第23話・計画通り……ですデュフフ

 興行レスリング研究会と、そして大石先輩とのゲーム勝負が終わって、月曜日のお昼休み。

 生徒会室のある旧校舎【真緒まおの校しゃ】の一室、文芸部室を兼ねた旧図書館予備倉庫に、かいさんが入って来ました。

「…………??」

 扉の鍵が開いてるのに、わたしの姿が見えず、海さんは不思議がっています。

 しかし、どうせお花摘みだろうと思ったのか、すぐに気を取り直してパイプ椅子に腰かけます。

「なんだこれ」

 ――そして会議机に置かれた1冊の本に気づきました。

「なんだこれ…………なんだこれ⁉」

 開いて中身をのぞき、顔を真っ赤に染める海さん。

 もちろんBL本です。

 裏のない健全な同人作品ですが、イケメンさんたちが抱き合ったりチュ~したりと、なかなか刺激的な内容になってます。

「こ……ここここここここれは一体⁉」

 そして床を見ると、いま読んだ漫画によく似たうすい本が落ちていました。

 1冊、2冊……3冊。

 まるでヘンゼルが道しるべに置いた白い小石のように、見た人を導くかのごとく並んでいました。

 もちろんわたしが置いたものです。

 ページが折れないように、紙に変なくせがつかないように、そして汚れないように、それはもう丁寧ていねいに丁寧におがみながら。

「この先になにが……?」

 海さんは罠への道のりを慎重に歩きます。

 そして……。

「ぐぇあっ‼」

 とうとう発見してしまったのです。

 本棚の裏側で壁際かべぎわにある、いまは使われていない暖房器具のとなりに空いた空間を利用して作られた、BL本を大量に並べた隠し本棚を。

「まさかこれが伝説の【文芸部お宝本棚】……⁉」

 そして伝説になってるんですか知りませんでした。

「うむ……ふむふむ。う~んこれはそのアレだ凄いな」

 とうとう読みふけってしまいました。

 掛け算の世界へようこそ。

『……これは2番目のタスクも達成できそうですね』

 わたしは別の本棚に隠れて、順調に腐化ふかせんとBL本に熱中する海さんを見守ります。

 武道をたしなむ海さんなら、気配の探り方くらいは知っていそうなものですが、あいにくわたしもFPSなどのゲームで、気配の消し方を心得ていました。

 そう、これは潜伏ミッション。

 芋砂いもすな(芋虫みたいにい回るスナイパー)は得意分野なのです。

 その時……。

「よかった、繭美まゆみ先輩はいないや……あれ? 海ちゃんいたんだ」

 計画通り紫焔しえんくんが現れました。

「!!??!!??!?!?!!????……わあっ‼」

 海さんは頭上に【!】マークを出して(幻覚です)、大慌てで薄い本を棚に戻そうとして失敗、周囲にき散らしてしまいました。

「ひひひひ姫……じゃない紫焔⁉」

「なにしてるの?」

「いやこれはそのマズい逃げるぞここはヤバい‼」

 ようやく気づきましたかニブチンですね。

 できれば第3のタスク【紫焔くんを腐男子化させる】も達成したかったのですが、さすがにそこまでは無理があったようです。

「紫焔はここにいちゃいけない! 繭美先輩が戻って来る前に、ここから出るぞ!」

「えっ? 海ちゃんなにがあっ……わあっ⁉」

 まだ手をつけていないお弁当を回収して紫焔くんの腕を引き、文芸部室から連れ出す海さん。

 ……バラ撒かれた薄い本を無視して。

「あとは頑張ってくださいね、紫焔くん」

 第1のタスクにして最大の目標は【海さんの計画を粉砕して紫焔くんとくっつける】。

 前半部分はわたしの領分ですが、後半は紫焔くんの手管てくだにかかっています。

 チュ~までは期待できませんが、告白が成功すれば、わたしの勝ち。

 無事にカップリングできればいいのですが、できなくても紫焔くんとわたしをくっつける海さんの計画は破綻するでしょう。

 なにせ本人(しかも美少年)にその気がなく、しかも恋愛対象が自分だと言われて、それでも他人とカプらせようと考える人はいませんからね。

 では後片づけを始めましょうか。

「よかった本は無事ですね……あららん?」

 杖で移動して散らばった本を回収してみると、文庫本が1冊足りません。

「これは第2タスクも達成ですかね?」

 タスクの内容は、もちろん【海さんの腐化】。

 きっとお弁当箱に重ねて脱出したのでしょう。

「これからラブシーンだってのに、難易度上げまくりですよ海さん」

 体育倉庫か学校裏から知りませんが、紫焔くんにBL文庫本の存在を隠したままクリアするのは難しいと思います。

「これはひょっとすると第3タスクも……」

 海さんと紫焔くんをカプらせて、なおかつどちらも腐化させる。

 うまく行ったら2人とも来年度から文芸部員です。

「あの文庫本を紫焔くんが読めば……まあ、ありえませんけどね」

 いやいや可能性はゼロではありません期待しましょう。

「それはともかく、とりあえず告白ですよね」

 できればのぞいて成否を確認したいところですが……。

「……興味ないですね」

 わたしは異性愛ではなく、殿方同士のイチャラブが見たいのです。

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