第3話・年下の可愛い子に誘われちゃいましたデュフフ

「……おかしいですね」

 病院の整形外科で診察を受け、T字杖をついて帰って来たのは二時間目の終わり頃。

 メールを見た真緒姉まおねえが休み時間に入った瞬間に飛び込んで来るはずなのですが、お昼休みになっても一向にその気配がありません。

 おにぃが連絡一つよこさないのも変です。

「ま~ゆ~み~ん、いろいろ大変だったみたいだけど今日もちっちゃおっきいねえ」

 もみもみもみもみもみもみもみもみ。

 後ろから突然お胸を鷲掴わしづかみにされました。

「わひゃ~~~~っ!」

 ゴッ‼

「あぶぇばぁ⁉」

 驚いてのけぞったら、後頭部が痴漢の顔面に激突しました。

理央りおさんセクハラはやめろっていつも言ってる……でしょう……が……?」

「あぶべばぼげぐがぶぼびろべべべべ……」

 クラスメイトで小学校からの腐れ縁、降巣ふりす理央さんは、わたしの頭突きを鼻面はなづらに喰らって床を転げ回ります。

「……よかった、なんともない」

 捻挫ねんざしてテーピングでガチガチに固めた右足首は、どうやら頭突きのふんばりに耐えきってくれたようです。

ばだびぼびんぶぁいばびばいぼばおっわたしのしんぱいはしないのかよっ!」

 理央さんはゴロゴロしながらフゴフゴ言ってます。

遺言ゆいごんなら聞きますよ」

「おっぱいませてくれ」

「いま散々揉みましたよね⁉ あと復活早っ!」

 理央さんはギャグ漫画の世界に生きてるのか。

「それよりさー、お昼食べに行こうよ屋上とかー」

「杖が見えないんですか?」

「さっきそこそこ歩けてたじゃん。肩貸すから行こうよ屋上」

「一人で歩いた方が楽だからいいです」

「行く気はあるようじゃの」

 ジメジメした教室より、お日様に当たった方が少しはマシですからね。

「セクハラしないのが条件ですよ」

 杖をついて立ち上がると、理央さんは左手に二人分のお弁当を持ち、右手でわたしの左腕を取ってフォローしてくれます。

 杖持ちの介助かいじょ法なんて、一体どこで覚えたのでしょう?

繭美まゆみのフリソデ肉はプニプニして気持ちええのう」

 教室を出て廊下ろうかを歩きながら、くっそどーでもいい話をする理央さん。

「わたしとセクハラから離れてください」

「知っとるか? 上腕三頭筋まわりのプニプニはおっぱいと同じ柔らかさ……じゃが本物には到底及とうていおよばんのう重量感がまるで足りぬ」

「理央さんのは腕に負けてますよね」

 真緒姉ほどではありませんが、理央さんはなかなかのペッタンコさんです。

「なんだとドチクショーおっぱいが三つあるくせにー‼」

「うひゃあっ⁉」

 突然抱きついて、わたしのお腹をモミモミする理央さん。

「こっちの方が重いしプニョプニョじゃあ! どうやらお腹にもブラジャーをつける必要がありそうじゃのう?」

「うひゃひゃひゃやめ……フンッ!」

 ガッ‼

 理央さんの顔面に裏拳をかましました。

「ブグヴォエッ⁉」

 激痛に耐えながら、ゆっくりと座ってお弁当を床に置き、それから転げまわる理央さん。

 毎日休み時間のたびに顔面を攻撃しているのに、どうしてお鼻がゆがまないのか不思議です。

「セクハラしない約束でしたよね? では今日のお昼は一人で食べる事にし……あら?」

 階段ホールのかげから、こっちを見ている人がいるのを発見。

 わたしたちは(正確には理央さんのセクハラが)目立つので、人目を引くのはわかりますが、この子だけは視線がちょっと違います。

 目で必死になにかを訴えかけているご様子。

 セーラー服が黒いので中等部の子でしょう。

 わたしより小柄で巻き毛で可愛い丸メガネのお嬢さんは、手招てまねきしたいのに一歩踏み出せない、そんなオーラを発散しています。

「理央さんはお帰りください。わたしはあのラブリーチャーミングな女の子と一緒にお弁当を食べますね」

「ふぉんばぁ~~~~っ⁉」

 理央さんは観測者の視線が一瞬でも途絶とだえると瞬時に肉体を復元する■■■なので、衆目を集めているいまだけが脱出のチャンス。

 杖をつきつき近づくと、巻き毛ちゃんはモジモジしながら片手を出して、わたしのそでをつまみました。

 理央さんと違って、いきなりお胸を掴んだりはしません。

「…………あ、あのぅ……」

「朝のアレな子の関係者さんですよね? お話したいんでしょう?」

 雰囲気からして、ついて行ったら校舎裏で厨二JC海さん殺人鬼が待っていた、なんて事にはならないと思います。

 いえ、おそらく海さんは、いまごろ……。

「……はい、海の件でご相談を……」

 ドンピシャでした。

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