第12話・みんなで作戦会議ですデュフフ

大岩おおいわ 鉄山てつざん

 高等部2年C組・興行レスリング研究会会長【男子】

 前世は魔王軍幹部、岩鉄元帥【♀】

 岩のような外骨格を持つ甲岩こうがん族の長。

 魔王に倒され心酔し、部族ごと支配下に入る。

 いずれ勇者と対決し勝敗に関わらず命を落とす魔王のために、へなちょこ勇者を少しでもきたえようと人類勢に立ちはだかる。

 先の戦いで実弟の斑岩はんがん将軍を殺されたうらみをこらえ、勇者を生かさず殺さぬ難易度調整に奔走ほんそうした苦労人。

 対決は十数回におよんだが、聖剣を得た勇者の新必殺技により討伐とうばつ



「うわー夢に出たのって、やっぱりプロレス部長さんの前世だったんだ……ってメス⁉ あの外見で女の人だったんですか⁉」

 文芸部室でお弁当を食べながら裏サイトの転生者リストを調べていたら、とんでもない事実が発覚しました。

 雌雄しゆうの区別がつきにくい甲殻類さんとはいえ、ちょっとおとこらしすぎませんか?

「あと勇者さんは聖剣とか新必殺技とか、ご都合主義にもほどがあります!」

 その必殺技、どうせ聖剣とセットでゲットしただけですよね?

 そんな陳腐ちんぷな展開で倒されちゃった岩鉄元帥さん可哀想かわいそすぎます。

「これでは勇者さんとの再戦を望むのもし仕方ありませんね」

 ムッキムキしながら『勝負! 勝負!』と叫んでいたプロレス部長さんの爛々らんらんとした目つきを思い出しました。

 きっとわたしが勇者さんよりマシに見えたからに違いありません。

 ……どんだけポンコツだったんですかわたしの前世。

「でも今回は岩鉄元帥部長さんが挑戦者な訳で……」

 最近のゲームしか知らないとはいえ、わたしは熟練者。

 対してプロレス一筋な部長さんはヌー……もといゲーム初心者。

 わたし以外は敵味方問わず雑魚ばっかりとはいえ、勝ち抜き戦なので直接対決できるか心配です。

 特に小路こみちちゃんは、ゲーム歴の有無は知りませんがIQ高そうなので要注意。

 下手すると先鋒に置かれて5人抜きしかねません。

「あとで腕前を確認しないといけませんね」

 あまり他人と競わないタイプですが、ああいった子に限って冷静かつ自動的に黙々もくもくと対戦相手を滅殺めっさつしちゃうのがゲーム界隈かいわいってものですからね。

かいさんは地雷っぽいので大丈夫でしょうが……」

 バトロワFPSで突撃死するタイプですよね。

 あとは紫焔しえんくんですが、パズルゲームなら素質ありそうな気がします。

 おにぃはゲーム音痴なので心配御無用。

「まゆみん、作戦はできとるかね?」

 向かいの席でお弁当をパクつきながら理央りおさんが質問します。

「そうですね……お兄が先鋒で、海さん、紫焔くん、小路ちゃんが副将で、わたしが大将……」

「そうじゃなくて、敵をスパイするとかゲームの練習するとかじゃよ」

 理央さんはお食事中だけはセクハラしないので、いまは安全です。

 食べたらすぐ逃げ出さないと。

「どうせ最後はわたしが勝つんですから作戦なんて必要ありませんよ」

「レトロゲームって操作が難しいんじゃろ?」

「それは相手も同じですから、ハンデのうちには入りません。むしろ勝負をどう盛り上げるか考えないといけませんね」

「自信マンマンじゃのう」

「最悪、わたしが5人抜きすれば済むお話ですから」

 昔のゲームなんて、連射力さえあればどーにでもなります。

「そうそう、大会は裏サイトで生配信されるってよ」

「へー」

 視聴数かせげますかね?

 ……いえ、稼げるかどうかではなく、稼がないと。

「ゲーム動画配信者の血が騒ぎます」

「おや? まゆみん、そんなのやってたの?」

「オッサンのフリしてプレイ動画流すだけなので人気ありませんけどね」

 再生数が1000超えした試しがありません。

「ゲーム動画は、ただ強いだけ、ただ無双するだけで再生数が上がるもんじゃありませんよ」

 最低でもテロップくらいは入れないと。

 中身もオッサンな理央さんに実況をお任せすれば、再生数登録者数共に爆上げ間違いなしですが、プレイ中で無防備なわたしがセクハラされるのがオチでしょう。

「で、実際お三方の腕前はどうなのよ?」

「どうなんですか?」

 同じく文芸部室でお昼を食べている海さんたちに直接聞いてみました。

「課金は(あまり)してません」

 やっぱり海さんはファンタジー系のソシャゲーマーでしたか。

 あと( )の中身が聞こえてますよ。

「……三笠記念館を完全再現しました」

 小路ちゃんはコツコツ作る系ですね納得です。

「あまりゲームとかは……」

 ここでほおを染めちゃう紫焔くんは美少女ゲーマーですねバレバレです。

「誰もアクションやんないの? それで勝てるのかねまゆみん?」

「素人はプロレス研も一緒です」

「まゆみんは基準がおかしい。ガチゲーマー以外はみんなnoobヌーブじゃと思うちょる」

 noobとはニュービー(初心者)を指すゲーム用語で、下手糞へたくその同義語でもあります。

「違うんですか?」

 みなさん障害物もない草原や道路を特攻してヘッドショット喰らってくれますよ?

「初心者ほどわずかな練習で明暗が分かれるものじゃ。いまごろムキムキどもは部活さぼってゲームにはげんどるはずじゃぞ?」

「まあレトロゲーは割と移植されてますし……でも、そんな簡単に強くなれるもんじゃありませんよ? せめて数年は……」

「素人は素人を倒せる力量があれば十分じゃ」

「なるほど……」

 わたしの出番が少ない方が盛り上がりそうですしね。

「ところで先輩、プロレス研ってよく知らないんですけど、興行プロレスって言うからには興行してるんですよね?」

 珍しく紫焔くんが発言しました。

「体育館でちょくちょく試合してますよ」

「リングはどうしてるんですか? 研究会にそんな予算あるんですか?」

「体育マットをリングにして、ロープは人力」

「人力?」

「ラグビー部さんたちの協力で、周囲をマッチョで囲んで腕ロープするんですよ」

「スクラムでロープの代わりをするんですか?」

「ほぼラリアットですね。たまに正面から喰らってKO負けする選手もいます」

 人力ロープはラグビー部だけあって、本物のロープをはるかに超える攻撃力を持っています。

 うまく使えばロープを超える反動を得られ、頑丈なのでポストに登ってのブランチャーすら可能なのです。

「あと試合前の前口上まえこうじょうとかパフォーマンスに人気があるようですね。ゲームの試合も盛り上げてくれそうです」

 わたしは一度しか見た事ないのでくわしくはありませんけどね。

 プロレスラーさんはイケメンさんなほど覆面ふくめんかぶるので、マスクマンさんがいると嬉しいのですが。

「そうそう、さっき裏サイトにルールが提示されとったぞ。ゲームの種類は、まゆみんだけ当日まで非公開らしいぞい」

 理央さんはお弁当を食べ終わった様子。

 そろそろ小路ちゃんを連れて逃げ出さないと……理央さんのお隣は海さんなので生贄いけにえにしましょう。

「わたしだけ? まあハンデとしては十分ですが……」

「わかり次第報告します!」

「海さんやめてください面白くないですよそれ」

 あと真緒姉にバレて殺されます。

「あと実機での練習は今日の放課後から、4時から5時までが勇者チーム、それから6時までが幹部連らしいぞい」

「では、みなさん放課後……わたしのリヤカー引くお仕事のついでに練習を。移植されてるゲームなら、各自ダウンロードしてください。たぶんテーブル筐体きょうたいなので、かなり古いゲームでしょうね」

「テーブル筐体ってなんですか?」

 紫焔くんが右手を上げて、可愛らしく首をかしげました。

「そこからですか⁉」

 道のりは遠そうです。

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