上に鎮座するのだ。

 友達のきょうだいだったり、近所の子だったり。


 そのせいで、ボクはよく既婚者と間違えられた。

 まったくそんな経験なんてないのに。


「好きな女の子がいても、その妹さんの幼女がボクに懐いちゃうこともありましたね」

「ある意味、特殊技能かと」

「褒められたもんじゃありませんよ。その子だって、大きくなったら別の男子とくっつきましたから」


 心理学の本によると、大人の膝上に子どもが載るのは、「気持ちが落ち着く」行為なのだとか。

 守られているという感情が働くらしい。



 ボクが失業したのも、この体質が原因と言っていい。


 課長の家に遊びに行ったとき、家には奥さんと、七歳になる娘さんがいた。


 娘さんはボクの膝の上に載って、「このおじさんとけっこんする!」と言ったのである。

 それが、課長の逆鱗に触れた。


 ブラックもいいところだが、本当である。


「理不尽な上司ですコト」

「おっしゃるとおりで」


 もう恨んでないけれどね。

 呆れが怒りを通り越してしまったから。


「まさに、幼女に愛されすぎおじさんですね」

「いや全然嬉しくない!」



「誇ってくださって結構です。我々が求めていたのは、そういった人材でしたので」



 異世界ってやはり不思議な世界だな。



「ご安心を。魔王は玉座を現地調達することが伝統ですので。チサ様の母上も、幼少期に同じ体験をなさっています」



「異世界で、幼女をはべらすのは犯罪では?」



 日本だとまず間違いなく、事案呼ばわりされるだろう。



「遠慮はございません。好きなだけはべらせてください。魔王さまも、それを望んでおられます」

 堂々と、セイさんは言い放った。


 いや、望んではいないでしょ。

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