第16話・マーベラス! 妄想が捗りますデュフフ

「だんだん可愛く見えて来ましたねヌルテカさん」

 温泉饅頭まんじゅうが食べたくなって来ました。

 あぽっ! あぽっ!

 プロレス研先鋒さんが使う某完璧超人っぽいレスラーさんは、ヌルテカ温泉饅頭さんにやられ放題。

 ヌルテカさんは敵に回すと厄介なのです。

「この人、おにぃより弱いかもしれませんね」

 これはこれで、ある意味希少種かもしれません。

「まあ時間なかったので仕方ないとは思いますが……」

 なにせ準備期間は1日2時間ずつで2日間、筐体きょうたいが1台しかないので、1人につき合計80分しか練習できなかった計算です。

 ゲーマーなら80分もあれば楽勝でそれなりの腕前になれますが、なにせ操作の難しいレトロゲーム、初心者がそうそう上達できるものではありません。

 ネットで攻略法を見たとしても、それが使えるレベルにならないと意味がないのです。

「あっフォールされた」

 カンカンカンカンカン!

 先鋒さんはあっさりゲームオーバーになりました。

「さてさてポイントは……お兄の勝ち⁉」

 奇跡が起こりました。

 どちらも1万点を超えない極めて低次元な戦いでしたが、お兄が僅差きんさで勝利です。

「「「……………………」」」

 歓声は……きません。

 あまりにも地味すぎるのです。

「勝ってもまるでうれしくない」

 お兄はなんだかやるせないお顔になってます。

 この戦いに勝者はいません。

 どちらがより負けたか。

 なんて不毛な争いなのでしょう。

真緒姉まおねえ、これホントに勝ち抜き戦する気ですか? またお兄の底辺プレイを視聴者さんに延々えんえんと見せるんですか?」

 プロレス研の次鋒さんに期待したいところですが、その前にまたお兄が寒々しいプレイを見せつけられる訳で……。

 このままでは視聴率はかたむき、株価は底値をわり、イベント崩壊、不況が学園をおおい尽くします。

 最悪、わたしと大石先輩の大将戦まで、あの呑気のんきで代わりえのないBGMをエンドレスで聞かせられる破目になるでしょう。

「……わかった。諸君、ルール変更だ! 次のプレイヤーはプロレス研の次鋒、健司の得点を超えた時点で勝利とする! 異論はあるか⁉」

「「「おお――――っ‼」」」

 勝負が決まった瞬間にすら沸かなかった歓声が沸きました。

「これでイベントの時間が半分になりますね!」

「ただし勝利してもプレイは続行、終わり次第、敗者勢に交代。現勝者の得点超過を勝利条件とする!」

 勝ってもゲームオーバーになるまで気を抜くなって事ですね。

『次鋒! プロレス研副部長、巌柘榴いわおざくろ~っ!』

 司会のパソコン研究部長さんが次の選手を紹介しました。

 プロレス研でも唯一のマスクマンで、なんかよくわからない模様の黒覆面ふくめんかぶっていました。

「柘榴……柘榴石?」

 たしかガーネットでしたっけ?

 前世が岩鉄元帥の部下だったとすると、元帥さんより身分の高い宝石超人さんだったのかもしれません。

『巌だ! 俺は前世……大岩部長……いや岩鉄元帥の……おおおおおっと……夫だった者だ!』

「「「ええええ~~~~~~~~っ⁉」」」

 ガチマッチョBLキタ――――ッ‼

『ももももちろん部長とどうこうする気は一切ない! 大石先輩に含むところも断じてないが、しかし前世の縁あって遊佐書記には絶対に勝つ! なにがなんでも勝利し部長にささげよう!』

 これはもう愛ですね⁉ 愛に決まってますよね⁉

「がががが頑張がんばってください副部長さん応援します!」

 鼻血出そうですもう辛抱しんぼうたまりません!

「おいまゆちゃん敵にエールを送ってどうする⁉」

 それを言ったら真緒姉だって魔王勢なのにわたしとおしゃべりしてますよ?

「だってマッチョさんとはいえ前世のお話とはいえ殿方同士で元カプですよ⁉ それに覆面レスラーはイケメンさんって相場が決まってあいたっ!」

 わたしの頭頂部に、お兄のチョップが入りました。

「お前は誰を……いやナニを応援しとるのだ」

「もちろん今夜のNTRです」

 大石先輩の見てないところで具体的にはベッドの上で大岩部長さんとキャッキャウフフ……妄想がはかどります!

『俺は前世で大賢者の一撃にたおされた! 俺は勇者の経験値になれなかったのだ!』

 うらみの元はそっちでしたか。

 まあ勇者さんの経験値になってから、魔王さんが勇者さんを倒せば、それは魔王さんと一体化するのと同義かもしれませんけどね。

『その因縁いんねん、いまここで晴らしてくれん!』

 最底辺プレイで晴らせるんですか前世の因縁。

「この際だからお兄もまじえてサンドして欲しいですねフンスカ」

 きっとベッドの上なら晴らせると思います!

「ところでお兄、さっきからいろいろ聞いて思ったんですけど、前世記憶の再構築に、昔のRPGをテンプレートに使いましたね?」

 経験値とか言ってますし。

「ファンタジーな世界だったからな。魔法らしきモノや非現実的な必殺技など、ゲームに似通った要素も多い」

 前世記憶はエピソード記憶だけで、知識や名前などがごっそり抜け落ちているので、それを埋める仮の基準、設定が必要になります。

 その穴埋めに使ったのが、日本の古いファンタジーRPGの世界設定だったのでしょう。

 ちなみに魔族さんたちの名前は名前ではなく肩書きで、前世記憶に残っていた曖昧あいまいでざっくりなイメージに、適当な漢字を当てはめたものだそうです。

「さすがにステータスの数値化はできなかったが、異世界を推測、理解するのにゲームはかなり役立った」

「あえてやったんですか。わたしはてっきりゲーム脳が蔓延まんえんしたのかと思いましたよ」

「ゲーム脳ならまだいいが、厨二化すると厄介だからな。昭和のファンタジーゲームを基準に推測した方がいいとの案が出たのだ。俺たちが生まれる前のネタなら、おかしな影響も出にくいだろう」

「お兄はやけに厨二を恐れてるみたいですけど、前になにかあったんですか?」

「うむ。前世に魔法使いだった者が、現世での魔法再現をこころみてな」

「まさか人前で?」

「休み時間中にいきなり決めポーズと珍妙な呪文を……」

 それは痛い痛すぎます!

「そういえばお兄の前世は大賢者……さっき一撃とか言われてましたから魔法使いの上位クラスですよね?」

 まさかお兄が……?

 わたしの目の前でやってくれたら写真撮ったのに!

「いや、そいつは俺の目の前でやった」

 さすがお兄、わたしがナニ考えてるか読めたんですね。

「なんだ別の人でしたか」

「あれを見なかったら、俺がああなっていたかもしれん」

 前世大賢者さんには痛さ倍増だった模様。

 もしお兄が厨二化していたら、いまごろ末期症状でタヒにたくなってるに違いありません

 いまお兄が生きていられるのは、その珍奇な人のおかげです感謝しないと。

「あ、終わった」

 副部長さんの虎覆面さんは丸顔のおヒゲさんにフォールされ、あっさりゲームオーバーになりました。

「勝った! 勝ったぞ部長!」

 負けたのに勝ったとは奇妙なシチュエーションです。

あわてるな巌! まだイーブンだ!」

 プロレス部長さんが初勝利で興奮する副部長さんをいさめます。

 1勝1敗なので、勝負はこれから。

 あと副部長さんも1面を越えてません。

 ゲーム初心者とはいえ計80分も練習したのに、これでは先が思いやられます。

「真緒姉、視聴数は?」

 転生者専用の学校裏サイト【転生者のつどい】をスマホで確認する真緒姉。

「12人……【いいね】はゼロだ」

「うわぁ」

 これはあとでテロップと実況を入れて再配信するしかありませんね。

 ゆっ〇りとか〇イス〇イドとか使って無理矢理にでも面白くしないと。

『次の挑戦者は中等部1年~、剣道部……は謹慎きんしん? では作原さくはら道場門下……も謹慎中?』

 司会のパソコン部長さんが紹介に迷っています。

かいさんはわたしのあずかりなので、期間限定で文芸部員あつかいはいかがでしょう?」

 うまくすれば海さんを腐海もとい文芸部に引きずり込めるかもしれませんね。

『なるほど! では文芸部仮部員、内藤海~っ! 前世は人類勢の王国第1王女づき護衛騎士~っ!』

「私は文芸部員になった覚えはない!」

 でも立ち上がってポーズをとるあたり、海さんはノリノリみたいです。

「しかし繭美まゆみ先輩に借りがあるのは事実! いまここで返します!」

 ゲーム筐体に向かって気合を入れる海さん。

 でもすぐにダンボールに首を突っ込んだので格好よくはありません。

「あの絵面はなんとかなりませんかね」

「位置を工夫すれば照明の反射を防げるだろうが……いまは無理だな」

 たぶんゲーセンでバイトしているパソコン部員さんがいるのに、どうにもならなかったので、かなりの経験と試行錯誤しこうさくごが必要みたいです。

「ゲーセンのテーブル筐体が壁際かべぎわに設置されてる理由がわかりました」

 あとゲーセンの壁紙が黒っぽい理由も。

「うちの店は古いからな。あまり先進的な設備になっていないのだ」

 そんなこんなで海さんのプレイが始まります。

『ナンダコノヤロー』

 海さんが選んだのはアゴのしゃくれた黒パンツさん。

 ニンマリ笑顔がとってもプリチーです。

「がんばれ海さん! せめて1面くらいは越えてください!」

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