第23話

「ヘラルド!」


その俺の目の前に現れたのは、カズコとレオンだった。


「どうした、なにやってんだお前。迷ったのか?」


「探してたのよ」


カズコもそんなことを言う。


「……、あぁ、俺も、お前らを探してたんだ」


2人の前には、スクールの警備ロボがいた。


「一緒に、避難するか?」


レオンのその声に、俺は自分をつかんでいる機動ロボを見上げた。


「降ろして、みんなと一緒に、避難する」


機動ロボの内部で、何かがチカチカと光っていた。


それと呼応するように、警備ロボの表示ランプも点滅する。


「すみやかに避難してください」


ゆっくりとアームが動いて、俺は丁寧に床に降ろされた。


「ありがとう」


そう言うと、機動ロボは通常移動型に体を変形させた。


そのままゆっくりと、巡回警備に戻る。


俺は、レオンに顔を向けた。


「どうやってやったんだ?」


「ふん、チートツールってのはな、こういう時に使うんだよ」


警備ロボの後ろには、有線のコントローラが繋がっていて、操作をしていたのはレオンだった。


「これで、ジャンのところまで行けるのか?」


「そんなところまで行こうとは、思ってないね」


カズコまでにやりと笑う。


俺たちは、ゆっくりと歩き出した。


薄暗い廊下を、警備ロボの灯りを頼りに進んで行く。


「どこにいくつもりだ」


「ジャンたちがルーシーを使って、スクールの全機能を停止させてしまったんだ」


「どういうこと?」


「管理ルームが完全に機能停止している。全てを手動で操作しないといけない状態なんだ」


俺たちは、暗い廊下を歩いていく。


見慣れた場所だから恐怖は感じないが、灯りがないというだけで、建物の中はこんなに暗くなるんだな。


頭で考えるのと、リアルに体験するのとでは、脳に刻まれる記憶の深度が違う。


「それでも、電源だけは確保されていて、中のロボットたちも動けるし、まぁ、乗り込んできたキャンプベースの大人たちにとっても、そこはお互いに譲れないところだよね」


扉の前に立った。


レオンの説明の通り、いつもなら自動で開く扉が開かない。


彼は警備ロボのコントローラをカズコに渡すと、ロボットの側面から小さなバールのようなものをとりだした。


それを、両開きの扉と扉の間にあるわずかな隙間に引っかける。


彼が力を込めてバールを傾けると、そこにわずかな隙間が出来た。


カズコが有線の警備ロボを操作する。


その隙間にアームを差し込むと、彼らは物理的な力業で扉をこじ開けた。


「こうやって全部の扉を通って来たの?」


「そうよ、これだからアナログって嫌いよ」


リードで繋がれた犬を連れて歩くように、カズコは部屋に入っていった。


そこは、屋内プールの管理ルームだった。


「なんで、ここ?」


レオンの説明にあった通り、すでにネットワークは切断され、管理設備は一切作動していない。


「ジャンたちは、最上階の競技場に陣取ってるわ」


「まぁ、あそこは元々、エリートアスリート種のたまり場みたいなもんだったから」


同じアスリート種の奴らが集まって、さかんにスポーツが行われていた。


「そう、彼らの作るサークルのブースには、何でもあったのよ」


そう言われれば、確かにそうだ。


ロッカールームにシャワールーム、簡単な治療が受けられる保健室に、マッサージルームまである。


「そして、栄養管理のための食堂もね」


「籠城するつもりなのかな?」


「たぶんね」


俺がカズコと話している間、レオンはずっと部屋の中で何かを探していた。


「それにはもちろん、キャンプベースの人たちも気づいたの。屋根の上からドローンを飛ばして、物資を調達することも可能だった」


「それで屋根が閉められたのか」


「ドームの屋根に登ったの?」


「昔を思い出したんだ」


レオンは笑って、カズコは呆れた顔をした。


「あはは、懐かしいな!」


「ホント懲りないわね、あなたたちって」


「だけど、それなら継続した籠城は難しくなった」


「そうね、そして水道設備も止められたわ」


「じゃあ、一日ももたないじゃないか」


「サークルルームや、食堂に残っている備蓄量を考慮しても、それほど長くはないでしょうね」


レオンが、何かを見つけてその扉を開けた。


「あった!」


「だから、私たちはその止められた輸送経路を通って、競技場まで行くの」


レオンは手にしたバールで、床板をはがした。


そこには、構内に張り巡らされた内部流通トンネルの一部があった。


「これに乗って行けば、競技場までいけるはずよ」


「だけど、どうやって?」


レオンは、警備ロボを輸送板のハンドルに繋ぐ。


「ここの動力も停止させられているの、本当は外から侵入すれば、もっといろいろ持ち込めたのかもしれないけどね」


「そうよ、いきなりスクールに駆け込んでいくなんて、いくらなんでも頭悪すぎ。ヘラルドも、もうちょっと考えなさいよ」


カズコはツンとすました目で、いたずらに俺を見上げる。


「こういうことを学ぶために、私たちはスクールに通っているのよ」


「あぁ、それはどうも、すみませんでしたね」


足元の搬送台が、ぐらりと動いた。


「で、どうするんだよ」

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