第15話・かがやけ! ヌルテカの星ですデュフフ

『よくぞ生き返ってくれた我が精鋭たちよ!』

 開会宣言は真緒姉まおねえでした小指立ってます。

『それでは第1回、魔王軍幹部連対勇者勢によるゲーム大会を始める! 双方前へ!』

 そして司会担当のパソコン研究部長さんにマイクを渡しました。

『レトロゲームのほこりと夢……レトロゲーマーよ胸を張れ! そして、しかと見よ!』

 ちょっとプロレス入ってますよ?

 あとゲーセンでバイトでもやってるのか司会慣れしてますね。

『時は来た、敵はゲーセンにあ~り! 興行レスリング研究~会~‼』

 わーどんどんぱふぱふ。

『100円玉の雨を降らせ、100円玉の河を流し、100円玉の海を作れ。ゲームセンター・ユーサー‼』

 とっくにつぶれちゃってますけどねユーサー。

 そしてマイクは対戦相手のプロレス部長さん、大岩鉄山おおいわてつざん先輩の元へ。

『勇者よ、吾輩は前世で弟を殺された! このうらみ、ゲームで晴らさせてもらおう!』

 ガチッとわたしを指差して宣言する部長さん。

「大岩! 前世の怨恨えんこんは忘れろと言ったはずだ!」

 すかさず真緒姉のツッコミが入りますが、部長さんはニッコリと笑って返します。

『試合の前口上に因縁いんねんはつきものだ! それに繭美まゆみどのには前世くらいしか縁がないからな!』

「そうか、余興よきょうならば許可しよう。続けてくれ」

『うむ……それに勇者どのには散々苦労させられた! 吾輩が殺されるまで何戦かかったと思っておる! 今回ばかりは一度きりの勝負としたいものだ!』

 目がちょっと本気入ってますよプロレス部長さん。

「えっ? わたしもなにかしゃべるんですか?」

 動画配信担当のパソコン研究部員さんに、予備のマイクを渡されてしまいました。

「え~と、まあ頑張ってください。わたしはいくらでも挑戦を受けますよ」

「「おお~っ‼」」

 まあ前世で何度も戦いにつき合ってくれた魔族さんですからね。

 何度再戦を申し込まれてもこばむ理由がありません。

「わたしはボンクラ勇者のようには行きませんよ……って、あれ? お隣にいらっしゃるのは彼女さんですか?」

 部長さんのすぐ後ろに、落ち着きのある美人さんがひかえていました。

 ボブカットで女子にしてはそこそこの長身で、高等部3年生のようです。

『うむ! 文化祭を最期に引退が決まっているマネージャーの大石伊和おおいしいわ先輩だ!』

 彼女さんってところは否定しないんですね。

「「「おお~~~~っ‼」」」

 バシャバシャバシャバシャ。

 写真部の皆さんが画像データを猛烈に増量させています。

「あの、私……私が弟の斑岩はんがん将軍です……」

 彼女さんが恥ずかしそうに宣言しました。

「「「なにぃ~~~~~~~~っ⁉」」」

 爆弾発言でした。

「大岩のやつ、前世弟を彼女にしてるのか⁉」

「だがカワイイ……ああうらやましいねたましいっ‼」

「まさかお兄ちゃんと呼ばせているのでは……?」

「年上女子にお兄ちゃん呼ばわりかよ」

「バブみは正義だ。いたし方あるまい」

 店内は騒然そうぜん、プロレス部長さんはいわおのようなお顔を真っ赤に染めています。

「前世とはいえ兄弟で……これはアリなのか」

 真緒姉がなんか納得しています!

「岩鉄元帥さんは女性……には見えませんでしたが女性だったので前世姉弟ですよ?」

 兄弟だったらデュフフな妄想ネタになったんですけどね。

「って、あれ? 兄弟ってどこかで……」

「私とまゆちゃんも前世は双子の兄弟だったぞ?」

 なんか期待してるお顔ですね真緒姉。

「殿方同士で他人事ならばっちこい大歓迎ですが、残念ながらわたしに百合趣味はありません」

「が~~~~ん‼」

 真緒姉はショックで棒立ちです。

「それはともかく話を続けましょう。そちらの大将は部長さんで構いませんか?」

『いや吾輩は副将で、伊和……大石先輩が大将だ。こう見えてもゲームは得意らしい』

「初心者だけじゃないんですね安心しました。それで大石先輩、お得意なゲームは?」

「横スクロールアクションです。あと全方向アクションを少し」

「おおっ!」

 そこそこ気が合いそうですね大石先輩。

「レトロゲームは?」

「鍵男さんなら1作目から……移植版ですけど」

 それならどんなゲームが出ても結構イケそうですね。

「そろそろ始めるぞ」

 いつの間にかマイクがおにぃの手に渡っていました。

「ゲームはナニに決まったんですか?」

「そこにある」

 お兄が指差す先には旧式のテーブル筐体きょうたいが。

「……なんでダンボールかぶせてるんですか?」

「照明の反射で画面がよく見えんのだ」

 テーブル筐体は喫茶店などでの使用も考慮されているので、ブラウン管が上向きに設置され、飲食物を隣に置いてのプレイが可能なように設計されています。

 そのため上面のトップガラスがライトを反射するなど、いろいろと不便な欠陥を抱え、その反射を防ぐのがダンボールでした。

 飲食物を置くという本来の用途を逸脱いつだつした場当たり的な対応策です。

「本当に旧式なんですね。コンパネ(コントロールパネル)もこすれて金属面がき出しですし」

「それは模型部が対応中だ。似たようなパネルを元にシールを作ってるらしい」

「お兄が仕切ってるんですね。あんなに嫌がってたのに」

「やると決まれば全力をくして当然だ。真緒ではわからんだろうし」

 頭いいのに筋肉バカですからね。

「勝負は先鋒から俺、内藤、姫宮、鳴道なるみち、大将はお前だ」

「まあ当然ですね。で、ゲームは?」

「お前なら画面を見ればすぐにわかるだろうが、家庭用に移植されていないゲームだ。画面はパソコン部の尽力じんりょくで、そこの大型モニターにも出力される」

「まあ裏サイトで生配信するってお話でしたからね」

 これは格好悪いところを見せられません。

 わたしには始めてのゲームのようですし、みなさんの戦いをじっくり拝見して研究しておかないと。

「健司、席につけ! 一回戦を始めるぞ!」

 真緒姉の指示で、専攻のお兄だけが筐体に向かいます。

「あらら、対戦ゲームじゃないんですか」

 ふるいゲームですし、ポイント制で勝敗が決まるルールなのかもしれません。

 そして壁にかけられた大型モニターに、大きくタイトル文字が表示されました。

「うわぁ……マジ旧いですね」

 もの凄く古いPCには不完全移植版があるものの、最近の家庭用ゲーム機には移植されていないので、当然ながらプレイ経験はなく、ささやかな攻略記事とネット動画を見た程度の記憶しかありません。

 わたしたちが生まれる前の、いえおとぅが生まれた頃の、レトロすぎるプロレスゲーム。

 チープなBGMと共にレスラーの選択画面が表示され、次に青一色の寂しいリングに全身ヌルヌルテカテカしたおデブさんと虎覆面ふくめんさん、そしておハゲさんなレフェリーが現れました。

 ゴングと共に試合開始、両者激突です相手はCPUですけど。

 あぽっ! あぽっ!

 変な掛け声でヌルテカさんがチョップをかましますが、虎さんはすべて回避してパンチで反撃、そのたびにヌルテカさんの上半身がズレました。

「おおっ、やりますねお兄」

「やられてる方が健司だ」

「あらまあ」

 確かあのヌルテカさん、敵に回すと厄介だけど使うと弱いキャラじゃありませんでしたっけ?

 お兄ったら、練習中に一番苦戦した相手を使用キャラに選びましたね?

「ああもう投げられ放題じゃありませんか」

 頭ピヨピヨになってますよ。

「あっお兄上手い!」

 ピヨピヨが消えた瞬間、相手をロープに投げました。

 そして帰って来た虎さんを……。

みついた⁉」

 お兄のヌルテカさんが、虎さんに噛みつき攻撃です!

『ワン、ツー、スリー、フォー……』

 カンカンカンカンカン‼

 お兄のヌルテカさんは反則負けになりました。

「ああ負けちゃったまだ1面なのに……」

 でもこのゲーム、3本勝負なんですよね。

 すぐに2戦目のゴングが鳴って、再び虎さんとがっぷり四つになりました。

「……これずっと続くんですか?」

 とにかく地味、むっちゃ地味、ひたすら地味な絵面です。

「動画で見た時は、もうちょっと面白かった気がするんですけど」

「まゆみん、素人初心者を動画配信者と一緒に考えちゃダメじゃぞ」

 メイド服に強制換装された理央りおさんが後ろでわたしのスカートにスマホを差し込もうとしていたので、杖先でガシガシ叩いて破壊を試みます。

「おおあぶねえ」

 でもまあ、言ってる事は間違ってません。

「お兄がんばれ」

 本当に練習したのか疑いたくなるレベルですが、それなりに長続きして欲しいものです。

『ワン、ツー、スリー』

 カンカンカンカンカン!

 お兄のヌルテカさんはフォールされて3カウント負けになりました。

 2本先取の3本勝負なのでゲームオーバーです。

「すまん1面も突破できなかった」

 珍しく意気消沈するお兄。

「お兄って1面超えした事あるんですか?」

「ない」

「ですよねー」

 まあ操作を覚えただけでも、ゲーム音痴おんちのお兄にしては上出来です。

「さてさて、プロレス研の先鋒さんは……」

 選んだのは妙に手足の長い赤パンツのレスラーさん。

 ナゼか常に中腰で戦ってますおひざ壊しますよ?

「こっ……これはまた地味な戦いになりそうですね」

 お兄に引けを取らない下手糞さんでした。

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