第22話・探しものは見つけにくいものですデュフフ

『それでは次のプレイヤー、ゲームセンター・ユーサーこと勇者チーム主将、高等部1年A組、文芸部副部長~、遊佐繭美ゆさまゆみ~っ‼』

「「「おおおお~~~~~~~~っ!」」」

 湧き立つ歓声。

 本戦では見られなかった勇者勢主将の参戦に、ギャラリーの注目が集まります。

「ちっこい……」

「こいつ動くぞ!」

「胸は大きいな……お腹も」

 ほっといてください。

 メイド服は紫焔しえんくんに、眼鏡の女神様の称号は小路こみちちゃんに取られてしまったので、わたしの特徴は、いまのところ【胸もお腹も大きなメガネチビ】でしかありません。

 これを【ゲームの上手いメガネチビ】にするのが当面の目標です。

『では繭美選手、席についてください!』

 大石先輩のポイントは2億点(端数はすう切り捨て)でした。

 どうやら1億点ボーナスの条件は、1面と最終面だけしか知らなかった、もしくは取りそこねた模様。

 わたしは3ステージ知ってますが、3億点はまだ取った事がないので、普段の実力以上を出さないと勝てない勘定になります。

「……いつも通りにしましょう」

 無理して2億点すら取れなかったら、シューティングゲーマーの名折れですからね。

『始めてください!』

 わたしはテーブル筐体きょうたいに銀の力(百円玉)を投入、スタートボタンを押してダンボールに顔を突っ込みました。

「まゆちゃん、勝っても負けてもうらみっこなしだぞ。がんばれ!」

 真緒姉まおねえの声援は無視します。

「はてさて、どうやって場を盛り上げましょうかね……?」

 大石先輩の合計2億点ボーナスでギャラリーは高揚しているものの、全ステージノーミスクリアに、かなりの時間を要しているので、そろそろきが来る頃合いです。

 これをどう乗り切って目立てばいいものか……。



 ――数十分後、全ステージをノーミスクリアしました。

 しかし……。

「負けました」

 わたしの称号は【胸もお腹も大きなメガネチビ】に決定です。

 大石先輩と同様、1面と最終面で合計2億点のボーナスでクリアしたものの、途中の1億点ボーナス発生条件を満たせず、端数はすうと割り切っていた8けた以下のポイントで勝敗が決しました。

 他のステージで1憶点ボーナスへの挑戦をあきらめて、ロボを失わず1千万点ボーナスを狙えばよかったのですが、それはわたしのプライドが許しません。

 ぶっちゃけ、わたしはポイントだけの勝利を望んでいないのです。

 先輩のノーミスプレイのあとなので、わたしの番になると観客の興味はうすれます。

 たとえ端数で勝ったところで、先輩の注目度を超えられる訳がありません。

 ゲーマーは目立ってなんぼ、ギャラリーの目を合計3億点ボーナスで、モニターに釘づけにしてこその完全勝利なのです。

 なにせゲームが古すぎて、素人さん受けする要素が1億点ボーナス以外にありませんから。

「先輩の勝ちですね。わたしの完敗です」

 ダンボールから顔を出しての敗北宣言。

 ギャラリーは無言。

 そして大石先輩は……。

繭美まゆみちゃん凄い!」

 抱きしめられました。

「わわわっ⁉」

「私の他にも女子……しかもガチゲーマーがいるなんて思わなかった!」

「ああっ、ずるいぞ大石先輩! 私にも……」

「真緒姉はダメです」

「そんなひどいっ!」

 おにぃにBLの気がない以上、真緒姉くらいしか代用品が存在しませんからね。

 わたしに構うより、お兄とくっついてくださいベッドインは許可します。

「……おほっ♡」

 足元でメイド姿の理央りおさんが、スマホでローアングル撮影しようとかがんでました。

「ゲームで結ばれる百合のきずな……これはとうといッッ!」

 いえそのポーズで尊いもなにもあったもんじゃありませんが。

 たぶん後ろからは理央さんのドロワーズが丸見えになっていると思いますが、あまりの変態ぶりに男子たちが引いてます。

「ええいタヒね変質者!」

 わたしは大石先輩に抱きしめられたまま、筐体に立てかけた杖を取ってスマホを破壊しようと連打しますが、理央さんはゴキブリのように群衆をい回って遁走とんそうします。

「君はいい友人だったが、君の乳上がいけないのだよ……うごっ⁉」

 逃げる理央さんの首に、文芸部長さんのラリアットが入りました。

「ナイス部長!」

「あとは任せて。がっつりお仕置きしておきますから」

 部長さんは理央さんの頭部をがっちりホールドして離しません。

「スマホの画像データ消しといてください!」

「たぶんバックアップあると思うから期待しないで」

「また明日~♡」

 そう言って2人は店内から去って行きました。

「そろそろ本気で縁を切るか考えないといけませんね……」

 おそらく理央さんの荷物が近くに転がっているはずですが、まあ放っておいても大丈夫でしょう。

 ……隠しカメラがないかチェックしておかないと。

「私、もっと繭美ちゃんとゲームしたいです! 他になにかいいゲームありませんか?」

 大石先輩は1度ノーミスクリアしたくらいでは物足りないようです。

「すまんが、いまので稼働できるゲームは打ち止めだ。あとは後日、電子研に期待してくれ」

 お兄もレトロすぎて素人さんがついて来れないゲームに退屈していたようですが、動くゲームが2台しかないので、これ以上はイベントを続けられません。

 それに秋の夜はつるべ落とし、お外はすっかり暗くなっています。

「しかしチーム戦はこちらの勝利、個人戦でプロレス研の勝利。気分的には引き分けといったところだろう。電子研!」

「ははっ、こちらに!」

 電子研部長さんがササッと現れてこうべれました。

「次の勝負……競技かるた研究部との対戦もある。次になにかやるとしたら文化祭だな……いくつ用意できる?」

「動作チェックだけで済みそうな筐体は7台。当日までに、その倍はレストアが間に合う予定にございます」

 わたしの記憶が確かなら、お兄は勇者勢だったはず。

 なんで前世魔族さんたちが従っているんでしょうね?

 まるで魔王さんが2人いるかのようです。

「すまんが真由美と大石先輩の意見を取り入れてくれ。2人が得意なゲームを優先的に修理して欲しい」

御意ぎょいッッ!」

 サッと姿を消す電子研部長さん。

 何者ですかあの人。

「パソコン部はイベントの準備を頼む。文化祭当日にネットの生配信を行うぞ。学校裏サイトではなく、表のアカウントでだ。パソコン部のサイトを使っても構わん」

「ははっ!」

 パソコン部長さんはドロンと消えました。

 今度は忍者ですか。

「私も……私もなにかしたいぞ!」

 ここに我儘わがままを言い出す人が。

 本当に前世魔王なのか疑いたくなって来ました。

「生徒会長の仕事があるでしょう? それに真緒姉の得意なゲームってありましたっけ?」

「ない!」

 断言するなよ。

「ないけど練習する! 練習してまゆちゃんとゲームしたい!」

 前世魔王が駄々だだをこねてます駄々星人です。

「では鉄のナメクジさんなゲームから始めてください」

 家庭用その他諸々もろもろに、移植版や続編が多々ダウンロード販売されています。

「繭美ちゃん鬼ですね」

「できれば先輩と協力プレイしたいところですが……」

「90年代のゲームですけど……まだちょっとだけ時間ありますし、探してみましょう」

 先輩は夜道を送ってくれる屈強な彼氏がいますし、メイド服のわたしは、ここが自宅なので、いつでも着換えられます。

「あったら文化祭でイベントですね」

 古すぎて対戦モードもないゲームで勝負するより、こっちの方がウケそうです。

「他にも協力プレイのできる筐体があるかもしれません。いくつか見繕みつくろってリストを作りましょう」

「これなんかどうだ?」

 お兄が指差す筐体は……。

「それは2本のレバー操作でビルを登るお1人様用ゲームです」

「むうっ……ならば、これは?」

「それは2つの矢印を操作して縄張りを主張するお1人様用ゲームです……お兄には任せておけませんね。さっさと探しちゃいましょう」

「そうしましょう」

 あはは。

 うふふ。

 おほほ。

 わたしたちの時間は、まだ始まったばかりなのです。

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