epilogue

 小規模とはいえ、それなりに貨物が運びこまれ、活気があった港。


 今は、廃倉庫が並ぶだけの寂れた港が、不本意にも、かつての賑わいを取り戻していた。



「で、身元は割れたのか、ヤス」


「お疲れ様です、カワさん」


 ヤスと呼ばれた新人刑事の安川優弥やすかわゆうやは、ベテラン刑事の川田のほうへ向き直り、軽く会釈をした。


すぐ近くには、クレーンで海から引き上げられた軽自動車があった。


その車体には、落ちてなるものかと、一枚の初心者マークがしがみついている。


「遺体の着衣の中に財布がありまして、そこに免許証が入ってました」


「それで」と川田は、気だるそうな言い種で先を促す。


「佐藤誠、、無職。先月に免許証を取得したばかりです」


 安川は、ポリ袋に入った免許証を持ち上げ、形式的に川田に見せて、報告を続けた。


「助手席に乗っていたのは、おそらく妻の三枝子、六十七歳だと思われます」


「それで死因は?」


「検視の結果、二人とも溺死で間違いないようです。目立った外傷もありませんし、司法解剖には回さないとのことです」



「ふーむ」と言って、川田は、自分の後頭部をぽんぽんと叩く。



「ドアも内側からロックが掛けられていましたし、なにかを細工した痕跡も見当たりません。というより、今日納車されたばかりの新車でした」


安川は言葉を続ける。


「あと、ブレーキ痕もありませんでした」


「なるほど」と言って、川田は後頭部にやっていた手を、今度は頬にもっていき、同じようにぽんぽんと叩いて、おもむろに口を開いた。


「上は無理心中の線で決めたってか。まあ、間違いないだろうがな」



そう言って、港の出口の方へ歩き出した川田に、安川は頭の中の疑問を投げかけた。


「なんで、わざわざ免許を取って、新車まで買って、それで、自宅から遠いこの場所を選んだんでしょう」


「自宅からは?」


「直線距離で、100km以上あります」



「うーん」と川田は、あごに手をやり、思案している。



「まあ、敷鑑の報告を待とうや」



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