第6話・お兄が壊れちゃいましたデュフフ

 生徒会室に集まった部活連を真緒姉まおねえ威圧いあつで追い払い、厨二な話題は放課後改めてという事になりました。

 かいさんは拘束こうそくされたままですが、お姫様は解放され、小路こみちちゃんと教室に戻っています。

 放課後、わたしが再び生徒会室をおとずれると、おにぃほおれが少し引いたのか、どうにかしゃべれる状態になっていました。

 そして開口一番。

「俺たちは転生者だ」

「お兄が壊れた⁉」

 真緒姉になぐられても生きてるのはおかしいと思っていましたが、まさか脳味噌のうみそさんがアレな感じにひっくり返っていたとは!

「信じられんだろうが壊れてない。全校生徒の一割は前世の、しかも同じ世界で同じ時代の記憶を持っている」

 お兄は保健室で借りた保冷パックを頬に当てて冷やしながら話します。

 一見冷静そうですが、あとで病院に連れて行かないとダメですね。

「わたしは記憶を持ってないので正常ですね」

「いや、おそらく繭美まゆみも転生者だ」

「もうだめだ……それもこれも真緒姉のせいですよ!」

「ひゃあっ! 私も記憶あるし健司の話は本当だぞ!」

「口答えは許しません発言も禁じます!」

「びぃ~~っ‼」

 真緒姉は泣きながらグルグル巻きの海さんをにらんで『あとで絶対タヒなす!』と殺気を放ちました。

「……………………⁉」

 海さんは青ざめてオシッコちびりそうです。

「そういえば海さん、おトイレは行きましたか?」

「先ほど連行して済ませました!」

「真緒姉に質問した覚えはありません!」

「ぴぎゃ~~っ‼」

「わたしは普段の真緒姉は大好きですが、お兄を殴る真緒姉は大嫌いです!」

 暴力ゴリラでさえなければ、お兄とくっつけるのも不可能ではないのですが……。

 わたしがいないと、たちまちお兄のイケメンフェイスがベコボコにされてしまうので、なかなか目を離せません。

「卒業までにカップリングさせる予定だったのに……」

 将来DV妻になったら目も当てられないので、どうにかお兄を強化……は非現実的なので、真緒姉にパッチを当てて弱体化させる必要がありそうです。

「あれでも前世は魔王だったらしいぞ?」

「ダジャレですか?」

 真緒で魔王はネーミングがひどすぎます。

「いやマジだ」

「押し寄せる敵勢力を、ちぎっては投げちぎっては投げしたんですね」

「それが知性派だったようだ」

「嘘です。それは絶対嘘です」

 そろそろ救急車を呼んだ方がよさそうな気がします。

「まさかさっきの方々も全員自称転生者なんですか?」

 魔王軍幹部連でしたっけ?

「本当に異世界転生などというモノが存在するかは知らんが、生徒会の調査によると、転生者の前世記憶には極めて高い共通性と整合性があった。いまのところ矛盾はない」

「それは小路ちゃんのお話からも理解できますが……」

 前世記憶とやらのせいで、命まで狙われましたからね。

 ただしお兄は、異世界や前世の実在そのものは信じていない模様。

 共通する前世の記憶を持つ人間が多数存在する、いまはそれだけが真実。

 わたしと同じような見解です。

「それに限定的ながら転生者の識別は可能だ」

「今度は異能チートですか?」

「いや前世の知人、しかもごく親しい者に限るようだ」

「それは勘ですね」

「だが結構アテになる」

「それで、わたしの前世は勇者なんですか?」

 海さんたちは、そう言っていました。

「俺の知人だったのは確かだが、いくらなんでも勇者はありえんな」

 わたしが前世持ちだって、ずっと前から見抜いていたんですねお兄は。

「根拠は?」

「アホすぎる」

「知性派魔王さんが真緒姉ですよ?」

「なるほどもっともだ勇者かもしれん」

 説得力ありすぎです魔王真緒姉。

「それに最近、魔王さんを名乗るイケメンさんの夢を見ますし……」

 あれって真緒姉だったんですか。

 いまもイケメンさんですが、前世はさらにハイレベルなイケメンさんだったんですね。

「なに⁉ まさか記憶が戻ったのか⁉」

「今朝がた夢の事話しましたよね⁉」

「いつもの寝言と思って聞き流した」

 その時ノックの音がして扉が開き、小路ちゃんとお姫様がやって来ました。

「……お邪魔します」

 ああもう小路ちゃんは可愛いなあ。

 お姫様も超絶ラブリー♡

「海ちゃんは! 海ちゃんは無事ですか⁉」

 お姫様は授業中、ずっと海さんの心配をしていたようです。

「ご無事ですよ。真緒姉がおどしながら見張ってくれましたから」

「姫様!」

 海さんが顔を上げると……。

「喋るな黙れ」

「はいっ!」

 真緒姉ににらまれて硬直する海さん。

「わたし真緒姉にも喋るなって言いましたよね?」

生涯忠誠センパーファイ‼」

 少なくともお兄のイケメンフェイスが完治するまで許す気はありません。

 でもまあ、ずっとこのままという訳にも行かないでしょう。

「そろそろ部活連の方々が来る頃ですし、見張りはもういいですよ」

 あまり他人に見せられる姿じゃありませんからね。

「アイアイ・マァム!」

 真緒姉はパイプ椅子を引き出して……。

「まだ座っていいとは言ってません!」

「ギニャ――――ッ⁉ ギャピ~~~~ッ‼」

 とうとう号泣してしまいました。

「あの、そろそろ入ってもいいでござりまするでしょうか……?」

 扉からラグビー部長さんが顔を出していました。

 たぶんその後ろには、他の部長さんたちが全員お顔をそろえているはず。

「あっ、どうぞどうぞ」

 魔王軍幹部連(自称)に魔王真緒姉の泣き顔を見せたのはマズかったかもしれません。

「失礼します……ごめんなさいそこちょっと通りますねホントごめんなさい」

 ラグビー部長さんに続いて、部活連のみなさんがゾロゾロと生徒会室に入って来ます。

 ――なんで全員わたしと目を合わせないようにコソコソけて通るんですか?

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