第3話 魔王のイスに再就職

「地球支部ってコトは、他の星にも、異世界があるってわけだよね?」


「ええ。人類が住んでいる土地は、地球だけではないので」


 とんでもない情報をゲットしてしまった。

 宇宙の歴史がひっくり返るような発見だぞ。誰も信じないだろうけどな。


「魔王ってコトは、地球に悪いことをしに来たのです?」

「我々の目的は、自治です。魔王さまの定住する土地を探していました。侵略するつもりではないですね」


 セイさんによると、地球を支配するのではなく保護が目的なのだとか。


 なら安心だ。てっきり、ボクも食べられるのかと思った。


「えっと、ボクって死んだんですかね?」


 異世界と言えば転生だ。

 なんらかの原因で死に、異世界で人生やり直しってのが鉄板だが。

 よりにもよってイスとして転生しました、ってのはカッコつかない。


「いいえ。あなたはご存命です」


 イスとして転生したのではなくて、転移らしい。


 たしかに、ボクはイスに生まれ変わったわけでも、イスに改造されたってわけでもない。

 ボクの身体はボクのまんまだ。

 ただ、あぐらをかいているだけ。


 チサちゃんが、ずっと座っているけど。


 考えても仕方ないか。ボクも山盛りのカレーを流し込む。


「ボクが選ばれた決め手は?」

 空になったカレー皿を置き、ボクは自分を指さす。


「あなたのマナです。地球上でもっとも、チサ様とシンクロなさっていました」


「先ほども話がありましたが、マナって?」


 RPGではよく聞く用語だけど。法則性も同じなのかな?


「マナとは、この世界を構築する魔力の総称です。あらゆるものが、魔力を圧縮してできています」


 チサちゃん、いや、チサ様がボクと目を合わせる。

 しばらくすると、身体ごとボクの方へ向けてきた。

 顔が近い。


「あんぐ!」


 何をするのかと思ったら、ボクにマシュマロを食べさせた。

 チョコレートが掛かっていて、口の中に甘い味が広がる。


「よろしくおねがいします」


 魔王チサ様が、ボクに挨拶をしてきた。

 まるで小学生の朝礼だ。


「こちらこそよろしくお願いします、チサ様」


「チサ。チサでいい」

 ボクは、チサちゃんに敬意を払わなくていいらしい。


「じゃあ……チサちゃん?」


 チサちゃんは満足したのか、また食べる作業に戻った。

 正解だったようだ。


 やっぱり、魔王には見えないな。

 って、そうじゃなくて。


「困りますよ。地球で就職しないと」

 ハロワを巡らなければ、当面の生活費も払えない。


 ボクはゲームもやらないし、嗜好品の類いは食べ物くらいだ。

 それでも、生きていくには金は要る。


「ご安心を、大毅さま。魔王チサ様の玉座という職を得ましたので」


 何を言ってるんだ、この人?

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