降臨、真の切り札“オリジナル”

(“間に合った”か……)


 聖依の視線の先では『10本』もの“銀色”の光が、腕輪の一面をギッシリと埋め尽くしていた。

 『ディレイ・フォース・キャプチャー』の効果が作用し、“召喚力”が回復したのだ。


 子々津の“返答”を受け取った聖依は、ある“使い魔”の召喚を決意する。

 それは彼にとって、自身の栄光の象徴。そして同時に、決別するべき過去でもあった。

 その姿を思い浮かべると、び出すための言葉が脳裏に浮かび上がる。


 そして聖依は、導かれるがままに唱えた。


「……生と死と、あらゆる命を司りし存在もの よ。生命の、“終”と“始”の理を冠する神よ!」


「な、なんだ、何をしようって……」


「――我ここに願う。我らがしもべたる使い魔に、再びの“生”を与えんことを! 汝が力を以ってして、我が怨敵どもを“死”に導かんことを!」


 地に“銀色”の十重円陣が現れ、屋敷全体が揺らめく。

 ベリンダやセアラは衝撃で我に返り、子々津は体勢を崩してよろめき、その中で聖依だけが、何事も無いかのように佇んでいる。


 やがて揺れが収まり始めると、“召喚陣”の中心には光の“球”が存在していた。

 “球”は徐々に光を失い、その正体を現す。


「持ち得る魂の理力を贄に――いざ降臨! 『転生神リンネ』!」


 ――その姿は、幼き少女の姿をしていた。



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転生神リンネ


レベル10(ユニーク/オリジナル)

神種・無属性

戦闘力:2500

受動技能

 転生神の権能:この使い魔が召喚された時、お互いに消滅した使い魔をできる限り召喚する。その後、召喚しきれない使い魔を持ち主のデッキに戻す。


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 少女――『転生神リンネ』は、身の丈に合わない白き衣をなびかせ、語りだす。

 その声は聖依が死に際に聞いたものと同じで、その姿は死後に視たものと一致していた。


『ようやく……ようやく私を“召喚”してくれましたね、セイ』


「してくれとは頼まれてない……! それよりも!」


『ええ、わかっています。まずは、勝たねばなりませんね』


 目を合わせていた聖依とリンネの視線が、勝利するべき相手――すなわち、子々津へと向く。

 そしてその子々津は、わなわなと震えて、リンネを睨んでいた。

 まるで、信じられないものを見るかのように、ただひたすらに怯えた表情で竦んでいた。


「リ、リンネ……? “レプリカ”は召喚できねえはずだろぉ!? どうして出て来てんだよぉ!」


「このリンネは“オリジナル”だ! 世界でただ1つ――僕だけが持つ、最高級の“レアカード”だ!」


「馬鹿なっ! じゃあ、テメーは――!」


「そんなことはどうでもいい!」


 驚愕する子々津を余所に、聖依は“遊闘ゲーム”を続行する。

 その決着を、つけるために――


「『転生神リンネ』の技能スキル発動!」


 聖依が宣言すると、リンネは大きく手を広げた。

 瞬間、ベリンダが驚嘆する。その目には、見たこともない光景が広がっている。


「こ、これは……! 凄い……ここへ膨大な“召喚力”が集まっています……!」


 リンネの周りに、色とりどりの大小さまざまな光の球が現れる。

 その中にあるほとんどの“球”は、聖依と子々津のそれぞれの杖へと還り、消えていった。


「全ての消滅した使い魔ファミリアは蘇り、その中から召喚できるだけ召喚する! 僕はイグナイトと共鳴虫を召喚!」


 聖依の目の前に、大きな赤色の“球”と、小さな黄色の“球”だけが残る。

 “球”の放つ光が消えると、その中から現れたのは『獄炎の騎士イグナイト』と『共鳴虫』であった。

 イグナイトは不敵に笑う。


『また会ったな、主殿』



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獄炎の騎士イグナイト


レベル8(ユニーク)

霊長種・炎属性

戦闘力:3000

受動技能

 プロミネンス・ストラッシュ:自分のデッキが残り15枚以上の時、このカードは戦闘勝利後に続けて攻撃を行うことが出来る。この技能の発動中、この使い魔による召喚士への攻撃は無効となる。


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共鳴虫


レベル1

虫種・雷属性

戦闘力:0

能動技能

 たましい共鳴きょうめい夜想曲ノクターン:(コスト:この使い魔の消滅)召喚中の全ての自分使い魔の戦闘力は、ターン終了時まで場の自分使い魔の戦闘力の合計となる。


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 子々津は聖依の使い魔が召喚されたことを認めると、内心嘲笑った。

 先ほどまでの驚きなど消え失せ、状況の滑稽さを冷静に見つめ直すことさえできていた。


(レベル10の“究極級”使い魔ファミリアを出せれたときゃどうしようかと思ったけどさぁ……考えてみりゃ、なんも変わってねえじゃん!)


 そう、未だ子々津の『伝説闘士バーン』を上回る使い魔はいない。

 最高位の使い魔たる“レベル10”を出された衝撃こそあったが、その実パワ―バランスは何も変わっていない。

 結局のところ、“オリジナル”とて盤面を覆せるだけの力を持っていなかったのである。


 ――と、そのように子々津は考えていたのであった。

 それが既に、平静を欠いた判断であったとも気付かずに。


「じゃあ俺は、もう一体の『フレイム・ヴァイパー』を召喚!」


 赤い光の“球”から、2体目のフレイム・ヴァイパーが現れる。

 子々津の『伝説闘士バーン』の開いていた片脇を、新たに現れた大蛇が固めた。



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フレイム・ヴァイパー


レベル2

爬虫種・火属性

戦闘力:500

受動技能

 灼熱の猛毒:この使い魔に勝利したレベル4以下の使い魔は戦闘力が500下がる。


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 こうして聖依と子々津、互いの場に3体の使い魔が揃った。

 使い魔たちは睨み合い、召喚士たちもまた、敵を見据える。

 離れて見ているベリンダとセアラにも、その緊迫を感じ取ることは出来た。


(すごい……これが、“召喚士”同士の戦い……!)


 そして両方が動かないまましばらくの沈黙が続き――

 静寂を先に崩したのは、“子々津”であった。


「……あのさぁ! そんなもん持ってるのはスゲーけど、それじゃ勝てないよぉ? あはははは!」


 小馬鹿にしたように、子々津は笑って見せた。

 杖の構えすら解き、指をさして、余裕を見せていた。


 そして聖依は、そんな彼の様子を見て悟った。


「まだわからないのか……! アンタはもう、“詰んで”いる!」


 ――そう、子々津がまだ、“負けている”ことを理解していないことに。


「はぁ!?」


「場を良く見てみろ!」


 子々津は余裕を崩さずに辺りを見渡す。

 自身の使役するバーンと、聖依の出した“2体”の強力な使い魔だけを見比べて、特に問題を感じることはできなかった。

 一瞬だけ肝を冷やした子々津であったが、考えれば考えるほどに彼の安堵は強まっていく。


(戦闘力だけ見ると、別に俺が敗ける要素は無いんだよねぇ。じゃあ、残るはアイツが出したもう1枚のカード、特に意味なさそうな“ゴミムシ”が――)


 そして遂に、彼は“気が付いて”しまった。

 ただ適当に出しただけだと勘違いしていた『共鳴虫』が――


「あ……」


 盤面を覆す可能性を持った、破滅の“引き金”であったことに。


 子々津は、血の気が引く感触を味わっていた。

 未だ彼には、聖依の手は読み切れていない。それが、先ほどまでの余裕を保たせていた。

 しかし、状況はもう違う。『共鳴虫』という逆転の“可能性”を示されてしまった今、聖依の“勝利宣言”がただのハッタリとは思えなくなっていたのである。


 ――そう、子々津はここに来て敗北を“確信”してしまったのだ。


「ようやく気が付いたようだな! 『共鳴虫』の技能スキル発動!」


「ま、待て! 待ってくれ! いや、待ってくださいぃぃぃぃ!」


 子々津は慌てて制止を求める。

 聖依はそんな子々津の姿を眼中に捉えることもなく、共鳴虫とアイ・コンタクトを交わしていた。

 目で“意思”を確認しようとする聖依に対して、共鳴虫は頭を僅かに落とし、頷く動作をして見せる。


「……“待った”は無しだっ! 響け、『たましい共鳴きょうめい夜想曲ノクターン』!」


 宣言した瞬間、共鳴虫の尾が光った。


『ぴぃぃぃぃぃ……!』


 喧しい金切り音が響いたかと思うと、すぐにその声は美しく心地の良いものへと変わった。

 その音色は、耳を通して“骨身”に――いや、“魂”にまで浸透し、あらゆる人間の心を揺るがす。


 そして共鳴虫は一通り狂ったように鳴き続けると、やがて力尽きて地に伏した。

 その骸が光となって消えていくと、イグナイトとリンネの心の中で“意識の共有”が発生し、その力を格段に高め合った。



 『獄炎の騎士イグナイト』 戦闘力:3000 → 5500


 『転生神リンネ』     戦闘力:2500 → 5500



「バ、バーンが……バーンが敗けちまうぅぅぅぅ!」


 子々津は一向に攻撃する気配を見せない。

 当然だ。なぜなら彼の使い魔では、強化されたリンネとイグナイトには勝てないのだから。

 手持ちの“召喚力”もなく、最早打つ手のない子々津にできることといえば、ただ震えて“敗北”を待つことだけなのだから。


「仕掛けてこないならこっちから行く! イグナイトの攻撃――!」


 リンネの技能によって使い魔が蘇った今、聖依のデッキには『15枚』のカードが存在する。

 最初の状態の『20枚』から、召喚されている『3体』の分と、これまで使用した呪文の『2つ』を引いた数だ。

 そしてこの『15』という数字は、イグナイトの技能スキルを発動させるギリギリの数であった。


 ――それはつまり、“蹂躙”の始まりを意味しているのだ。


「全て灼(や)き尽くせ! 『プロミネンス・ストラッシュ』!」


『これは先ほどの礼だ! 味わえ、我が秘剣を!』


 イグナイトの剣に炎が纏う。

 炎の塊が振るわれると、伸びた炎がバーンの頭上に落ちる。

 自信満々の笑みを浮かべていた『伝説闘士バーン』の顔は、苦悶の表情へと変わる。


『グオォォォッ!』


 続いて灼熱の剣閃が、2体の『フレイム・ヴァイパー』をも灼き尽くす。

 一瞬にして使い魔を全滅させられた子々津は、恐慌に陥った。


「あああああああああぁっ! 俺の使い魔が! 俺の“壁”がっ!」


「そしてこれで決着フィニッシュだ! 『転生神リンネ』の攻撃――!」


「ひいっ! やめろ、やめてくれぇっ!」


 リンネが胸の前で手を合わせ、“輪”を作る。

 その中心に白い波動が溜まり、渦巻き、勢いを増していく。

 まるで竜巻のように、激しい破壊力を持った運動エネルギーの塊となって、掌の中に留まる。


「導く螺旋! “天昇輪てんしょうりん”!」


『はあっ!』


 ――そして、解き放たれた破滅の波動が螺旋を描き、子々津を襲った。

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