強靭、“獄氷の騎士フローゼン”
ベリンダは、レナートの召喚した『
レナートはその様子を怪訝に思っていたが、それも無理はない。
なぜならば、この場でそれを“視れる”のは、彼女だけなのだから。
(凄い“召喚力”です……! これは聖依のリンネと同等……いや、それ以上に思えます!)
そう、ベリンダは己のみに知覚できる“赤の召喚力”で、ジークルーンの力を推し量っていたのだ。
ジークルーンのレベルは“12”。これは聖依の『転生神リンネ』を超えるレベルで、ベリンダにとっては未知の領域であった。
そしてその領域を知る聖依にとっても、ジークルーンは確かな脅威であった。
(『
TCG『エレメンタルサモナー』において、通常の方法で召喚できるのはレベル10までである。
それは蓄積できる召喚力の限界が“10”であり、召喚時にそれ以上を支払うことができないのが理由だ。
――しかし、例外もある。
レナートの召喚した『
だが逆に、合成使い魔は通常の方法で召喚することもできない。出すには何らかのカードを用いる必要があるのだが……その分、召喚できれば強力である。
(アイツの
聖依の脳は、最適解を求めて奔走していた。
彼は、強力な能力を持つジークルーンに対抗する方法を、必死に考えていたのだ。
そんな動揺を見抜いたレナートは、勝ち誇ったように言う。
「このジークルーンを倒さない限り、貴様に勝利はないぞ!」
だがそれでも、彼の心には一抹の不安があった。
ジークルーンは並び立つ者のいないほどに超強力な使い魔だが、“無敵”というわけではない。
それを知るレナートは、更なる手を打つ。強力な一手で、聖依を更に追い詰める。
「……だが“念押し”だ! 『ジャミング・モスキート』召喚!」
黄色い1重円陣が現れた。
その中から出現するのは、人間の顔ほどのサイズの、巨大な虫――
耳障りな羽音を立てて、蚊トンボが飛翔する。
『ブゥゥゥゥゥゥン……!』
――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
ジャミング・モスキート
レベル1
虫種・雷属性
戦闘力:0
受動技能
妨害ノイズ:相手が呪文または能動技能を発動した場合、召喚力を1支払うことができる。支払った場合、その効果を無効にする。
――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――
(『ジャミング・モスキート』!? ステータスは低いが、とんでもない性能の妨害
「いくらジークルーンが最強クラスの使い魔とはいえ、
レナートは聖依に何も動きが無いことを感じ取ると、攻撃命令を出した。
「バトル! ジークルーンの攻撃――!」
傍らに控えていた機械乙女が動き出す。
腰から柄のようなものを抜き取って構えると、一瞬にして光の刃が形成される。鋼鉄の翼が開き、羽と羽の間にスパークを走らせる。
そして召喚者たるレナートが杖を掲げると――輝く剣を携えたジークルーンは、低空飛行で聖依の方へ迫った。
聖依に、選択の余地はない。
『生贄を求めるエビル・デーモン』以外に召喚している使い魔がいないのだから、ジークルーンはエビル・デーモンに迫るし、聖依もそれを見守るしかない。
無情にも、レナートは攻め立てる。
「そしてこの瞬間、ジークルーンの
エビル・デーモンの眼前まで迫ったジークルーンは、大きく翼を広げた。
瞬間――ジークルーンの周囲が、“歪む”。
まるで水で満たされたガラスの金魚鉢を通して見ているかのように、ジークルーンとデビル・デーモンの姿は崩れていた。
そんな空間の中で、エビル・デーモンは爪で襲い掛かる。
対するジークルーンは全く動いていないというのに、爪は宙を切るばかりで当たらない。
ベリンダはその様子を怪訝に見つめ、そして思わず口に出していた。
「エビル・デーモンが変な動きをしています!」
「そう! この空間の中では、全ての使い魔は思うように動けない!」
エビル・デーモンは誰の目から見ても分かるほどに
苛立ちを発露させるように唸り散らかし、眼孔に宿る魔性の光は一層強い輝きを放つ。
ジークルーンに跳びかかろうとしても、1歩踏み出すのと変わらない距離だけ進んで、墜落して跪き、そして悔しそうに吼える。
『ヴァァァァ……!』
『生贄を求めるエビル・デーモン』 戦闘力:2500 → 1250
――そしてその“隙”を、レナートとジークルーンは見逃さない。
「今だ! 斬り裂け、“ヴァルキュリアス・ブレード”!」
エビル・デーモンが立ち上がろうと、強くもがいたその時であった――
ジークルーンが急激に加速し、超低空飛行でエビル・デーモンとすれ違う。
光の剣が振るわれて、流れ星のように煌めく。
次の瞬間――エビル・デーモンの首は、地に転がっていた。
そして分断された胴体と共に、光となって消滅していくのである。
「――エビル・デーモン撃破! これで後はないぞ!」
「くっ……!」
「更に『ジャミング・モスキート』で追撃! これで
「まだだっ――!」
聖依に引導を渡すべく、『ジャミング・モスキート』が動き出す。
喧しい羽音を立てて近づくその姿を認めた聖依は、自身を守る為の1つの“手段”を発動させる。
「『
地に1重の召喚陣が現れて、山羊が姿を現した。
“敵”の目の前に突然召喚された“それ”は、恐れおののいて情けなく鳴き叫ぶ。
『メエェェェェッ!』
――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
レベル1
哺乳種・地属性
戦闘力:0
受動技能
高速召喚:召喚されている自分使い魔がいない場合、このカードは戦闘フェイズ中の敵攻撃宣言時に召喚することができる。
――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――
『ジャミング・モスキート』はその姿を認めると、撤退した。
安堵したのか、『身代わり山羊』は息を荒げながらも大人しくなる。
そんな様子を見ていたレナートは、聖依の戦術に感心していた。
(なるほど……このタイミングで召喚されれば、ジークルーンの
そう、『電動神姫ジークルーン』には、『反重力フィールド』の他にも特殊能力がある。
それは、相手に自身との戦闘を“強制”させる
通常ならばこの
しかし、それを逃れる唯一の手段が、聖依の打った手である。
『ジャミング・モスキート』が攻撃してきたタイミングで召喚すれば、ジークルーンはモスキートと山羊の戦闘を邪魔することは出来ない。
かなり限られた条件だが、幸いにも聖依はそれを満たすことができたし、レナートは舌を巻いていた。
「ちっ……戦闘力を持たない『ジャミング・モスキート』では、そいつを葬ることは出来ない。命拾いしたな」
聖依は何とか一命をとりとめたが、追い詰められていることに変わりはない。
傍から見ているベリンダもそれは理解しているので、危機感は募るばかりである。
(しかし、エビル・デーモンはやられてしまいました……! 聖依に何か策はあるのでしょうか……?)
ベリンダは思い返す。これまでの戦いの数々を。
――そして、思い出す。聖依の窮地を救ったカード……彼を導く、とても印象深い“女神”のことを。
(――そうです! 今こそ、『転生神リンネ』の出番! こういう状況を打破するのは、いつもリンネです! きっとセイも、それを狙っているはず!)
その考えに至ったベリンダは、聖依の腕輪を覗き見た。
腕輪に宿る光の数は“9”――あと1つは光が灯りそうな隙間を見つけると、落胆するベリンダ。
(でも、リンネを召喚するにはあの腕輪が最大限に輝いていなければならない……。おそらく今から、“何か”をするつもりなのでしょうが……!)
今この瞬間はリンネを召喚できないのだと悟ったベリンダは、気持ちを切り替えた。
聖依の中に残っている“闘志”を信じて、期待して待つことにしたのだ。
一方でリンネの存在など知らないレナートは、既に勝利を確信していた。
「俺はこの鉄壁の布陣がある限り、何もすることはない。後は貴様の使い魔を片っ端から倒すだけで俺の勝ちだ。さあ、さっさと“降伏”しろ」
レナートは勧告する。
聖依はその言葉に何か引っかかるものを感じていた。
(なんだ……? コイツ、“降伏”を認めるつもりがあるとでも言うのか……? でも――)
しかし、聖依はその疑問を振り払う。
なぜならば、そんなことを“考える必要などない”からである。
そう――既に彼には、この状況を打ち破る“考え”が浮かんでいた。
「……アンタにとっては残念だろうが、僕はこの状況を“打破”することができる」
「何!?」
(やはり! セイには何か策が――!)
レナートとベリンダを驚かせた聖依は、すぐさまその“考え”を実行に移す。
聖依は杖を構えると、1つの呪文を発動させた。
「
――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
無差別な
レベル1
通常呪文
効果
自分フェイズ時:互いの召喚力を2回復する。
――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――
聖依の召喚杖が輝くと、腕輪の光の灯っていない“隙間”が点滅を始めた。
銀色の光が、腕輪の一面を埋め尽くそうとしているのだ。
ベリンダは期待通りの展開になったことを喜び、思わず悶えていた。
(やりました! これでリンネを召喚できます!)
――しかしそれは、ぬか喜びに終わってしまう。
彼女には理解できていなかったが、レナートはこういう時のための“対策”をすでに行っている。
「『ジャミング・モスキート』の
『ヴィィィィィン!』
モスキートが羽ばたく羽を震わせて、不協和音を奏でる。
羽から伝わる空気の振動は、聖依の召喚杖にまで届いて、その機能を阻害する。
聖依は、杖の先に集中していた“力”が、霧散する感覚を味わった。彼にはそれが、手に持っていた風船が弾けるような感覚にも思えた。
「
「『無差別な
「そ、そんな……! セイの起死回生の一手が……!」
レナートは得意げに聖依の『無差別な
(しかし引っかかる……奴ならば、こうなることは“解って”いたはずだ。なぜ、こんな“無駄”なことをした……?)
思考を巡らせるレナートであったが、その答えにはたどり着けない。
仕方なしに聖依の次の動向を見守るレナートだが、次の瞬間――
心の奥底にあった“不安”が、膨れ上がった。
「ふっ、ふふふふふ……」
聖依が突然に震えだす。
肺から小刻みに空気が吐き出される音が、ベリンダに“心配”をかけさせて、レナートの“不安”をかきたてる。
そう――それは、“失笑”であった。
「ど、どうしてしまったのですか、セイ! このままでは……」
「いや、なに…………“勝った”と思うと、嬉しくなっちゃってね」
そしてその言葉を聞かされると、レナートの脳内に衝撃が走った。
後ろから突然殴りつけられたような――そんな驚きと恐怖に支配されて、彼は冷静さを失いつつあった。
聖依の腹を探るように、レナートは問いかける。
「何だと!? 馬鹿を言うな……ジークルーンはまだ健在だし、ジャミング・モスキートの
「でももう僕の“勝ち”だ」
「ならばやってみろ! できるものならな!」
「当然、そうさせてもらう!」
聖依が“そのカード”を思い浮かべると、脳裏に鮮烈なイメージが走った。
それは、全てを死に至らしめる地獄の氷牢。それは、何者にも屈しない気高き戦士。
そして聖依は、気が付くと思うがままに唱えていた。“奴”を
「……
蒼い8重の円陣が、地に展開する。
全身鎧の騎士が、召喚陣から浮かび上がる。
兜の下に隠れた冷たい瞳が、対峙するレナートを畏怖させる。
そして、聖依は叫んだ。
そのしもべの名を。彼が信頼を寄せる、その使い魔の名を。
「――来たれ! 『獄氷の騎士フローゼン』!」
その騎士は完全に顕現すると、自身の背丈以上に長い槍を振り回し、構えた。
その突起物だらけの鋭い槍は、振るう者自身をも気づつけてしまいかねない、異様なまでに攻撃的な形をしていた。
その海のように鮮やかな蒼の鎧は、全ての命あるものに、底知れぬ恐怖を与えていた。
そしてその騎士は、小さく笑った。
『ふっ……ようやく私の出番ですね』
――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
獄氷の騎士フローゼン
レベル8(ユニーク)
霊長種・水属性
戦闘力:1000
能動技能
アイシクル・スピキューア:(コスト:自分のデッキ5枚の消滅)この使カードのレベル以下の相手使い魔1体を破壊する。
受動技能
アブソリュート・ゼロ:このカードが召喚された時、自分のデッキが残り5枚以下であれば発動。この使い魔の戦闘力に5000を加え、更に自分のデッキの残り枚数×1000を減らす。
――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――
聖依はフローゼンの声に強烈な違和感を覚えた。
(女の声!?)
『獄氷の騎士フローゼン』はイグナイトと比べて細身であったし、女性だと言われても納得のできる体型ではあるのだが……聖依は、男だと思い込んでいたのだ。特に公式で性別を明言されていたわけではない。
聖依は自身の抱いていた誤解を隠すように、フローゼンに対して毅然に振舞った。
「……こういう状況じゃなきゃ出せなかった。それだけだ」
『わかっていますとも。イグナイト卿が“優位”を盤石にする者ならば、このフローゼンは“劣勢”を
同意したフローゼンは、目の前のジークルーンを見据える。
己が敵を見定めて、その強大さを認める。
『貴方が私を頼るのは、真に“追い詰められた”時でなければならない……』
聖依がフローゼンの声に困惑していると、レナートもまた別の理由で驚いていた。
(使い魔が“喋った”だと!? まさか、“意思”を持っているとでもいうのか!)
そう――使い魔との会話が成立していることに、驚愕していた。それは、彼が初めて見る光景であったのだ。
凄まじく衝撃を受けるレナートであったが、思い直す。
(……いや、俺が知らないだけで、高位の使い魔は皆そういうものなのか……?)
自身の超高位使い魔であるジークルーンを見るレナート。
しかし、ジークルーンは何も反応を返さなかった。
レナートの視線が敵から逸れていたその時、ベリンダの感嘆の声が響く。
慌ててレナートは、意識を闘いの方へと戻した。
「新しい高位使い魔……!? セイにはこんな隠し玉があったのですね!」
「お、驚いたぞ……まさか、レベル8の使い魔を召喚するなんてな……! だが――」
フローゼンが意思を持っていることに驚いたレナートだが、“脅威”とは思っていなかった。
なぜならば――
「フローゼンの
そう、フローゼンの持つ
それに、『ジャミング・モスキート』もいるのだから、その
――しかし、聖依の狙いはそこではない。
「そう、
「“
「そうだ! フローゼンの
白い霧のような冷気が、フローゼンを包む。
冷気は
「フローゼンは追い込まれているとき、その真価を発揮する!」
『お見せしよう、我が秘儀の力を!』
そして、フローゼンがどこからともなく青いバラを取り出すと――
その花びらは一瞬のうちに凍り付いて真っ白に染まり、振るとバラバラに砕け散った。
『獄氷の騎士フローゼン』 戦闘力:1000 → 5000
聖依のデッキには残り“1枚”のカードしかない。
『無差別な
結果――フローゼンの戦闘力は5000上がって、1000下がる。差し引き4000の上昇である。
だがレナートは、聖依のデッキ枚数など把握してはいない。
故にフローゼンの現在の戦闘力はわからないし、ジークルーンを倒せるなどとは思っていなかった。
……そう思い込む以外に、取れる選択肢はなかった。
「こ、こけおどしだ! “
「そう思うならかかってくればいい! 来なくても、結果は変わらないけどな!」
レナートにも、本当はわかっている。もう既に、勝ちの目はないのだと。
それでも僅かばかりの可能性に賭けて、逡巡の末にレナートは攻撃命令を出した。
「くっ……行け、ジークルーン!」
「迎え撃て、フローゼン!」
『承知しました、
ジークルーンはフローゼンに接近すると、不思議な歪みを持った空間を発生させた。
エビル・デーモンを屠った、最強の能力である。
「『反重力フィールド』! フローゼンを弱体化させる!」
『む……』
困ったように身じろぎしたフローゼンだが、その表情は兜に包まれていて読み取ることができない。
しかし確かに影響はあるようで、間合いを計る足運びはどこか浮ついていた。
『獄氷の騎士フローゼン』 戦闘力:5000 → 2500
「そして“ヴァルキュリアス・ブレード”! ……奴を倒せ!」
すかさず、ジークルーンが攻め入る。
眩しく輝く“ヴァルキュリアス・ブレード”が、自由を奪われたフローゼンを襲う。
光刃が胸に突き立てられようとしたその時――
槍が、ジークルーンの腕を払いのけた。
『甘い』
「なっ!?」
フローゼンは短時間のうちに、『反重力フィールド』内での動きをある程度習得していた。
そして、最小限の動きのみで、ジークルーンの動きを崩したのである。
その隙を見逃す聖依とフローゼンではない。ここから、“逆襲”が始まる――
「フローゼンの反撃――!」
咄嗟に槍を構えなおすフローゼン。
ジークルーンに表情はないが、慌てて槍に視線を向ける様は、焦っているようでもあった。
――しかし、もう遅い。
「
『はあっ!』
弾丸の如き鋭い軌道が、ジークルーンの胸を貫く。
鋭い先端は鋼鉄の装甲を抜いて内部にまで到達し、咬合する動力部を破綻させる。
カメラ・アイからは光が失われ、胸が小刻みにノッキングを繰り返す。
『反重力フィールド』の支配から逃れたフローゼンが、槍を引き抜いて跳び去ると――
ジークルーンは、爆散した。
「『
「やりました! これで聖依の勝ちです!」
正確には、まだ決着はついていない。
聖依はレナートにとどめを刺していないし、『ジャミング・モスキート』もまだ残っている。
……しかし、もう“同じようなもの”であった。
レナート自身の心は、敗北を認めていたのだから。
「ば、馬鹿な……そんなことが……! なぜ、こうなった!?」
レナートには“敗けた理由”がわからない。
ジークルーンを召喚した瞬間――彼は確かに勝利を確信していたし、高レベルかつ戦闘能力においては“最強”のジークルーンが倒されることなど、考えてもいなかった。
どこから“勝算が狂ってしまった”のかなど、彼には思い当たるはずもなかった。“後悔”することもできないでいた。
それを哀れに思った聖依は、静かにその問に答える
「アンタがユプシロンを出した時から、ジークルーンの召喚を狙ってくることは読んでいた。だから僕は、ずっとその対策を考えていたんだ」
「その答えがフローゼンか……!?」
「初めは『魂葬黒鴉』で、確実にモジュールを始末することを考えた。だけど、気が付けばそれは難しくなっていた……」
首を横に振る聖依。
一瞬だけ言いよどむと、彼は言葉を続ける。
「だからこれは“偶然”が積み重なった結果であって、僕の戦術が優れていたわけじゃない。デッキの消費枚数が1枚違っただけでも――或いはフローゼンがデッキに入っていなかっただけでも、僕は敗けていた」
それは聖依の送れる、最大の賛辞であった。
聖依がジークルーンを倒せたのは、『獄氷の騎士フローゼン』を持っていて、尚且つその能力を最大に発揮できる場面が整っていたからだ。最初から想定していた作戦ではないし、“勝機”に気が付いたのも土壇場でのことであった。
故に聖依は、レナートに対して“敬意”を表すると同時に、胸の内にあるカードゲーマーとしての“申し訳なさ”を吐露したのである。
尤も、その言葉を受け取るレナートは、とてもいい気分とは言えなかったのだが。
「さて。フローゼンを倒す方法が無いのなら、僕の勝ちだが……どうする?」
レナートには、フローゼンを打ち破る術など残されてはいない。
彼のデッキもまた、聖依と同様にボロボロになっていて、残された“選択肢”は少ない。
そしてジークルーンを失った今、“勝ち筋”などあるわけはなかった。
ともすれば、彼に残された選択肢はたった1つ――
“諦める”……ただ、それだけであった。
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