殲滅、“復讐”のプロミネンス・ストラッシュ
聖依の“勝利宣言”は、教団の2人組の神経を逆なでした。
すでに追い詰めているはずの相手が、真逆のことを言っているのだから、それは何らかの“メッセージ”であることは確かであった。
それを寅丸は、“挑発”されているものと受け取っていた。
「はぁ!? テメェ……今“勝つ”とか言いやがったよなぁ……?」
怒声を上げる寅丸は、自らの使い魔を誇示するように――
そして、現在の“戦力差”を思い知らせるように、腕を広げて主張する。
「この状況でっ! どうやったらそんな寝言ほざけんだよ、えぇ!?」
「そ、そうです! 信じていないわけではありませんが――それは無理があるのでは!?」
状況は、数だけを見れば寅丸たちが圧倒的有利に思える程の差である。ベリンダが聖依の言葉を信じきれないのも、無理はない。
寅丸と丑尾は計4体もの使い魔を従えており、更にその中には強力な『グラップラー・ブルー』と『グリーン・タイタン』まで存在する。
対する聖依は、ベリンダの使役していた『フレイム・ヴァイパー』さえも消滅し、残るは『生贄を求めるエビル・デーモン』の1体のみ――
しかし聖依は、寅丸の問いかけに対してあくまでも冷静に――勝ち誇ったように、答えてみせる。
「と言われてもな……実際、もう勝ちが“確定”している以上、そうとしか言いようがない」
それを聞いた丑尾は、哀れなものを見るような――あるいは失望したかのような眼差しで、聖依を見つめた。
「鏡よ……確かに貴様は強い、それは認めよう。だが――」
落ち着いた声音の丑尾だったが、次第にその声に力が入って震える。
「“ソレ”はハッタリにもならん! もう、我らの“勝ち”で決着は付こうとしているのだっ!」
丑尾は、激高していたのだ。
“強敵”として認めた相手の、虚言にも劣る戯言を聞かされ、失望を通り越して怒りさえも覚えていたのだ。
彼の目には、聖依が必死に悪あがきをしているようにしか映らなかったのである。
「ハッタリかどうか、確かめてみたらどうだ!」
「いいだろう! 貴様の虚勢、打ち砕いてくれる! 行くぞ寅丸!」
「おうよ! 補充の『ミュータント・ソルジャー』を召喚! ナメた口きけねえようにしてやるよっ!」
寅丸は消え去った使い魔の穴を埋めるように、再び異形の戦士を召喚した。
戦士は
『ググオオォォォッ!』
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ミュータント・ソルジャー
レベル4
霊長種・地属性
戦闘力:1600
受動技能
歪なる改造人間:このカードは哺乳種または無命種としても扱う。
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――――――――――――――――――
寅丸の杖の全ての花弁に光が灯ったことを確認した丑尾は、自らも最大限の構えで挑むべく、新たに使い魔を召喚する。
「俺も追加の『オーク・ガードナー』を召喚だ! 追い詰めてやるぞ、鏡!」
『ブモォォォォッ!』
――――――――――――――――――
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オーク・ガードナー
レベル3
哺乳種・地属性
戦闘力:500
受動技能
シールド・ガード:このカードは1ターンに1度のみ、戦闘の敗北によって消滅しない。
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――――――――――――――――――
2体目の『オーク・ガードナー』が召喚され、醜き豚たちが『グリーン・タイタン』の両脇を固めた。
これで、丑尾も召喚できる限界の数をそろえたことになる。聖依はどうあがいても、数の面で優位に立つことは出来なくなってしまったのだ。
その様子を蚊帳の外から見守るキースは、緊張していた。
「奴らには6体の召喚使い魔――対して、カガミ・セイが使役するのはたったの1体だけ……一体、どうやって対抗する!?」
キースの胸中には、不安と期待が入り混じっている。
状況を冷静に見つめたうえでの諦観と、聖依の言葉を信じたくなる希望が、心の中でせめぎ合っていたのだ。
聖依は、その問に答えない。ただ、行動をもって示すのみである。
「……さあ、“遊び”は終わりだ。
「ぎ、“儀式術”だとっ!?」
大いなる輝きが、この場に居合わせた者たちの目を照らす。
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神族降臨儀式術
レベル5
通常呪文
効果
自分フェイズ時:(コスト:レベル5以上の場の自分使い魔1体消滅)神種使い魔を1体自分のデッキから召喚する。
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輝きが収まると、その中心にあったのは“祭壇”であった。
いくつかの
これから何かが始まるのだと、察せない者はいなかった。
『生贄を求めるエビル・デーモン』が、その中心へと歩みを進める。
邪悪なる悪魔が進んで贄となりに行くその異常な様を、丑尾は唾をのんでじっと見守っている。
「ま、まさか……出てくるのか!? “オリジナル”がっ!」
「その通りだ! 見せてやる、“神”の威光を! エビル・デーモンを生贄に――!」
エビル・デーモンが、跪いた瞬間に消滅した。
そして、その残滓が上空へと駆け昇る。
光の粒と化したエビル・デーモンを受け入れると、空は輝きを増して応えた。
そして1柱の“神”が、陽光と共に降り立った。
「出でよ! 我が守り神、『転生神リンネ』召喚!」
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転生神リンネ
レベル10(ユニーク/オリジナル)
神種・無属性
戦闘力:2500
受動技能
転生神の権能:この使い魔が召喚された時、お互いに消滅した使い魔をできる限り召喚する。その後、召喚しきれない使い魔を持ち主のデッキに戻す。
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――――――――――――――――――
幼き少女の姿の“神”は、地に降臨すると腕を広げてその威厳を示す。
その身を包む輝きがより一層強まると、その光は霧散して消えた。
『圧されているようですね、セイ』
「ああ、困った時の神頼みだ! 精々助けてもらう!」
『いいでしょう。我が力、存分に使って見せなさい。はっ!』
リンネが力を籠めると、色とりどりの光の球が宙に現れる。
それが戦いの中で倒れた使い魔たちの魂であると、聖依は知っている。
その中のほとんどは各々の杖へと吸収され、場には3つの魂のみが残った。
赤い魂が2つと、黄色い魂が1つ。
それらの輝きは大きくなり、今再び顕現しようとしている。
「リンネの
黄色の光を放つ球から、悪魔が現れた。
悪魔は嗤う。復活できたことへの喜びを表すものなのか、それとも何か残虐なことを考えての悦びを意味しているのか――
それは、誰にも分らない。
――――――――――――――――――
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生贄を求めるエビル・デーモン
レベル6
悪魔種・雷属性
戦闘力:2500
受動技能
魂屠りの
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――――――――――――――――――
そして、もう1体の使い魔も姿を現す。
人の形に変化していたその赤い魂の正体は――
「『獄炎の騎士イグナイト』を召喚!」
「な、なにぃぃぃっ!?」
そう、それは聖依の最も信頼する“エース”であった。
光の中から現れた全身甲冑の騎士は剣を手に取ると、高らかに笑ってみせる。
『ふははははははっ! 遂に吾輩の出番が来たわけだ!』
――――――――――――――――――
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獄炎の騎士イグナイト
レベル8(ユニーク)
霊長種・炎属性
戦闘力:3000
受動技能
プロミネンス・ストラッシュ:自分のデッキが残り15枚以上の時、このカードは戦闘勝利後に続けて攻撃を行うことが出来る。この技能の発動中、この使い魔による召喚士への攻撃は無効となる。
―――――――――――――――――――
――――――――――――――――――
ついでのように、ベリンダの目の前には『フレイム・ヴァイパー』が現れていた。
しかし当のベリンダは、そんなことには気が付いていない。
彼女の目には、聖依の作り出す“希望”しか見えていなかったのである。
「出ましたっ、聖依の“必殺コンボ”! あれなら、この窮地も脱せるかもしれません!」
「な、なんという力を持った使い魔だ……!」
かつて子々津を葬った強力な1手を目にして、ベリンダは歓喜する。
キースもまた、リンネの能力に驚愕して震えていた。
そして寅丸は――憤っていた。
「……ふ、ふざけんな! い、いつイグナイトなんか倒したんだよっ!? ありえねえ!」
もちろん、彼とて“イカサマ”などを疑っているわけではない。
しかし、理解はできていなかったのだ。故に、不条理を嘆く。
だが丑尾は、正確とはいかないまでも、ある程度その“謎”の正体を予想することはできていた。
「いや、寅丸よ……! 俺たちは確かに、あんな使い魔を倒してはいないが――“消滅していたかもしれない機会”はあったっ!」
「な、なにぃ!?」
「エビル・デーモンだ! 奴の“攻撃コスト”にしたんだ! 切迫していたのだろうが、それにしてもずいぶんと思い切った真似をっ!」
丑尾は、聖依が破れかぶれになってイグナイトを消滅させたのだと、思っている。
だが、それは違った。聖依は、その“間違い”を指摘する。
「違うな! 僕がイグナイトを消滅させたのはそれよりも前――
「馬鹿な……! そんなタイミングで、イグナイトを“捨てて”いたというのか!」
「『魂葬黒鴉』がやられた時点で、“こういう決着”以外ありえなかったっ! だから、あらかじめ“仕込んで”おいた!」
そう、聖依は自分の優位を維持できないとみるや否や、リンネの召喚による逆転以外の勝ち筋を捨てていたのだ。
故に聖依は、即座にイグナイトを消滅させる方法を採った。
そして今――その“仕込み”は作用したのである。
「そ、そんな前から、イグナイトを手放していたと言うのですか!?」
「なんという胆力だ……!」
ベリンダとキースは、その潔い判断に感嘆する。
しかし当の聖依は、手放しで喜ぶことは出来なかった。
聖依は、隣に立つベリンダを横目でみる。
(尤も、“助け”がなければこうはいかなかったけど……!)
“オリジナル”の登場によって、誰もが聖依の動向に注目せざるを得なかった。
しかしそんな張り詰めた雰囲気は、すぐに打ち崩される。
――そう、丑尾徹也は、気が付いてしまったのだ。
「はははははっ……! 確かに素晴らしい……だが……」
丑尾は嘲笑する。
他人の――そして自分の過剰なまでの反応を思い出して、その滑稽さに笑っていたのだ。
そして丑尾は指摘する。
「状況は全く変わっていない! イグナイトと俺の『グリーン・タイタン』の戦闘力は互角! 倒すことができない以上、貴様に勝ちはないのだ!」
“エレメンタルサモナー”のルールでは、戦闘力が同じ場合引き分けとなり、互いの使い魔は消滅しない。
この世界での実証実験まで行っている丑尾にとって、それは真理であった。
そう――聖依の召喚した使い魔たちの中に、タイタンを倒せるカードは存在しないのだ。
だが聖依は、まだ“秘策”を残していた。
「何を勘違いしている……! これで終わりなわけないだろっ!」
「何だと!?」
「リンネとエビル・デーモンを送還させる! 戻れっ!」
聖依の指定した使い魔たちの足元に、召喚陣が現れた。
『転生神リンネ』と『生贄を求めるエビル・デーモン』は、召喚士たる聖依への“激励”を残して、召喚陣の中へと沈み退場していく。
『セイ……あなたに勝利のあらんことを』
『グフフフフフ……』
2体の使い魔がデッキに戻ったことを確認した聖依は、腕輪を確認する。
腕輪の面が全て銀色の縦線で埋め尽くされ、召喚力が“10”であることを確認すると、すかさず新たな使い魔を召喚した。
それは、聖依以外の者たちにとって、意外な使い魔たちであった。
「――そして、『盾持ち
デッキへと還った高位の使い魔たちの代わりに、新たに2体の使い魔たちが現れる。
その召喚陣は琥珀色で――そして、“1重”であった。
現れた戦士たちは、気合を入れて構える。
『ふんっ!』
『はあっ!』
――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
盾持ち
レベル1
霊長種・地属性
戦闘力:0
受動技能
シールド・ガード:このカードは1ターンに1度のみ、戦闘の敗北によって消滅しない。
――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――
――――――――――――――――――
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レベル1
霊長種・地属性
戦闘力:100
能動技能
マッド・マックス:(コスト:自分デッキから2枚までの任意の枚数消滅)コストとして消滅させたカードの枚数×1000このカードの戦闘力に加える。また、このカードが戦闘を行った場合、戦闘終了後にこのカードを消滅させる。この効果はターン終了時まで適用される。
――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――
――しかし、所詮彼らは“レベル1”の使い魔である。
丑尾と寅丸に脅威を感じさせるには、いささか頼りない風格だ。
「わざわざ低レベルの使い魔を召喚した!?」
「おいおいおいぃ! なんなんだよ、そりゃあよ!」
だが、まだまだ聖依の手は止まらない。
最後の仕上げに、“呪文”のカードが残っている。
「これで今の僕の召喚力は“8”……更に、
――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
レベル4
通常呪文
効果
自分フェイズ時:デッキに通常呪文カード『ブランク・カード』を3枚追加する。『ブランク・カード』は効果を持たず、発動することはできない。
――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――
「――デッキに、何の効果も持たない『ブランク・カード』を3枚追加! ……さあ、来いよ!」
聖依は、デッキに新たなカードが追加されたことを手の感触で把握した。
こうして、“準備”は整ったのである。
そう――ここからが、“反撃”の始まりだ。
「馬鹿にしやがって! 行け、『グラップラー・ブルー』!」
『しゃあっ!』
意図のわからぬ聖依の行動を、“挑発”と受け取った寅丸は、己の使い魔に命令した。
ブルーは駆けだす。豹の如き速さで、地を踏みしめて走る。
そして、その手の平が襲い掛かった。
「防げ、『盾持ち
そんな電光石火の如く迫るブルーの前に立つのは、盾だけを持たされた奴隷戦士である。
その盾が、“ドラゴン”と称されるまでの鋭いアイアン・クローを弾いた。
攻撃の失敗を悟ったブルーは引き下がる。その顔に、悔しさを張り付かせながら。
「『シールド・ガード』!
「ちっ! このためにわざわざ奴隷野郎を召喚したってのか!」
「次はこっちの番だ! いけ、イグナイト!」
聖依の声に応じて、『獄炎の騎士イグナイト』が一歩前に出る。
その手に持つのは、炎をまとった剣。全てを薙ぎ払う、秘剣『プロミネンス・ストラッシュ』である。
イグナイトはその灼熱の剣を低く構えると――次の瞬間には、走り出していた。
“炎の塊”が、“岩”に打ち付けられる。
飛び上がったイグナイトが、立ちはだかったタイタンの頭に剣を振り下ろしたのだ。
しかし、タイタンは動じる様子はない。それどころか、一切の焦りのない反撃の裏拳が、イグナイトの胴に打ち込まれていた。
吹き飛ばされたイグナイトは受け身を取ると、何事もなかったかのように立ち上がる。
イグナイトの鎧は、手加減されたタイタンの攻撃を物ともしていなかった。
その姿を認めた丑尾は安堵して、喜色を顔に浮かべた。
「イグナイトの攻撃はタイタンに誘導される! だが、イグナイトではタイタンを倒すことはできない!」
「わかってるよ! だから――!」
だが、聖依にはまだ“4”の召喚力が残っていた。
残った召喚力をすべて使い、聖依は“追撃”の呪文を発動させる。
確実に、“止め”を刺すために――
「
――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
レベル4
反応呪文
効果
戦闘フェイズ:自分使い魔が戦闘によって相手使い魔を消滅させることができなかった場合発動可能。同じ組み合わせでもう1度戦闘を行わせる。この際、自分使い魔を攻撃側とし、この戦闘のみ戦闘力を300アップさせる。
――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――
「『
「怨念に憑りつかれたイグナイトは復讐心に駆られ、もう1度タイタンを攻撃する! 戦闘力もアップだ!」
『獄炎の騎士イグナイト』 戦闘力:3000 → 3300
丑尾は聖依の発動した『
彼らは、召喚力を使い果たしてしまっている。丑尾は1の召喚力を残してはいるが、この状況を凌げるカードを発動するには足りない値だ。
聖依の勝利宣言は、そんな彼らのプレイングをも予期した上でのものだったのである。
――彼らの命運は、もう決したのだ。
『うおぉぉぉぉぉっ!』
邪悪な怨念が憑りつくと、イグナイトは雄たけびを上げた。
獣のような叫びは、死にゆく使い魔たちを――いや、その召喚者たる寅丸や丑尾さえも恐怖させていた。
イグナイトの躰は、括りつけられた糸で動かされている操り人形が如く、不自然な挙動でタイタンと再び対峙する。
そしてイグナイトが剣を構えると、聖依は命令した。
「――切り裂けよっ!」
イグナイトが飛び上がる。先ほどと同様の構図で、剣がタイタンに打ち下ろされる。
――しかし、その結果は明らかに違っていた。
イグナイトの剣は、タイタンの頭に亀裂を生じさせていたのだ。
それは、先の攻撃で脆くなった箇所に打ち込んだからではない。単純に、イグナイトの力が増したからである。
そして外殻を砕かれた『グリーン・タイタン』は、その勢いのまま溶断されて、真っ二つになった。
「『グリーン・タイタン』撃破! これで“盾”はなくなったっ!」
岩の巨人は、光となって消滅していく。
その姿を見ていた召喚教団の二人組は、自身の心から“戦意”が失われていく感覚を味わっていた。
それは“恐怖”であり、“絶望”とでも呼ぶべき感情であった。
「タイタンがやられた……! じゃあ、もう終わりだってのかよ!?」
「落ち着け! まだブルーがいる! 他のやつを盾にすればまだ――!」
闘う意思を無くしつつある寅丸に対して、丑尾は僅かばかりの希望を抱いていた。
絶大な攻撃能力を持つ『グラップラー・ブルー』はまだ生きているのだ。
『グリーン・タイタン』の代わりに他の使い魔を使い捨ての盾にすれば、ブルーの攻撃でイグナイトを打ち倒し、逆転することができる――
丑尾はそのように考えていたし、事実として“状況によって”はそれは間違っていなかった。
だがそれは、この場においては誤った考えなのである。
聖依は、容赦なくその誤りを指摘する。
「いや、もう終わりだ! 今の僕のデッキは15枚――イグナイトは技能(スキル)を使用できる!」
「馬鹿な! 貴様の使い魔は“3”体出てて、すでに“5”枚は呪文を使っているはず……! “20”から“8”を引けば“12”枚だろう!」
「だから『
「――あっ……!」
確かに、カードの使用枚数は丑尾の言うとおりである。
聖依は現在“3”体の使い魔を召喚しているし、『アロー・レイン』、『死の凶風』、『神族降臨儀式術』、『偽札作成』、そして『
そして当然、召喚されている使い魔の分と、リンネの
しかし、聖依のデッキの枚数は、戦闘前に発動した『
つまり、丑尾の言う通りの“12”枚に、“3”枚の『ブランク・カード』が加わったことで、現在は“15”枚なのであった。
丑尾がその答えに辿り着くと、彼は確信した。してしまった。
――そう、すでに“決着”はついているのだと。
「イグナイトの
『ふははははははっ! 味わえ、我が秘剣の威を!』
イグナイトの剣に纏わる炎が伸び、巨大な剣となって敵を次々と切り払う。
無敵の攻撃能力を持った『グラップラー・ブルー』も、受け身となった以上はその威力を発揮することは出来ない。
その他大勢の雑魚は勿論、防御能力を持つ『オーク・ガードナー』たちでさえ、その息もつかせぬ連撃の前に晒されてしまえば、防ぎきることなどできなかった。
全てを
そしてその残骸も、やがて光となって消えていった。
「ま、敗けだ……! 俺の……俺たちの敗けだぁぁぁっ!」
その凄惨な光景を前に、丑尾は敗北を受け入れざるを得なかった。
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