第14話

そうやって迎えた本番、定期的に開かれる校内の対抗戦とあって、ギャラリーの数はさほど多くはない。


だけど、参加者とトーナメント戦の順位によって、自分の成績に加点されるとあって、出場チームのやる気は本物だ。


「お前らが出るって聞いてな、審判役になってやったよ」


ジャンがチームの様子を見に来る。


今回の出場チームは、6チーム。


参加登録して本戦に出場するだけでも、加点があるからありがたい。


ジャンの視線は、自然とルーシーに向かう。


「コイツも乗れるようになったのか?」


「まぁね、楽しみに見ててよ」


俺がそう言うと、彼は笑った。


「せいぜい、泣かせないようにしろよ」


チームの出場は2戦目、カズコとニールは対戦相手になるかもしれないチームの戦力分析と戦略を、熱心に語り合っている。


「ルーシーは、困ったらヘラルドに機体の操縦を任せるんだよ」


レオンは最後に、彼女にそう声をかける。


「たぶん、すぐにヘラルドが操ってるってバレるだろうけど、そしたらルーシーに意地悪してくることも、少なくなるから」


レオンの言葉を、どれだけ理解しているのかは分からないが、彼女は緊張した面持ちで、力強くうなずいた。


試合終了のホイッスル。


荒れたフィールドが、新しいものと入れ替わる。


「よし、スタンバイだ」


俺たちは、定位置についた。


前衛にニールとレオン、後衛に俺とルーシーがいて、最後尾に司令塔としてのカズコがいる。


相手チームは攻撃に3機、守備に2機の配置だ。


無理もない、ルーシーがほとんど役に立たないであろうことは、相手側にも容易に想像できる。


攻撃により多くの配分を与える方が、今戦は有利だ。


試合開始のホイッスルが鳴った。


フィールドに得点源となるクラッシュボールが現れた瞬間、ニールとレオンの機体が動く。


すぐに、相手の攻撃機を一体ずつ封じ込めた。


そこをすり抜けた相手チームの1体が、フィールド上に置かれたボールへ向かう。


カズコの機体から遊離した子機5体のうちの1体が、先にボールをつかんで浮き上がった。


しかし、機動力の高い、人間のライドしていない子機での得点は認められていない。


ボールをつかんだカズコの子機は、30秒以内に誰かにパスしなければ、クラッシュボールが爆発する。


「ルーシー!」


相手チームからノーマークのルーシーに、ボールが渡った。


彼女がそれを受け取った瞬間、俺はシンクロ率を95%にまで引き上げる。


まっすぐに動くゴールエリアへと向かう彼女の機体を、俺は正確にサポートする。


相手チームの隙をついて、先ず1ポイントを稼いだ。


「やった!」


嬉しそうな彼女の顔に、俺はシンクロ率を引き下げる。


ここからが本番だ。


ニールとレオンは、ゴールエリアの動きに合わせて、得点しやすいポジションを確保するよう、相手の攻撃をかわしながらその位置を保っている。


カズコは子機を駆使し、ボールを拾って、その時々で得点しやすいポジションにいる仲間に、パスを渡す役割だ。


俺は空いている空間に割り込み、パワーで劣る子機からのパスを、ニールたちに繋ぐ。


子機からのパスを受け取った俺は、ボールサインをチェックする。


それは赤の点灯からの点滅を始めていた。


最初につかまれてからの20秒を迎え、残り5秒の合図だ。


それを俺は、相手チームの機体に向かって投げつける。


パスカットに入ろうと、レオンとの間で邪魔をしていた相手機が、さっと身を引いた。


クラッシュボールは爆発し、レオンの機体に衝撃を与える。


「レオン、ごめん!」


「悪い、俺もちゃんと見てなかった」


フィールド中央に現れた新たなボールを、最初につかんだのは相手チームの機体だった。


ゴールエリアまでのルートを確保すべく、相手チームの機体が、俺たちの動きを封じにかかる。


ルーシーは全体の早い流れに、やはりついていけずにいた。


どう動いていいのか分からない彼女の機体が、ふらふらと宙をさまよう。


2体に挟まれて動けない俺は、ルーシーの機体を動かした。


カズコの子機が、ゴールエリアの守備にまわる。


相手チームがゴールへ向かって投げたボールを、カズコは上手くたたき落とした。


青のボールが、黄色に変わる。


残り20秒の合図だ。


こぼれ落ちたボールをとりに、ニールの機体が走る。


俺は直ぐさま、ルーシーの機体がニールの邪魔にならないよう、ゴールエリアから遠ざける。


その瞬間、彼女の機体がぐらりと傾いた。


「あれ、どうした?」


俺は、ルーシーの機体の出力をあげた。


全力で上空に舞い上がるはずのそれは、指示を全く受け付けず、ふらふらと失速する。


ボールを取りに走ったニールの機体と、ルーシーの機体が激しく接触した。


その瞬間に、相手側にボールが奪われる。


コントロールを失った機体は、ニールを巻き込んで地に落ちた。


このゲームに、試合の中断など存在しない。


ゴールを決められたその瞬間、クラッシュボールは爆発し、次のボールが現れる。


墜落した2機に注意を奪われている間に、再びゴールを決められた。


「ルーシー!」


ニールの怒鳴り声が、会場に渦巻く歓声の合間に聞こえる。


「ニール、早く機体に戻れ!」


マイクから聞こえるレオンの呼びかけに、彼は自分の機体を立て直した。


すぐに上空に舞い上がる。


俺はカズコの子機のサポートを受けながら、ゴールエリアを守るのに必死だ。


レオンの機体が応援に駆けつけた時には、さらに1点が追加された。


ニューボール出現位置に、カズコの子機が控えていた。


現れると同時につかんで、飛び上がる。


相手機からのマークを振り切ったニールに、パスがまわった。


俺についていた相手の機体が、ニールへ向かう。


俺はルーシーとの機体のシンクロ率を、100%にあげた。


「ルーシー! そのまま何もしないで、座ってて!」


操縦席で混乱していたルーシーが、大人しく操縦桿を握った。


そのタイミングで、急上昇させる。


ニールの開発したミラープログラムを使って、ゴールエリアを起点に、点対称な動きをさせるよう設定した。


ニールのパスが、ルーシーに渡る。


俺はそれを動かして、カズコの子機にパスを出し、カズコはそれをレオンに送った。


残り20秒、こちらの攻撃態勢が、ようやく整った。

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