第18話・デュフフ……お主もワルじゃのう

『次の挑戦者は中等部1年~華道部必修~、鳴道小路なるみちこみち~っ! 前世は人類勢の姫づき女中長~‼』

「「「おおおおおおおお――――――――っ‼」」」

 ざわめき立つギャラリー一同。

「メイドだ! 前世とはいえ本物のメイドさんだ!」

「しかも眼鏡めがねっ娘……いわばメガメイド!」

 なんかロボっぽいネーミングですね。

丸縁まるぶち眼鏡とはなんてマニアックな……」

 写真部や新聞部の撮影だけではき足らず、各自スマホを向けて画像や動画を記録するみなさん。

 ゲーセンにミニスカメイド姿の前世本職メイドさんが眼鏡の女神様として降臨した瞬間でした。

「では不束ふつつかながら」

 筐体きょうたいの前に置かれた椅子に座り、ダンボールに顔を入れる小路ちゃん。

 相変わらず間抜けな絵面で……。

「こっ、これは……っ⁉」

「背筋がなんとも美しい……‼」

 必修とはいえ、さすがは華道部。

 姿勢がよすぎてギャラリーも大興奮です。

 そして始まるBGM。

 昔のゲーム筐体は、プレイが始まるまでデモ画面の効果音しか出ない、あるいはまったくの無音で、スタートボタンを押すと周囲にわかる仕様になっているのです。

「なるほどニンマリさん使いさんでしたか」

 小路ちゃんが選んだのは、ニンマリ笑顔が可愛らしい、しゃくれアゴの黒パンツさん。

 耐久力は低めながらも平均的な能力を持つオールラウンダーさんでした。

「しかも上手うまい!」

 結論から言うと、小路ちゃんはむっちゃ強いです。

 振り向きパンチはもちろん、相手をロープに投げてのカウンターホールドなど、攻略技はすべて会得している模様。

――そして退屈な時間が始まりました。



「……これ、いつまで続くんですかね?」

「あっ、また入った」

 必殺技の延髄斬えんずいぎりが炸裂しました。

 そしてツリ目さんにフォール、スリーカウントで2戦ストレート勝ち。

 これで4度目の勝利です。

 ちなみに倒した相手は画面下に遺影いえいが並びます。

「暫定1位になったのはいいんですけど、適当なところで終わしてくれないと、むしろ場が盛り下がりますよね」

 単調なゲームで、誰を使っても誰が相手でも勝っても負けても同じ展開。

 昔のゲーマーさんは、こんなのを夢中になってプレイしてたんですね尊敬しちゃいます。

「私、もう少しメジャーなゲームをするものだと思ってました」

 わたしと似たような方向性のゲーマーである大石先輩は、わたしと同じような感想をいだいた模様。

「某歴史的大ヒット作な侵略者ゲームとか?」

「そこまでは期待していませんが、せめて戦略的穴掘りゲームとかネズミの巡査さんとか……」

「わたしは動かないゲームには興味ないので、店内のラインナップを知らないんですけど……うちのゲーセンって、かなりアレな感じだったみたいですね」

「他にはどんなゲームがあるのでしょう?」

「どうせしばらくひまですし、ちょっと見て回ります?」

 小路ちゃんのプレイは当分終わりそうにありません。

「そうしましょう」

 わたしは次の勝負に使うゲームを知ってはいけない事になっているので、お兄や真緒姉などの関係者さんたちに見つからないように、人だかりをこっそりくぐり抜けて店内を歩きます。

「そういえば一昨日おととい、電子研の人たちが復旧ふっきゅうさせた筐体きょうたいがありましたね」

「なんでしょう? 縦シューでしょうか?」

「うちがゲーセン始めたのは、確か80年代中盤ですから……いえ中古で導入した筐体があってもおかしくないですね」

 ナニがあっても不思議ではありません。

「核ミサイル迎撃ゲームとかあるといいんですけど」

「斜めシューとかだったら、むしろ怖いですね」

「ムチ持った考古学者さんなゲームやりたいです」

 そうこう話しているうちに、それらしい物体が見つかりました。

「……ひょっとして、これじゃないでしょうか?」

 うっすらとほこりかぶったテーブル筐体の中に、一台だけ妙に手入れをされたものが鎮座ちんざしています。

 電源は……つながっていません。

 その代わり、天板ガラスにインストラクションカード(タイトルや操作法が記された短冊たんざく)がってありました。

「えっと……わたしこれ移植版持ってますやり込んでます」

「奇遇ですね。私もです」

 中古で手に入れた古い家庭用ゲーム機で散々やった、オリジナルは85年くらいにリリースされたレトロゲーム。

「これは縦シューと言っていいんでしょうか? ちょっと違う気がします」

「だから私もやり込んだんですよ。全方向アクションに近いゲームですよね」

 これやりたい勝負したい。

 大石先輩の目が、そう語っていました。

「……先輩、提案があるんですけど」

「やっぱり繭美まゆみさんとは気が合うみたいですね。たぶん私とおんなじ事考えてます」

 小路ちゃんが延々えんえんとプレイを続けて会場がダラダラと盛り下がる中、わたしたち2人は物陰ものかげでクスクスとほくそ笑みました。

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