第17話・今夜のオカズはこのネタに決まりですデュフフ

 かいさんは瞬殺されました。

面目めんぼくありません!」

 土下座する海さん。

「いえお兄のポイントは越えてますしビリじゃないですよ?」

 なんと下から3位です!

「内藤はこれでも上手うまい方だったのだが……」

 お兄はフォローを入れようとしてるのか、それとも残念がっているのか。

 まあブービーさんでは海さんを非難できませんからね。

「ヌルテカ温泉饅頭まんじゅうさんに当たったのが運の尽きです。次に期待しましょう」

『次の挑戦者は中等部1年、茶道部必修~、姫宮紫焔しえん~! 前世は人類勢の王国第1王女~! 割と序盤で勇者一行に救出されたとらわれの姫君~っ!』

「「「おおお――――っ‼」」」

「そ、そんな恥ずかしいから前世の話はやめてください!」

 両手をバタバタ振って司会を黙らせようとするメイド姿の紫焔くんですが、真緒姉に片手で襟首えりくびつかまれて身動きがとれません。

「これは可愛らしい!」

「さすが姫君! しかもメイド!」

「お姫様カワイイ~♡」

 男女問わず大人気でした。

「文化祭のミスコンが楽しみですな」

 すでにメイド服という前科ができてしまったので、推薦エントリーは確実でしょう。

 わたしもおとぅの一眼レフカメラを借りて見に行くつもりです。

『ついでに勇者の婚約者~っ!』

 司会のパソコン部長さんが、坊ちゃんりメイドさんにトドメの一撃。

「ああもうやだぁ……」

 早くも泣きそうになってますよ紫焔くん。

「ついでになにを隠そう俺が姫をさらった張本人だ!」

 プロレス部員さんの一人、先鋒さんが現れます。

 確か前世は岩鉄元帥さんの部下Aさんでしたっけ?

「いかにも薄幸はっこうそうな美少女だった……と思う!」

 前世については視覚情報や知識がごっそり抜けてエピソード記憶しか残ってないので、美醜の判断は難しいところです。

 しかしお兄の大賢者さんのように、世間の話題になるほどの美女なら話は別。

 異種族に人間のルックスを判断できるとは思えませんが、おそらく人型魔族か人類勢の情報が耳に入ったのではないでしょうか?

 岩石人間でも知ってるくらいですから、どうやら紫焔くんの前世は、少なくともアイドル級には可愛かったようですね。

「とりあえずは俺を倒せ! それから遊佐ゆさ先輩といわお副部長を倒し、見事1面を突破してみせろ!」

 一見、激励げきれいしているように見えますが、とてつもなく低次元です。

「……は、はいっ! 頑張がんばります!」

 先鋒さんにサムズアップされて、どうにか士気を回復した紫焔くん。

 気合を入れてテーブル筐体きょうたいに向かいます。

 そしてやっぱりダンボールに顔を突っ込みました間抜けな絵面です。

「なるほど人間山脈さんですか。これならそれなりに戦えそうですね」

 紫焔くんが選んだのは、頑強がんきょうでなかなかピヨらずフォールされても脱出しやすい肩幅かたはばさん。

 一部の基本技が使えないのが欠点ですが、攻撃力は高め。

 ただし……鈍足どんそくであまり初心者向けではありません!

「ああっ!」

 1勝1敗になって、3戦目でアゴのズレたツリ目のお兄さんを場外に引きずり込んだまではよかったのですが、そのまま両者リングアウト。

 しかしポイントは……。

「姫宮勝利!」

 夢の1面超えは達成できなかったものの、暫定1位に輝きました!

「やったな紫焔くん! 君は前世より確実に強くなった!」

 先鋒の部下Aさんが、さわやか笑顔で紫焔くんの勝利をたたえます。

 さすがプロレスラー、気持ちのいい応援でした。

「あ、ありがとうございます。これも先輩のおかげです」

 敵味方のさかいを超えて、泣きそうなところに気合を入れてくれた大恩人ですからね。

「いやなに、前世の姫君は、あまりにも線が細くて気になっていたのだ」

 誘拐犯に心配されるなんて、どこまで気弱だったんでしょうお姫様。

「次の勝利を楽しみにしてるぞ!」

 先鋒さんの目が語っています。

『次のミス判田はんたは君だ!』と。

「はいっ、頑張ります!」

 なにも知らない紫焔くんは、数日後に予定されている競技かるた研究部との勝負に気炎をげています。

「まあ気合入ったならいいんですけど……」

 なんか怪しい雰囲気です。

 今夜はレスラーさん×女装メイドきゅんをオカズにデュフフな妄想にはげめそうな予感。

 年末のうすい本はこのネタで決まりですね。

『次の挑戦者は~高等部1年……』

 名前は紹介されたものの……。

『前世記憶なし! 本大会初の無前世参加者です!』

「「「おお――――っ‼」」」

 おおーしか言えないんですかギャラリーさんたち。

ゆえあって……というか偶然、転生者の事を知ったんですけどね。でも知っちゃったからには参加しても問題ありませんよね?」

 やけに謙虚けんきょなレスラーさんですねセコンド担当でしょうか?

「興行レスリング研究会には4人しか部員がいないんだよ」

 真緒姉が説明してくれました。

「そっか、だから受験で引退したマネージャーまで動員されたんですね」

 ゲームの腕前を買われた、というのもあるんでしょうけど。

「俺はプロレスゲームからこの道に入ったんですけど、体ができてなくて、まだ基礎トレーニング中なんです。でもゲームなら負けません!」

 ゲーマーさんでしたか。

 これは期待できそうです。

『それでは位置について~』

 司会さんにうながされて、中堅さんが椅子に座ってダンボールに顔を入れました。

『イッチバーン!』

 壁の液晶大型モニターにうつし出されたのは完璧超人さん。

 相手は手足の長い人。

 そして試合が始まった瞬間、中堅さんの完璧超人さんは相手に背中を向けました。

「おっ、初めて技らしい技が見れそうですね」

 手足さんが近づいた瞬間、振り向きざまにパンチをり出しました。

「振り向きパンチ!」

 後ろを向いてパンチボタンを連打しつつ振り向くと、一方的に攻撃を当てられる攻略テクニックです。

「ちゃんとネットで攻略法を調べて戦う人を初めて見ました……」

 果てしなく低次元な感激です。

 そしてヘッドロックやパイルドライバーが次々と炸裂し、倒れたら無理矢理起こしてピヨッてるところをロープに投げ、反動で戻って来たところに必殺技のアックスボンバー。

 そこでフォールを決めました。

『ワン、ツー、スリー』

 カンカンカンカン!

 やりました!

 敵とはいえ初めての1面突破です!

「ブラボー‼」

 おもわず声援を投げました。

 もちろん紫焔くんの記録はとっくの昔に追い抜かれています。

「まだまだこれからですよ!」

 次の相手は虎覆面ふくめんさん。

 これも振り向きパンチで有利に試合を進め、あっさり勝利。

「おおっ!」

 なんという事でしょう!

 勝っても負けても会場が盛り上がりません!

「うわぁ……」

 みんなきちゃって世間話したり他のゲーム筐体をながめたり、やりたい放題になってます。

「あっ、しまった!」

 次の試合で運悪くヌルテカ温泉饅頭さんに当たり、変な動きに翻弄ほんろうされてフォールされる完璧超人さん。

 レバガチャとボタン連打で抵抗したものの……。

『ワン、ツー、スリー』

 カンカンカンカン!

 中堅さんはゲームオーバーになってしまいました。

「すみません部長、もう少しイケると思ったんですが……」

 消沈して頭を下げる中堅さん。

「いや、よくやってくれた。吾輩ではああは行かん」

 やっぱりお飾りの副将さんだったんですねプロレス部長さん。

「さて、次は小路こみちちゃんの出番ですね」

 ふるくて操作の難しいレトロゲーとはいえ、知能の高そうな子に合計80分もプレイさせたらどうなるか。

 きっと攻略法も調べているに違いありません。

 ゲームの腕前は知りませんが、結構期待してるんですよ。

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