第145話 犬族へ潜入
城から村を突っ切って空を飛ぶ、俺が猫族の味方と思われてはいけない、なんてこと前もやった気がするんだけど?
上空から見るこの世界は殆んどが森に埋め尽くされてるんだと思う、モナも自然なままの世界を造ったと言っていたから、まだ発展途上の世界なんだ、野生の動物と、何族、みたいなものしか居ないのかな。
その何族的なのも、まだ世界の半分にも迫っていない規模なのだ、空を直線に飛べば犬族のエリアには二日間で入る。
上空から、匂いと目で感ずかれない様に犬族の村をクルクル回って観察、正直猫族とそう変わらない様な気がする、個性って大事!
探知と匂いでベスを探してみるけど、探知は一点を指してる、城だ、王様乗り気杉!
どうやって入り込もうかな?コソコソするのは好きじゃない、正面からこんにちは、で。
ふふはは、正面からといいつつ、馬鹿正直にはいかないのは分かっている、策士策に溺れるなんて事は断じてない!
門の上を上空から通りすぎて探す、探す、誰を?そりゃ俺の可愛さを分かる犬族さ。
目指すは女子供、城に近い方が良いだろう。
暫く空に浮かんで見つめていると、城の裏口から犬族メイドさんだろうか?ゴミらしき物を捨てに出てきた、チャンス!
気配を消して、迷彩、気がついたらそこに居ましたって風を装う、スチャっと地面に着いたら背後に回って、ゴミを捨ててるメイドさんに気づいて貰えるように、魔法を消す。
「っ!て、あらビックリしたわ、犬ね……」
ふむ、気配には敏感なのね。
「きゅーん」と鳴く、ゴミを漁りますね、と見せかける、捨てたゴミに近づくと、抱き上げられる。
「あら、野良なの?毛並みも良いし可愛いのに、可哀想ね、ご飯欲しいなら用意するよ?」
「きゅんぅ?」いいの?って感じで首を傾げる
「かーわいい、良いよ、あげるよ。」
尻尾フリフリで嬉しいですアピ。
「今日の残りでいいならね、おいでね。」
抱っこされたまま、城の中に入る、チョロいぜ、ふふふ、食事なんですか?
「ねぇ、この子裏で拾ったの、お腹空いてるみたいでさ、何か残ってなかった?」
犬メイドさんが何人かおるで、犬族って皆厳ついドーベルマン風だと思ったけど、雌は柴犬に近い、可愛いの……くやちぃ!
「何よーその子、可愛いね?」
「可愛いなら忘れないけど、迷い混んだのかね?親が探してるかもよ?」
「それなら分かるよ、近くに親は居なかったよ?捨てる親も多いからね、ここで飼う?」
それはマズイ。
「そーしたいけど、それは王様が許さないね」
「確かに、意地汚いケチだもんね!」
クフクフ笑われてる、王様(笑)
犬族全員が戦争したいとか思ってる訳じゃないのは分かった。
「賄いの余りがあるよ、それあげたら?」
「そうだね、それ頂戴よ。」
賄いの御飯を器に入れて、ほらお食べ?
「きゃん」有り難うーングング
あんまり美味しくないけど、尻尾振って喜んでるサインを出す。
「はは、可愛いねーご飯に困ったらおいでよ」
中々優しい犬族である、腐ってるのは上の方だけっぽいな。
「じゃあ、あたしは先にあがるよ、お疲れ」
「ああ、お疲れ、また明日ね。」
「あたし、この子食べ終わるまで待ってるから、片付けはしておくよ。」
「有り難う、じゃお疲れ様ー」
拾ってくれた犬族のメイドさんが残って俺が食べ終わるのを見ている。
全部食べないと駄目そうだ、仕方がない、お腹は減ってないし、美味しい訳でもないけど、優しさに免じて全部食べますー!
ぴーちゃんの何様?って言葉が聞こえて来そうだが、ここからどうしようか、無計画。
「あんた、本当に親居ないの?」
「きゅーん」耳垂らして項垂れる
「そうかい……野良は厳しい世界だよね。」
確かに、この世界で只の犬なら厳しいわ。
「今日は夜、雨降りそうなんだ、あんた良かったらここに泊まるかい?飼えないけどね其くらいはしてあげられるよ?」
いいんすか!ラッキー!追い出されない!
「きゃんきゃん!」ありがとうーぐるぐる
「はは、現金だね?でもイタズラしらもう世話してあげないよ?いいね?」
「きゅうーん」わかったよー
食べ終わった器を洗うメイドさん、俺は取り敢えず端に寄って、寝る姿勢を見せる。
「よし、後は……大丈夫だね、じゃああたしは帰るから、本当にイタズラは駄目だよ?」
「きゃん」わかってるよ、尻尾フリフリ
「この可愛さ、うちの息子と交換したいね?じゃあ、おやすみー。」
ナデナデしてキッチンの裏口から出る犬メイドさん、犬シェフ?そんなの居なそう。
暫く待って足音や気配が探知から出たのを確認してから、行動開始、ベスが何処に居るかは大体分かっている、コソっと気配消して、と結界、迷彩で完全防備、キッチンから出ると、武装した犬族が数人歩き回っている。
やーね?厳戒体制ってヤツ?
シラッと警戒中の犬族の間をすり抜けて、上へと進む、馬鹿となんとかは高いのが好きってな?木の上に建ってないから三階建てだ、王の間はちゃんと三階にある、やっぱ馬鹿だな。
三階に進むにつれて、警備の数も多くなる、多いのは分かるんだけど、猫族の監視してんのかな、何時までも迎えに来ないとかあるよ?
三階の、恐らく王の間だろう、大きくて飾りもない武骨な扉がある、ベスの反応はあそこにある、にゃーにゃー五月蝿いのに付き合ってんのかなー?……ソソソーと近づいて、誰かが扉を開けるのを待つ、入るのはそれしかない。
王様の反応もあるし、ベスの反応もある、だけど扉が開かないのよ、お座りしながら、もう一時間程経過してますよ?何してんの?
食事もださないのかよ!ミルクもないの?いい加減食事しろ、健康に気をつけな!
待てど待てど……お座りから三時間経過して何かブチ切れしそう、ぶっ壊して連れ出せばいいんだろ?こんなに無駄に待たせやがって!
警備犬はウロウロしてんのに、誰も入らない……あ、そうだ、いい方法がある、出ないなら出してやろうホッチキス。
扉の下にある僅かな隙間に、召喚で沢山取っておいてある、猫のおやつ、ちゅーを出して先端を切る、そして、隙間に差し込む。
犬用ではないが、猫も犬も味より匂いに敏感だからな、あんまり関係ないだろう。
暫くすると、ベスじゃない気配が扉に近づいてくる、かなり近くに来た所でサッと空間庫に仕舞う、扉がドンドン叩かれる、五月蝿い。
ベスの声が聞こえなかった、大興奮するはずなのに、縛られてるにしては微かにも声が聞こえないのが気になる、もしかしたら拷問されたのかもしれない、やだ!もう!
ドンドン叩かれる扉に警備の犬が大変だっーて顔で扉の鍵を開ける、外にも鍵とか。
カチリと鍵があく音、そして思いっきりバーッンと何者かが扉を開ける。豪快。
「な、なんなのだ!今の香りは!!誰か!今の匂いのモノ直ぐに用意せよ!」
うおい……デブ猫ならぬ、デブ犬だよ、そんでもって、頭の上に王冠してる、なんて分かりやすい王様なんだ、只の馬鹿だな。
「王様!そんなものは有りません!」
「そんなはずはない!謀るか貴様!」
「いいえ、微かに匂いは確かにしますが、食べ物は皆持ち歩いていませんっ」
「な、なんだと?ならば先程の香りは何だ!」
「分かりかねますっ」
「ええい!いい加減にしろ!先程の芳しい匂いを見つけるのだ!さっさとしろ!」
「はっはい!」
なんて言い合いを背後で聞きつつ、開いた扉から入る、広間は大きいがほぼ何も置いていない、ベスも置いていない……探知がそこに居ますよって、示してるんだけど、やっぱり隠し通路か何かあるんだろう、微かな風や匂いをクンクンして探す。
背後でバタン!と扉が閉まる、王様も戻ってきたし、隠されてるとは、面倒な!
怒っている王様スタスタ歩いて、王様!って感じの椅子の裏に行く、バン!と壁を叩くと回転扉ーおおーニンジャーゲイシャースキヤキ!
回転扉が閉まる前にダッシュで飛び込む、暗い通路が続いている、何処に続いてるのかな?王様の後ろを普通に歩いて追跡、魔法万歳。
一本道らしい通路の先には牢獄だった。
頑丈な木枠の牢屋の中にベスが居る、起きてるのに、喋らない……鑑定しても異常は見当たらない、一安心したけど、どうしたし!?
「貴様!何か企んでおるのか!先程異常があったぞ?猫族が小細工して貴様を助けようとしているみたいだな?ははは!これで戦争だ!」
「何を言う、私に人質の価値は無いと何度言えば分かるのだ?」
ふ、普通に喋ってるぅー!!!
「ハッ何を根拠に価値が無いと言うのだ、第一継承者のお前が!」
今は普通だからね、そうだよね、ベスぅお前自分に価値がないって主張するなら、にゃーにゃー喋ろよ!何でここで見栄張ってんの!?
「ハッ!?何かしらのテレパス!」
ここで受け取るんじゃねーよ!
「ふはは、やはり潜入しておるか!これで猫族との戦争よ!」
証拠が取れればお前ら犬族のが先に手出してるんだけどね?レトロな世界は不便。
「そんな事はさせん!さっさと我を解放しろ!意味の無い事をしおってからに!」
あれ?普通ってか、これ中二病じゃねーの?そこも作ったの!?
「はは!何ならお前が先に手を出すのも見物だな?お前が戦争の引き金になるのだ!」
何だか王様も中二病に見えてきたよ……
「我はそんな事は絶対にせん!猫族の未来は我が守るのだ!」
お前には守れないから?
「未来を守ると!やってみるがいい、侵入した猫族が目の前で拷問されてもそう言えるか!」
いやもうそれ先に手出してますやん?
「な!なんて卑怯な!そんな事はさせぬ!我が止めてみせる!」
今は牢屋だろ?
「止められるならしてみるがいい!今兵達が探し回っておるからの!見物よ!」
ほんとに見物な中二病劇場だよ。
「ぐぅっ!なんて卑怯な奴等なのだ!我の寝込みを襲うだけでは足りず人質とはっ!」
寝てて捕まったの?馬鹿なの?場所選べ!
「はんっ!無防備で犬族の縄張りに入るお前に、そんな事言う資格などないわ!」
正論!そこ!正論!
っていい加減にしろよぉぉぉーー!!
「なっ!?何者……って、犬?」
「にゃ!?ポチにゃ!!助けに来たにゃ!?」
「な、なんだと?ただの犬が何故お前を助けるのだ!!どうやって此処に入った!」
うるせーな!二人で永遠と中二病劇場でもするつもりですか!ベスに価値なんてねーよ!作ってんの!キャラ作るの必死な子なの!王様ならそんなの見抜けよ!
「なっ、なんて生意気な犬だ!処分してくれるわ!誰か!おらんか!」
お前お供付けないで来てるだろ!来ないよ!
「は!そうだった!不覚!」
「にゃ!?助けに来たんにゃないにゃ?見学しに来たのにゃ!?酷いにゃー!」
「な……なんだその口調は……貴様は偽物の第一王子か?」
正真正銘長男のベス君ですよ!助けに来たのに見学するに相応しい劇しおってからに!さっさと帰りますよ!城から抜け出して捕まって、馬鹿ばっかりして、お母さんガッカリよ!
「にゃーだってたまにはシリアスモードにはいるにゃ!上手だったかにゃ?」
役作りは上手だよ、後はそれを止めるだけだよね、にゃーにゃー五月蝿いのもやめろ!
「にゃんにゃ!これは素だって言ってるにゃ!さっきのは作ってたにゃよ?」
ほら、暗いから気をつけなさい、転んでもお母さん知らないからね!
「わ、分かったにゃ、でも犬族の縄張りなんて知らなかったにゃよ?にゃはお腹が空いて匂いのする方に来たのにゃ、それから抜け出したのを後悔したにゃよ、にゃは猪しか狩れないにゃ?捌けても料理は出来ないにゃー……」
生肉食ってろ!
「酷いなゃし!」
バーンと壁を蹴って回転扉を抜ける、ほら、面倒だから転移で戻るよ!
「にゃー!母上が恐ろしいにゃ!!」
お前の性格のが恐ろしいよ!ほら!転移!
「……あらビックリ、お帰りなさい?」
「はっ母上にゃ……ど真ん中にゃ……」
もう!犬族の縄張りで寝てたの、馬鹿も大概にして?抜け出すならプランを考えろ!後はママ上にお願いしますー。
「まぁまぁ呆れた子……任されたわ、有り難うきゅーちゃんさん、お疲れ様です。」
「待ってにゃ!?置いてかないでにゃ!」
知るか!
その頃犬族の王様は一人で隠し部屋で呆然としていた。
「あ、あれに価値は……ない……」
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