選定、次なる“凶手”は
地の底の、暗く広い空間の中に、集いし者たちの姿がある。
そのうちの5人は色とりどりのフードローブを纏い、彼らの崇めるたった一人の男は、その頭の冠を灯火で煌めかせる。
彼らこそは召喚教団が誇る“五曜司祭”と、その頂点たる“召喚教皇”。この“惑星ジェイド”を脅かさんとする、魔の首魁たちであった。
「アレクシスよ……貴様の送り出した召喚士は敗れた! この責任、どうとるつもりだ?」
命令者たる“召喚教皇”は赤のローブの“劫火司祭”アレクシスを責める。
しかし、アレクシスには悪びれる様子などなく、それどころか反抗的な態度すら見せていた。
「……つってもなあ。なーんの情報もないんじゃ、こんなもんだろ」
「アレクシス! 貴様、“召喚教皇”様に向かって――!」
「よい! ……情報があれば、勝てるというのだな?」
そんなアレクシスの態度が気に入らず、“流水司祭”エレインが乗り出す。
しかしながら当の“召喚教皇”はそれを歯牙に懸ける様子はなく、あくまでも冷静に問いかけたのである。
アレクシスはその反応に、内心ほくそ笑んだ。
それこそが、勝ち目のない戦いに子々津謙太を向かわせた、本当の理由だからだ。
「そりゃあ、無いよりはあった方がいいだろ。つーか、何も知らない相手に勝負を挑もうって方が無謀だぜ。
煽るように、アレクシスはまくしたてる。
涼しい顔をした“召喚教皇”の心を揺さぶるための、彼にとっては慣れきった駆け引きの1つだ。
そして彼が予想もしていなかった人物さえもが、その言葉に乗っかり始める。
「そうですね……口は悪いですが、これは確かにアレクシスの言う通りでしょう。“召喚教皇”様、もう少し知りえる情報を教えてはいただけないでしょうか? 敵のデッキや切り札、あとできれば名前なども……」
――そう、“暴風司祭”ソウジまでもが、同意したのだ。
その展開に、一切の言葉を発していない“轟雷司祭”ルチアや“大地司祭”イワンまでもが、驚愕している。
そしてエレインは、黙っていることなどできなかった。
「ソウジ! 貴様まで……!」
「エレイン。第一貴方だって、アレクシスの案には異を唱えなかったでしょう」
「ぐっ……!」
痛いところを突かれたエレインは、それ以上の言葉を発することができなかった。
そして沈黙が、場を支配する。アレクシスとソウジの鋭い視線が――エレインの助けを求めるような眼差しが、“召喚教皇”に突き刺さる。
――根負けしたのか、ため息をつくと“召喚教皇”は動いた。
「……よかろう! そこまで言うのなら、奴……“銀色の召喚士”の情報を授けよう!」
「おぉ! そりゃいいぜ!」
アレクシスが心から歓喜すると、“召喚教皇”は意を決したかのように力強く言い放つ。
「その男の持つ加護は“無”! 切り札は
意気揚々と情報を並べ立てる“召喚教皇”であったが、急に口をつぐんだ。
話すべきでないと判断し踏みとどまったのが、“五曜司祭”たちには分かった。
しかし、誰も追求することはない。わざわざ地雷を踏みに行くような真似など、誰もしない。
「……今、儂から言えることはここまでだ! 今度こそしくじるでないぞ、“五曜司祭”たちよ……!」
それだけを告げると、“召喚教皇”は闇の中へと消えていった。
取り残された五曜司祭たちはほとんどの者が納得していたが、アレクシスだけは内心狼狽えていた。
(“無属性”の加護……! つまり、“アイツ”じゃない……!?)
アレクシスの思い浮かべるその男のイメージは、“炎”だ。爆発的な力をもって支配する、圧倒的な暴力の化身だ。
故に、彼は予想が外れたことにショックを受けていた。自身の求める“宿敵”でない可能性を提示され、アレクシスは戸惑う。
しかしまだ、別人だと決まったわけではない。“オリジナル”――そう呼ばれるカードの存在が、アレクシスに未だ希望を持たせている。
(――いや、“オリジナル”の持ち主なら、まだ可能性はあるか……! もっと情報を引き出してやんねえとな……)
野心に燃えるアレクシス。
彼の心の中には、もはや他の“五曜司祭”たちも、“召喚教皇”すらもいない。
“
そして、その男の正体を探るべく、新たな“捨て札”の提案を行おうとする。
「よし。んじゃ、また俺が適当に――」
「駄目だ、今回は私が決めさせてもらおう」
「あぁん?」
――しかし、エレインが口を挟んだ。
思わず険悪な顔でにらみつけるアレクシス。
「“召喚教皇”様に非があるのは事実かもしれんが、貴様が失態を犯したのも確かだ。何せ、情報が不足していると知りながら刺客を送り込んだのだからな」
その言い分に、間違いはない。
それどころか正論であり、反論の余地はない。
言い返すことなどできず、アレクシスはこの場だけ退くことを決めた。
「……ちっ! わかったよ。俺は口出さねえから、てめえらで決めな」
「ふふっ……流石に“五曜司祭”の一席を預かっているだけあって、物分かりだけはいいな」
「さっさとしな! 俺はそこまで気の長い方じゃない」
「よく吠える男だ。さて、私から一つ“提案”があるのだが――」
調子づいたエレインの口から“提案”が語られる。
それはかなり堅実な方法で、誰もが納得する作戦であった。
ソウジ、イワン、ルチアが頷く。
「……なるほど。いいのではないですか」
「俺も、悪くはないと思う」
「ルチアも別にそれでいい」
余裕と優越を含んだエレインの視線が、アレクシスへと向く。
「アレクシス……貴様は?」
その眼差しからアレクシスは、エレインの意図に気が付いた。
それは見下したような目つきであり、その内にあるのは醜い感情で、そして“勝負”を嗜むものならば当然の目標であった。
そう――彼女は、勝ち誇っていたのだ。
それが、アレクシスには面白くなかった。
故に、嘲笑うように答える。
「いいと思うぜ。十中八九仕損じるだろうがな」
「何……!?」
“常人”としての感性に囚われているエレインには、アレクシスの言うことが信じられなかった。
彼女の提案は、大抵の者にとっては脅威となる、単純かつ明快な“策”だ。
人類が原初より得意としてきた、“弱者”が“強者”を打ち負かす為の原始的な方法なのだ。
しかしアレクシスは鼻で笑う。
それがまるで、夢見がちな“幻想”であるかのように。
「“本物”には、そんな姑息な真似は通用しねえってことだよ。俺はその“銀色の召喚士”とやらが、俺に並ぶ“本物”の実力者だとみている」
「ほう……ビッグマウスだけが取り柄の貴様が、ずいぶんとしおらしいじゃあないか」
「ま、今のところ確信はねえけどな。すぐに証明してくれると思うぜ」
「ほざけ!」
アレクシスは背を向け、立ち去った。
言葉は残さない。その眼中に、“五曜司祭”たちはすでに入っていない。
(“銀色の召喚士”とやら……お前が“アイツ”なら、こんな程度のやつらはさっさと蹴散らして、早く俺の所に来い……!)
心の中で、未だ正体の知らぬ相手に“エール”を飛ばすアレクシス。
期待に震える彼の足取りは、とても軽かった。
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