第5話 幼女を寝かしつけるのは、簡単な「大」仕事

「大毅さま、もっとチサ様をギュッと抱きしめなさっても、よろしいのですよ」

「さすがにそれは」

「ご本人も、それをお望みです」


 やたらセイさんが、チサちゃんとのスキンシップを催促してきた。


「こ、こうですか?」


 後ろから、ボクはチサちゃんを抱きしめる。


 全力で、チサちゃんはボクにもたれ掛かってきた。


「お、おおお!」

 なぜか、セイさんが感嘆の声を上げる。

 資料を取り落とし、両手で口を覆った。


 ボクの膝上で、チサちゃんは寝息を立てている。

 腹を満たし、満足げだ。


「チサ様が、おやすみになっておられます!」

 涙声で、セイさんが感動に打ち震えていた。


「大げさな。単にお腹がいっぱいなんでしょ?」


 チサちゃんは、ボクの分までしっかり食べ終わっていた。

 子どもなのに、柔道経験者の食事量をあっという間に平らげたのである。

 そりゃあ、ぐっすり寝るよね。


「そうではありません。あなたはご自分のお力を、過小評価なさっておられます」


 これが、ボクの力なの?


「チサ様はこれまで、数日間おやすみになっておられません。一睡もしていないのです」


 親と放されたショックで、不安になって眠れなかったのだという。

 玉座捜しも暗礁に乗り上げていた。


「それがどうでしょう! このおやすみぶり。まさに、あなたは我々が探し求めていた玉座です。玉座オブ玉座です」


 この人、たまーに頭悪そうな発言をするよな。


 急に、セイさんがマジメモードになる。


「魔王の子孫として生まれると、嫌でも外界へ放り出されます。あらゆる経験をして、立派な魔王になることを義務づけらるのです。チサ様に必要なのは、癒やしなのです」


「その癒やしを提供できるのが、ボクしかいないと」


「あなたはチサ様に安らぎを提供できる、唯一のお方です。いかがでしょう。永久就職をご検討なされては」


 チサちゃんの身の上を知ってしまった以上、断るわけにもいかないか。


「分かりました」


 どうせ、再就職しようにも難しい。

 だったら、玉座にでもなんでも、なってやろうじゃないか。

 ちょっと倫理的に問題があるけど。


「諸注意として、ただ座っているだけではございませんので。割と疲れる仕事ですよ」


 結構、疲れる仕事って言われても。


 ずっとチサちゃんがボクにもたれかかっているが、ボクは別に足も痺れていない。

 腰や背骨が痛んだりもしなかった。


 少女たちからの過度なスキンシップで、慣れているからかも知れない。

 お腹がちょっと汗ばんだりはする。

 けど、それはチサちゃんも同じ条件だ。


「具体的に、何をすればいいんですか?」

「明日の朝、お話し致します。今夜は、お休みになってください」


 え、今って夜なの? さっきまでお昼だったんだけど?

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