第7話・イケメンさんたちのカラーイラストが盛沢山ですデュフフ

「そういえば繭美まゆみ、内藤の件は学校側になんと説明した?」

 かいさんは校内で失踪し授業をサボッて生徒会に捕縛監禁ほばくかんきん真緒姉まおねえに監視されているので、ろくにしゃべれなかったおにぃの代わりに、わたしが先生がたに報告したのです。

「通学路でわたしをき逃げした海さんが、真緒姉まおねえの報復を恐れて校内に潜伏。生徒会が保護して事情聴取の際、み合いになった真緒姉と海さんの暴虐ぼうぎゃくに巻き込まれ、お兄が負傷。午後は精神不安定状態の海さんを落ち着かせるため、真緒姉が優しく介抱かいほうした、とデッチ上げました」

 半分くらいは事実ですし、実際わたしは右足首を捻挫ねんざしているので、説得力は抜群です。

「うむ、悪くない。あとはこちらで口裏を合わせておこう」

 イケメンお兄が会議机の椅子いすを引いて、わたしを座らせてくれました。

「それにしても結構いますね魔王軍」

「我が校のクラブ活動は、部長の9割半が転生者だ」

「いくらお兄がいるとはいえ、真緒姉があっさり部長連を制圧して生徒会長になったのは変だと思ってました。魔王の権力を使ったんですね」

 それにしても多いせですね魔王軍幹部さんたち。

「中等部のみ、あるいは高等部のみの部活もあるからな」

 一時は生徒会室に押しかけた魔王軍幹部連ですが、人数が多すぎて生徒会室に入りきらなかったので、お話は隣の生徒会会議室で行われる事になったのです。

 元は視聴覚室だったので広さも十分、設備も整っています。

 プロジェクター用スクリーンの前には会議机が置かれ、わたしとお兄、そして小路こみちちゃんとお姫様の席が。

 魔王軍の人たちは無言でテーブルつきパイプ椅子を並べている最中です。

 そして最後尾には、泣きらしたお顔で海さんをにらみつける真緒姉の姿がありました。

 海さんはまだわたしの命を狙う可能性がありますが、真緒姉や自称魔王軍幹部連を乗り越えるのは不可能でしょうマッチョさん多いですし。

「まゆちゃ~ん、そろそろ許しておくれよぉ~~~~っ」

 真緒姉が海さんの首をめながら懇願こんがんします。

 喋るなと命令したのを早くも忘れたようですね。

「お兄、お怪我の経緯けいいを」

「内藤をくびり殺そうとした真緒を止めようとして肘鉄ひじてつを喰らった」

「う~ん、肘ならギリギリ事故の範疇はんちゅうですね。わかりました、真緒姉を許しましょう」

「ホント⁉ まゆちゃんサンキュ~~~~ッ‼」

 真緒姉は海さんを片手で引きずりながら、わたしをハグしようと駆け寄ります。

「ただし執行猶予ゆうよです!」

「はいいっ‼」

 ピタッと止まりました。

「またお兄を殴ったら絶交です。あと、お兄とのデートを命じます」

「アレと逢引あいびきしろと抜かすか⁉」

 お兄は会議机をバンバン叩いて抗議しますが無視しましょう。

「期日は来週の日曜日、場所は隣町の映画館です」

「暴力ゴリラとナニをろと言うのだ⁉」

「スペクタクルラブストーリーはどうでしょう?」

「なんでも観に行くよ! まゆちゃんもまじえて!」

 真緒姉は有頂天うちょうてんですが……。

「わたしは行きませんよ? お兄と二人っきりでイチャラブしてください」

 まあ尾行はするつもりですけどね。

「手をにぎっただけで俺はタヒぬぞ!」

 マジで握力ゴリラ並みですから。

「それで心臓が止まるくらいがわたしの望みです」

 こんな事もあろうかと。わたしは自動体外式除細動器のレクチャーを受けています。

「……それはともかく、会議を始めましょう」

 デートプランはあとでじっくり考えるとして、まずは魔王軍幹部連が言っていた、勇者がどうとかを解決しないと。

「真緒姉、議長をお願いします」

 ヒラ文芸部員が仕切るのも変ですからね。

「わかった。放送部、プロジェクターの準備を頼む」

 真緒姉はコロッと表情を変えて生徒会長のお顔になりました。

「ははっ! おおせのままに!」

 室内に機材が持ち込まれ、ノートPCとの接続作業が始まります。

「お兄、これは一体?」

「文芸部長と漫研部長による転生初心者向けのプレゼン映像だ。お前も見ておけ」

「そんなものまで作っちゃったんですかヒマですね~……って部長⁉」

 マイクテストをする、日頃見慣れた文芸部長さんがいらっしゃいました。

「繭美ちゃん勇者だったのね。ちっとも気づかなかったわ」

 マイク持ったまま話さないでください声でかいです恥ずかしいです。

「あとなんで理央りおまでいるんですか⁉」

 理央さんも一応文芸部員ですが、ノンアルコール無発酵の読み専で、学園祭のBL同人誌制作には加わっていません。

 その代わり、生徒会に提出する表向きの会誌で感想文や批評文を書いています。

「そりゃ私も転生者だからに決まってるじゃん。これでも前世は勇者一行の一員だったのよん」

「勇者チームが魔王軍に混ざってんじゃねえ!」

 こっちゃ来いと手招きするわたしですが、理央さんは部長さんのそばから離れません。

「理央ちゃんは次期部長だから、わたしの補佐を務めて欲しいのよ」

「部長⁉ このセクハラ魔人が⁉」

「うちの部で小説書かない子って理央ちゃんだけだから」

 理央は表向きの部誌に感想文と批評文を書いてくれる貴重な部員なのです。

「ああなるほど作家陣は部長と執筆を兼任できるほどお時間ありませんからね」

 BLラノベにお時間を割かれて部誌の記事を書けない子たちのために、ゴーストライターまでやってくれるので、次期部長には適任かもしれませんねセクハラさえなければ。

「準備にもう少しかかりそうだな。では転生初心者のために講義で時間をつぶすとしよう」

 お兄がほおの保冷パックを講義机に置き、立ち上がってマイクを取りました。

『我が判田はんた市立第一学校には、前世記憶が戻っている生徒だけで約1割、疑いがある者で3割弱の転生者が存在する。ひょっとしたら全校生徒が転生者であってもおかしくない状況だ』

 そんな団体さんだったんですか異世界転生。

『新聞部の調査によると、前世記憶は地位ある者ほど戻りやすいとの統計が出ている。魔王軍なら幹部やその副官、人類勢なら大隊長から騎士団長クラスだ』

 というか、転生したって事は異世界でお亡くなりになったんですよね?

 学校の部活連を魔王軍幹部さんたちだけで占めるほど大勢タヒんだんですか。

 軍や国家の維持に影響しませんか?

『俺や真緒……生徒会長の前世記憶によると、未熟な勇者をレベルアップさせようと、魔王軍は率先して幹部と戦わせたようだ。雑兵ぞうひょうばかり死線に送っていた人類勢とは、そこが異なる』

 なるほど部活連が魔王軍の幹部さんだらけな理由がわかりました。

「お兄、質問です! 魔王軍が勇者をレベルアップさせる必要性が理解できません!」

 わたしは目の前に置かれたマイクを持って立ち上がります。

『うむ、確かにその通りだが、あの世界は事情があったようだ』

「事情で敵を強くするものなんですか?」

『魔王軍と人類勢……人間だけでなく、亜人を含む人型人種の連合軍だが、異世界戦争は勇者と魔王の一騎打ちのみによって終息するらしい。会長!』

「任せろ」

 真緒姉が会議机の前に来て、小路ちゃんのマイクを取りました。

『私……いや魔王は、勇者との尋常じんじょうな対決を望んでいた。実力の足りぬ……ええと、アレなんて言ったっけ?』

「クソザコナメクジ?」

『そうそう、勇者はクソコラナメクジだったから、魔王との一騎打ちにふさわしき猛者もさに鍛える必要があった』

 勇者の経験値かせぎのために、部下を生贄いけにえにしたんですね。

『あの対決は神々の余興よきょうであった。二つの国家群をえさせ障壁を取り払い戦争を起こし、そのくせ戦闘の勝敗とは無関係に、勇者と魔王を決闘させるのだ』

「なるほど勇者と魔王が対等じゃないと、カードが成立しないんですね」

 魔王さんもレベル1勇者をペチッたところで罪悪感しかかないでしょうし。

「それで決闘に勝った方が戦争の勝者になるんですか?」

 最後の問題は得点が倍になる的なやつでしょうか?

『ならない。障壁が閉じられるだけ……おっと準備完了のようだ。ここから先は幹部連に任せよう』

【遠い昔、はるか異世界の彼方、、、】

 真っ暗なスクリーンに、どこかで見たようなタイトルロゴがでかでかと表示され、じゃじゃーんと、どこかで聞いたようなBGMが流れます。

【異世界WARSウォーズ

「タイトルがダサい! しかもパクリですよパクリ!」

「前世記憶で厨二に走りトラブルを起こす者も少なくない。ダサいくらいで丁度いいのだ」

 お兄は異世界記憶を暗黒面から黒歴史にり替える目論見もくろみのようです。

 なるほど海さんがこの映像を見ていたら、わたしを襲撃する気にはならなかったかもしれませんね。

【エピソード6・最後の決戦】

「いきなりクライマックス⁉ 途中経過はどうしたんですかお兄⁉」

「戦争の経緯は鳴道なるみちから聞いたはずだ」

「ここから先は異世界の誰も知らないだろうね。私の前世記憶から再現したんだ」

 真緒姉が遠い目をしてるのがむっちゃイライラします。

『時は種族間戦争のさなか、凶悪な魔王軍の侵攻に……』

 画面に某歴史的大ヒット映画で有名な所見殺しの駄文が流れ、演劇部長さんのナレーションが入ります。

 どうやらオープニングテロップはエピソード5までのあらすじらしく、聞き流して先を待つと動画が終了し、スクリーンに漫研制作のカラーイラストが表示されました。

 時は最終決戦、ところは夢で見たのと同じようなマグマステージ。

『待っていた……待ちかねたぞ勇者よ!』

 漫研のエース絵師さんが描いたイケメン魔王さんがバストショットでご登場。

 声は演劇部長さんがオールキャストでつとめるようですね。

「夢で見たのとちょっと違いますね」

「俺たちはエピソード記憶しか持っていないからな。視覚や知識の記憶は……って繭美、映像記憶あるのか⁉」

 お兄が大声を出したので、あわてた演劇部長さんが演技を中断します。

「ありますよ。魔王さんしか見てませんが、もうちょっと面長おもながでツリ目の超絶イケメンさんでした」

 おおーっ、とどよめく一同。

「あとよろいが黒地なのは合ってますが、もうちょっとトゲトゲしてました。金のレリーフはひかえめで、マントの裏地は赤です」

「頭悪いのによく覚えてるな」

 頭悪いは余計です。

「イケメンさんのルックスなら完全瞬間記憶できますよ。あとでモンタージュしましょう」

「凄いぞまゆちゃん! これで勇者の顔も解明できる!」

 真緒姉は大喜びです。

「いえ、わたしが見たのは魔王さんだけで……」

「繭美、勇者と魔王は双子の兄弟だ」

「あらまあ。でもそれってネタバレでは?」

「別にお前を楽しませるために見せている訳じゃない。他に覚えている事は?」

「ありません。いつもこのあたりで目覚めちゃうんですよね」

「そうか。なら続きを観ろ」

 演劇部長さんが演技を再開し、次のイラストが表示されました。

所詮しょせん、我らの戦いなど神々の余興よきょうにすぎん。その証拠に……』

 魔王さんが漆黒しっこくかぶとを脱いで素顔をさらします。

 勇者さんと同じお顔でした。

 ただし真っ白なお肌と黒髪を持つ勇者さんと違って、魔王さんは褐色かっしょくお肌に銀髪です。

『早く来い。さっさと始めよう』

 魔王さんが剣を抜いて勇者さんを誘います。

 勇者さんは魔王さんのいる中央広場手前のみさきに立っていました。

 周囲は真っ赤に光るマグマが煮えたぎり、岬と広場をつなぐ橋はありません。

 ……この距離でどうやって会話してるんでしょうねあの人たち。

『そうだな。では、いざ参る!』

 勇者さんは魔王さんのいる広場まで跳躍しようと、助走を始めました。

『そうだ……どちらが勝っても、おそらく我らはこの決戦場から出られぬ』

『ならば、せめてこの一時、この戦いだけでも……』

 イラストの効果線が増えて、勇者さんの激走を表現しています。

 それは勇者さんと魔王さんの、戦いをく心の速度でした。

『『心ゆくまで楽しもうぞ!』』

 勇者さんがワン・ツー・スリーと3段ステップをんで……。

『とうっ!』

 足場が崩壊しました。

『…………あれ?』

 どっぽん。

 勇者さんはマグマの海に落ちて帰らぬ人に。

『……………………おい』

 決戦場に一人ポツンと取り残される超絶イケメン魔王さん。

『ふ…………ふざけんな勇者ああああああああぁぁぁぁッッ‼』

 決闘の仕切り直しを要求する魔王さんですが、マグマに落ちた勇者さんは、復活魔法も通用しないほど跡形あとかたもなくなっています。

 おお勇者よ! タヒんでしまうとは何事だ!

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