第9話・裏サイトを覗いちゃいましょうデュフフ

「お兄が言ってたサイトって、これですかね?」

 大騒ぎな生徒会会議室から文芸部室のある旧図書室予備倉庫に戻ってスマホをいじっていると、転生者専用学校裏サイトのトップページが表示されました。

「うげ……なにこれ前世紀のホームページですか?」

 黄緑色の背景に青文字で【集まれ! ぼくらは転生者】とタイトルが書かれ、その下は肉眼で見えないくらい小さな赤文字で細々こまごまと文章がつらなっています。

「そりゃ偽装カモフラじゃよ。部外者が見たら即プラウザバックするじゃろ?」

 会議机のお向かいに座っている理央りおさんが教えてくれました。

「なるほど知っていても思わず他に飛びたくなりそうなページですね」

 サインインをフリックしてアカウント作成画面に移ると……。

「パスワードですか」

「厨二ノートみたいで、見られるとタヒを選びたくなる内容じゃからのう」

 ヒントの項目に【かかかかかかかかろっとぉ】と書かれています。

「上X下BLYRA」

 裏コマンドを入力すると、今度はまともな外見のホームが表示されました。

「【転生者のつどい】? 偽装ページのタイトルと大差ありませんね」

 おにぃ仕業しわざなのか、あくまでも前世記憶に陶酔とうすいできないガッカリ仕様になっている模様。

「おや、名簿めいぼもあるんですね」

 さっそく理央さんの前世を調べてみましょう。


降巣ふりす 理央】

 高等部1年A組・文芸部【女子】

 前世は人類勢の人間族、職業は大司祭【♀】


「大司祭⁉ 理央って聖職者だったんですか⁉」

 それがなんでセクハラ魔人に⁉


 不特定多数の修道女へのセクハラが発覚して左遷させん、勇者一行に加わる。

 大賢者【♀】に言い寄るが無視され自暴自棄に。

 旅の終盤で魔王軍幹部【甲徹こうてつ将軍】との戦闘中にタヒ去。


「ぶゎひゃひゃひゃひゃっ! 理央ったらいまと全然変わりませんね! しかも大賢者さんにフラれてタヒ亡フラグまで立っちゃってますよ!」

「前世の事なんてあんまり覚えてないからいいじゃん前世なんだし。それよりまゆみんのページ見てみ? あんまり他人を笑えるプロフィールじゃないぞい」

「ええっ⁉ わたし勇者ですよね主人公ですよね⁉」

 なんだか不安になって【遊佐ゆさ 繭美まゆみ】の項目を探します。

「あっ、まだわたしの名前入ってないんですね」

 今日発覚したばかりなので、まだ更新されていないのでしょう。

 なので【勇者】で検索すると……。


【勇者】【♂】

 今世不明。

 金持ちの家に生まれ、ちょうよ花よと甘やかされて育った生粋きっすいのボンボン。

 光の女神によって勇者に選ばれるが、戦闘訓練どころか剣を振る基礎体力もなく、初期装備は布の服と木の棒だった。

 あまりの弱さに魔王の対戦相手として不適格あるいは未熟と魔王軍は判断、多勢による襲撃が禁じられ、幹部たちは単独もしくは少数での戦闘しか許されなかった。

 魔王軍幹部らのとうといい犠牲により、数年後には勇者らしい戦闘能力を得るが、天性のポンコツぶりはおさまらず、魔王との決戦を前にマグマに落ちて他界。


「……弱っ‼ 勇者よっわ‼」

 マジでクソザコナメクジでしたねわたしの前世。

 でもなんかファンタジーRPGで敵が数体ずつしか現れない謎が解けた気がします。

 初期装備が【ひのきのぼう】な理由とか。

「前世をわらう者は前世に嗤われるのじゃ」

 いずれここにわたしの名前が入るんですねヤだなあ。

「うう~っ、それじゃお兄は……」


【遊佐 健司けんじ

 高等部2年A組・生徒会書記【男子】

 前世は人類勢の人間族、職業は大賢者【♀】

 絶世の美女。

 男女問わず寄せつけない高潔な精神の持ち主。

 旅の終盤で魔王軍幹部【甲徹将軍】との戦闘で重傷を負い翌日タヒ去。


「あんたがアタックしとったのお兄だったんかーい⁉ あと【高潔な精神】とか【絶世の美女】だの盛りまくってますねお兄!」

「ああそれ書いたの私」

「まさかまだ未練みれんあるんですか⁉ お兄はあげませんよ⁉」

「まっさかー。いまは女の子同士のイチャラブ妄想がライフワークなのよん」

「理央って百合厨だったの⁉ BL書かないのに文芸部にいるから変だとは思ってましたが……」

「そんなに生産力ないけど百合ゆりモノ書いてるよ。見る?」

 理央さんはスマホの画面をこちらに向けました。

「ネット小説?」

「R‐15作品だから文化祭には出せないけどね」

「……って、なんでヒロインの名前が真由美と莉緒りおになってんですかー⁉ 百合厨なのかガチ百合なのかハッキリしてください! あとしばらくわたしに近づかないでください!」

 セクハラどころかガッツリいただく気だったとは油断もすきもありません!

「それより魔王のページ見てみ?」

真緒姉まおねえですか? ……うっわ長っ‼」

 他の人と比べてはるかに多い情報量。

 しかも全面的にたたえられています。

「まあ転生者の大半が魔王軍幹部の人ばっかりだから仕方ないんでしょうけど」

「それだけじゃないぞい。転生者の記憶は断片的かつ穴だらけなんで、全員の証言を元にストーリーを再構築しとるんよ」

 海さんたちは三人だけで記憶の再現をしたんですね。

 それであの情報量……おそらく小路こみちちゃんの功績こうせきでしょう。

「ボンクラ勇者と違って魔王は敵味方問わず注目されとったから、それだけページ数が増える算段なのじゃ」

「内容から察するに、人類勢からも称賛しょうさんされてたみたいですね魔王さん」

「勇者がアレじゃったからのう。魔王が世界征服した方が世の中よくなったんじゃないかって説もあるぞい」

 戦争も決闘も神々のたわむれで、勇者も魔王も用済ようずみで抹殺エリミネートされちゃいましたから、実現の可能性はゼロですけどね。

「勇者が勝っても、誰もなんにも得しなさそうなのがひどすぎる」

 あんまりですわたしの前世。

「……それより繭美先輩、なんで私を引き取ったんですか?」

 理央さんの隣でかいさんがボヤきました。

 小路ちゃんと紫焔しえんくんもいます。

「道場と剣道部を出禁になってる間、文芸部を手伝ってもらおうと思いまして。おうちも近そうですし、登下校の介助と護衛をお願いしたいんですよ」

 他にも大司教さんにそそのかされた転生者さんがいらっしゃるかもしれませんし、なによりパワフルな体育会系の人がいるとタクシー使わずに済むからです。

 ちなみに過疎かそ化した我が家のご近所にバス路線はありません。

「それに、どうして学校に本当の事を言わなかったんですか?」

 通学路で生徒を襲撃なんて事実をそのまま伝えていたら、海さんは謹慎きんしんどころか退学モノだったでしょう。

 前世記憶がどうとか知る以前から、わたしは先生に『転んだ』としか言っていないので、海さんが不思議に思うのも無理ありません。

「海さんがお一人ではなかったからですよ。表沙汰おもてざたにしたら紫焔くんが泣くと思ったんです」

「こいつが……? まあ泣くだろうけど」

「止めてくれる人がいるうちは、取り返しのつかない事態にはならないものです。それにもう、わたしを襲う気はないのでしょう?」

「それはまあ……そうですが」

 無意味な殺人を犯して紫焔くんを巻き込んで心中、という可能性は、お兄と真緒姉が端微塵ぱみじんに粉砕してくれましたから。

 なので海さんの謹慎中は、わたしが文芸部副部長権限で預かる事にしました。

「それに聞きましたよ。紫焔くんと小路ちゃんの部活は必修のみ」

 必修科目のクラブ活動は週一、木曜日だけです。

「それなら執筆活動で人手不足な文芸部の編集作業と製本をお手伝いしていただこうと思いまして」

「それを贖罪しょくざいにしろと? いくらなんでも軽すぎませんか?」

「あとで生徒会が正式に処罰するそうですから、とりあえずの処置です」

 どんな刑が下るかは不明ですが、お兄が体を張ったので、誰がなんと言おうと、体罰だけはわたしが許しません。

「でも、そうですね……罰とは違うかもしれませんが、これ使っちゃってください」

 わたしはお兄と真緒姉のデート計画で用意していた、映画のペアチケットを差し出しました。

 先日、おかぁからもらったものですが、使い道がなくなって不良債権さいけん化していたものです。

「期限が来週の日曜までなんですよ」

「こんなの……誰と行けばいいんですか」

「……私は用事があるので無理……」

 空気を読んだ小路ちゃんが素早く辞退します。

「じゃあ紫焔くんと行ってください」

「先輩は彼氏とかいないんですか?」

「二次元にしかいません」

 もちろん嘘です。

 わたしのしは他の推しとイチャコラする運命さだめですから。

「姫様と行くんですか……」

「そうそう、いまちょっとした罰を思いつきました。今後一切、紫焔くんを姫様と呼ぶのは禁止です」

「なんだと⁉」

「だって男子なのにお姫様って、紫焔くんも恥ずかしいでしょ?」

「……………………」

 紫焔くんが赤面しているのは、海さんとのデートを提案されたからですが、唐変木とうへんぼくの海さんには知るよしもありません。

「繭美ちゃん、美術部のモンタージュは延期だって」

 部室の扉をガラリと開けて、文芸部長さんが顔を出しました。

「まあ文化祭の準備でおいそがしいでしょうからね。予想はしてました」

 この時期、時間があるのは裏出展用の健全BL小説原稿を夏休み中に書き終えている、わたしくらいでしょう。

 理央さんはいまでこそ部室でおひまそうにしてますが、表本おもてぼんの執筆やゴーストライターでおいそがしい時期のはず。

「では帰りましょうか。海さん、介助をお願いします」

「私もやるぞい」

「セクハラされるからヤダ」

 理央さんが志願しますが即却下。

「そうですね、紫焔くんにもお願いしましょうか」

 お二人はそれほど身長差がありません。

 わたしは杖を海さんに渡し、荷物を紫焔くんに任せて、お二人に肩を貸してもらいます。

 両足が浮きました。

「あっ……これ見た事あるぞい」

「捕まった宇宙人とか言ったらぶんなぐりますからね」

 こらスマホ向けるな写メるなお兄に送るんじゃない!

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