第10話・わたし売られちゃいましたデュフフ

 帰ったらお店がお祭り状態でした。

「これは一体……?」

 小路こみちちゃんに杖と荷物を預け、かいさんと紫焔しえんくんに肩を貸してもらいながら帰宅すると、おじぃのゲーセンで、4人のガリガリさんと3人のガチマッチョさんが、おにぃめていました。

「おっ、早かったね、まゆちゃん」

 真緒姉まおねえもいます。

「たぶん見たまんまの状況だとは思いますが……なにが始まったんですか?」

「電子研を動員してね。ゲーム機をレストアする事になったんだ。パソコン部も協力している」

 ガリガリさんたちはテーブル筐体きょうたいを開いて、基盤がどうとかブラウン管の状態がどうとか、お兄にレクチャーしている模様。

「お兄がよく了承りょうしょうしましたね」

 なんでも一人でやりたがるし、実際できてしまうので、大抵の事は絶対に他人任せにしないお兄が、おとなしく教練を受けるなんて珍しい。

「文化祭を前にした部活のいそがしい時期にとか、お店の経営に学校の部活動を介入させるなとか、いろいろ文句言われませんでした?」

「言われたけど、電子研の部長がうまく説得してね。確か『基盤いじりを習得するなら早い方がいい』とか『受験勉強が始まる前に覚えないと永久に機会を失う』とか『本なんか読むひまあったら実践しろ』とかなんとか」

「お兄はそれで納得したんですか?」

「一応、交換条件は出した。文化祭にゲーム機を何台か貸し出してもらう」

「直った分だけ電子研のお店に出展できる?」

「ああ。場合によっては生徒会会議室を提供する。あそこなら電力の心配もないしね」

「それって、お兄がなにもしなくても毎年ゲーム筐体が何台か直る勘定ですよね」

「でも健司けんじはナゼか怒るんだよね」

 大義名分がないと他人様を使えない人ですから。

「それで電子研部長の提案で、自力で修理できるように仕込んでもらう事になったんだけど……」

「なにか問題でも?」

 その時、対戦筐体の間から体育会系ガチマッチョさんが現れました。

「勝負だ! 勝負だ勇者! リングで戦ったらマジでブーイングされそうだからゲームで勝負!」

 むっきむきむっきむきむっきむきしています。

「え~と、確か興行こうぎょうレスリング研究会長さんですよね?」

 要するにプロレスさんです。

「その通り! おぼえめでたく恐悦至極きょうえつしごく!」

 試合でもないのにショートパンツ一丁……いえリングシューズも装備していますが、全身のむさ苦しい筋肉を見せつけるようにムキムキしているので、店内を一歩でも出たら通報されちゃいそうです。

「魔王軍幹部連、いや部活連でクジ引きを行ったらしい」

「わたしと勝負する順番ですか?」

「ああ。先鋒はプロレス研、次鋒は競技かるた研究部だ」

「ルールはタイマンですか? それとも団体戦ですか?」

 人類勢は少数派のようですが、一応お兄や海さんもいるので、人類勢はわたし一人だけではありません。

「5対5の抜き戦だ」

 抜き戦、つまり勝ち抜き戦です。

「ゲームなら怪我人が出ないし、まゆちゃんなら百人抜きできるでしょ?」

「そりゃまあ3DのシューティングかFPSなら……」

 ズブのド素人さんに勝っても恥にしかなりません。

「でも、この流れだとレトロゲーの勝負じゃないですか?」

 アナログパッドやスマホのタッチスクリーン入力しか知らないので、果たして8方向あるいは4方向のレバー操作ができるか疑問です。

「それくらいのハンデがあった方が盛り上がるよ?」

「景品は設定してるんですか?」

「全員一致でナシに決まった。あくまで幹部連の自己満足のためだから、まゆちゃんが負けてもリスクはないよ」

「その自己満足に巻き込まれてるんですが……」

「だからゲーム機の再生に尽力じんりょくしようって事になったんだ」

「つまり……わたし、お兄に売られちゃったんですか⁉ わたしになんの得もありませんよね⁉」

「文芸部の部費を増やす約束になってる」

「部長にまで売られた――――⁉」

「プロレス研との勝負は3日後を予定している。ゲーム機の状態にもよるけど、再生でき次第、練習を始めてもらおう」

「そんなすぐにレストアできるものなんでしょうか?」

「すでに電子研が目星をつけた。いまの状態でも動くのが何台かあるらしい」

「勝負だ! 勝負勝負勝負~~~~っ‼」

 ああもうプロレスさんうるさい!

「まあ、わたしもレトロゲーには興味あるので、勝負してもいいですよ」

「うおおおおぉぉぉぉ――――っ‼」

「海さんたちも参加します?」

 小路ちゃんは首を横に振りました。

 海さんも横に振りました。

 紫焔くんはイヤイヤをしています。

「その三人は強制参加だ」

 小路ちゃんと紫焔くんは頭を抱えました。

「それが生徒会の判断なら……」

 前世勇者暗殺未遂事件の実行犯である海さんに拒否権はありません。

「そうそう、まゆちゃんには、これを提供しよう」

 真緒姉が指をパチッと鳴らすと、生徒会の皆さんが、なにか大きなモノをガラガラとを引いてきました。

「正式名称【生徒会備品・仮装M1A1運搬車うんぱんしゃ】だ」

「リヤカーですよね」

「中に体育マットと布団がいてある」

「まさか……」

「これで捻挫ねんざが治るまで登下校の心配はいらないぞ! 牽引けんいんは内藤に命ずる!」

「ははっ、おおせのままに」

 海さんが騎士っぽくひざまずきます。

「絶対イヤですっ‼ 恥ずかしいのは全力でお断りします‼」

「では内藤、校内への出入りは裏口に指定しよう」

「それならいいですお願いします」

 学校まで徒歩で20分、杖つきまたは介助つきで推定30分。

 そして通学路の9割が誰もいない過疎かそ地域なので、裏口に回れば人目をけられます。

 背に腹は代えられませんし、お布団をかぶってしまえば荷物にしか見えない……はず。

「素顔をさらすのが海さんだけなら構いません」

「罰だからな。だが、これだけで済むと思うなよ?」

 真緒姉が海さんをギロリとにらみつけました。

「はは~~~~っ‼」

 あっ、こいつ忠誠心に酔ってるな。

 いくら厨二だからって前世騎士が前世魔王に絶対服従……それでいいんですか海さん?

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