第11話・イケメンさんしかいない世界を垣間見ましたデュフフ

「よく戦った勇者ども! だが、その程度の実力で吾輩は倒せぬ! もう少し修行して出直すがよい!」

 傷ついた勇者一行の前に立ちはだかる岩鉄元帥さん。

 イケメンとか人間とか以前に、岩のように巨大な甲殻こうかくおおわれた外骨格ガチマッチョ人外魔族の魔王軍幹部さんです。

 一見通せんぼしているように見えますが、その割に出直せとかナニ考えてるんでしょう?

「あれだけやって、まだ届かぬと言うのか……」

 消沈する大美人さん。

 あっ、これきっとおにぃの前世ですね。

「大賢者様、私をかばってくださったのですか」

 お胸の大きなお姉さんは、お兄もとい大賢者さんに感謝しつつセクハラのチャンスをうかがっています。

 いえ、ゲーマーの動体視力でないと見えない超スピードで手を出しています。

 この変態さんは理央りおさんの前世、大司祭さんに間違いありません。

「お前がいないと治癒ちゆできる者がいなくなる」

 一見ツンデレっぽい台詞ですが、その手は大司祭さんの魔手をテキパキと迎撃しています。

『なんかこれ、幹部さんが勇者さんたちをきたえてるようにしか見えませんね……』

 岩鉄元帥さんの目的は、おそらく勇者さんのレベルを、魔王さんと決闘できる領域まで引き上げる事。

 それは理解できますが、本当に倒されるまで続ける気なんでしょうか?

「何度でも挑戦するがよい! 吾輩はいくらでも応じよう!」

 続ける気マンマンですね岩鉄元帥さん。

「次こそは必ず! 首を洗って待っていろ!」

 岩鉄元帥さんに首なんて細っこいパーツはありませんが、大賢者さんはチンピラさんみたいな捨て台詞を吐いて、尻尾をマキマキ逃げ出します。

 そして数人の仲間たちも。

 逃げているのに距離が離れないところを見ると、どうやらわたしは勇者さんの視点で見ているようですね。

 つまりこれはいつもの夢。

 今回は超絶イケメン魔王さんのいるラストステージとは違うようです。

 視界に入っている仲間には殿方が数人ほど混ざっているので、今日のオカズはこの方々にしましょう。

 夜中にキャンプを抜け出して、しげみでこっそり逢引あいびきとか……。



「……しまった」

 邪念で夢から覚めてしまいました。

「今日こそはデュフフな絶景を拝謁はいえつしようと思ったのに……」

 まあ勇者さんがなにも気づかずグースカ眠ってたら見れないんですけどねBL展開。

 夢の中で壁や天井になれたらいいんですけど。

「お仲間さんたちも、そこそこイケメンさんでしたね。次こそはイチャラブを!」

 裏のない健全でも全然平気ですよ?

 あとイケメンさんにこだわっているように見えるでしょうが、普通もアリですよ?

 ただし腐女子の言う【普通の殿方】は、超絶ではない普通のイケメンさんを指します。

 腐った世界にブサイクさんは存在すら許されないのです。

 イケメンさんしかいないワンダーなワールドには、超絶イケメンさんと普通のイケメンさんしかいませんキッパリ。

「せめてお兄の前世が殿方だったらよかったのに」

 パジャマのそででよだれをいて、ベッドからい出します。

「たぶんイケメンの皆さん、今日もイケメンのおめぐみあれ」

 昨日、通販で届いた新しいポスターに向かって、恒例こうれいのお祈りをしました。

 近未来推定イケメンさんたちは全員ヘルメットをかぶっていますが、バイザーからのぞ眼差まなざしは猛禽もうきんのようにするどく、わたしのような腐りきったJKの目にかかれば、中のイケメンフェイスを容易に透視できるのです。

「さてさて、お店の方はどうなってますかね?」

 大急ぎで制服に着替えて、亡きおじぃのゲーセンに顔を出すと、お兄と電子研部長さんがテーブル筐体きょうたいを前にお話し中でした。

「なにも起こらないぞ。まさか基盤チェックに見落とし……いやブラウン管か?」

「まだコンデンサーが蓄電ちくでんしていないんですよ。しばらく待てば起動します」

「そうか。何事も起こらない事を祈ろう」

「起こってくれないと困るんですけど」

「では、いまのうちに朝食にしよう」

 おかぁが用意してくれたサンドイッチをパクつくお二人さん。

「こっ……これははかどりますね」

 腐った妄想が。

 男子2人がサンドイッチを食べて、それから組んずほぐれずお互いをむさぼり合って……。

「……じゅるり」

 まあ、なにも起こらないんですけどね。

 よだれが十分に出たところで、わたしも朝食にしましょう。

 お母のサンドイッチを食べて、お二人さんのお邪魔にならないようにお店をけて玄関扉を開けると、海さんたち3人が整列して待っていました。

「おはようございます繭美まゆみ先輩!」

「……おはようございます」

「先輩、足は痛みませんか?」

 うむ、苦しゅうないぞ。

「みなさん、おはようございます……やっぱり乗るんですねこれ」

 正門の前に置かれているのは、昨日見て忘れたいあの【生徒会備品・仮装M1A1運搬車うんぱんしゃ】、つまりリヤカー。

 そして生徒会所有の多目的人力輸送車なのに、軍用っぽい緑色にられていました。

「あまりらさないでくださいね」

 わたしは荷台に乗ってお布団をかぶりながら懇願こんがんします。

 本物のM1A1運搬車(陸上自衛隊のリヤカー)は要人輸送にも使われるので、それほど乗り心地は悪くない……と思いたいです。

御意ぎょい!」

 海さんは紳士っぽくお辞儀じぎをして、はいよシルバーと言わんばかりに走り出しました。

「あわががちょととととゆれれててすっ!」

 なんだか海さんだけで引いてる気がしません。

 まるで後ろから小路こみちちゃんと紫焔しえんくんが押してるような……?

「口を閉じないと舌をみます!」

 海さんの御意って世界のどこらへんにあるんですか?

 存在しないはずの人目を気にしてお布団にこもって荷物のフリをしていると、なんだか戦場を走っているような気分になりました。

「10分で到着します! それまでご辛抱しんぼうを!」

 どーん、どーん。

 どかーん。

 まるで周囲を敵味方の砲弾が飛びいクレーターだらけのクルスクを疾走してるかのよう。

 対戦車ごうとかに落っこちないでくださいよ?

「早く学校に着かないかなあ……」

 あと誰にも見られないといいなあ。

 校内はきっと安全な自軍の後方陣地……と信じたいところですが、なんだか野戦病院の幻が見えて来ました。

 そしてオリーブ色で赤十字の入ったテントから現れる、ノコギリを持ったお医者さんとか。

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