消滅、“レプリカ”発動せず
目の前で起きた出来事が、聖依には理解できなった。
自身の使い魔が、召喚した瞬間に光となって霧散したのである。突然の出来事に、頭が追いつくはずもなかった。
「ふひっ、ひひひ……ひゃはははははははっ!」
――だが、聖依と相対している子々津謙太は、その理由を知っている。
その秘密は、聖依の召喚した『殺し屋キリコ』の持つ、“ある特性”が関係しているのだ。
故に彼は、嘲笑う。聖依の犯した失敗を、心の底から愚弄する。
「バァァァァァァァカッ! “レプリカ”は召喚できないんだよっ!」
「な、何っ!?」
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殺し屋キリコ
レベル3(ユニーク/“レプリカ”)
霊長種・風属性
戦闘力:1000
能動技能
サイレント・キル:(コスト:自分デッキから1枚消滅)この使い魔の戦闘力以下の戦闘力を持つ使い魔を消滅させる。
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(何故……!? レプリカだって、公式大会では使えたはず……! いや、そんなことより――!)
そこまで考えると、聖依は気が付いた。
そう、自身がまだ、“元の世界”の常識にとらわれていたことに――
自覚した聖依は気を引き締める。
キリコの消滅によって発生した、もう1つの“問題”に頭を悩ませる。
(今ので僕の使える“召喚力”がわからなくなったっ!)
召喚に失敗したキリコの分の“召喚力”がどうなったのか、聖依にはわからない。
消費されているのならば残りは“2”であるし、消費されていないのであれば“5”も残っている。
そのどちらなのかわからない以上、聖依は不利を強いられ続けるのだ。
(仕方ない。残りは“2”であると仮定して――!)
「僕は
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錆びついた名剣
レベル1
強化呪文
効果
自分フェイズ時:霊長種使い魔1体の戦闘力をターン終了時まで600アップさせる。
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「盾持ち
『盾持ち
『ふんっ!』
『盾持ち
「剣が出てきました! これで
「へぇ、やるじゃん」
ベリンダの心からの安堵と、子々津の小馬鹿にしたような感嘆の声が飛ぶ。
しかし聖依は、内心穏やかではなかった。なぜならば――
(まさか、ただの数合わせのカードをこんなところで使うことになるなんて……!)
そう、完全に想定外の状況に陥ってしまっているからだ。
これ以外に、打つ手が無くなってしまっているからだ。
勿論、キリコの分の召喚力が消費されていない想定で、別のカードの召喚を試みることは出来る。
――だがそれは、リスクを伴う行為だ。ただでさえ隙を晒しているのに、失敗してしまえば更なる窮地へと陥ってしまう。
故に、聖依の採るべき最良の手は、確実に残っている“召喚力”2の中で、敵の攻撃を凌ぐことであった。
「じゃあいっちゃうよぉ! 『サラマンダー・チャイルド』、攻撃!」
「防げ! 『盾持ち
子々津の使役する『サラマンダー・チャイルド』が駆け出し、跳ねる。
その強烈な飛び込み体当たりを、『盾持ち
実体を持たぬ『サラマンダー・チャイルド』は音もなく押しのけられ、子々津の前まで吹き飛ばされる。
本来ならば、『盾持ち
『盾持ち
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盾持ち
レベル1
霊長種・地属性
戦闘力:0(強化呪文により600に上昇中)
受動技能
シールド・ガード:このカードは1ターンに1度のみ、戦闘の敗北によって消滅しない。
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サラマンダー・チャイルド
レベル3
妖精種・火属性
戦闘力:1200
能動技能
巨大化:(コスト:召喚力3)この使い魔をデッキに戻し、デッキから『火精サラマンダー』1体を召喚する。この使い魔が召喚されたターンには発動することが出来ない。
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「『フレイム・ヴァイパー』!」
子々津が呼びかけると、続けて『フレイム・ヴァイパー』が動き出した。
人間の足でも頭を踏みつぶせそうな――それでも、蛇としては大きい躰が、蛇とは思えぬ速度でうねり、迫る。
そのターゲットは無論、『盾持ち
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フレイム・ヴァイパー
レベル2
爬虫種・火属性
戦闘力:500
受動技能
灼熱の猛毒:この使い魔に勝利したレベル4以下の使い魔は戦闘力が500下がる。
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「――やっちまえよぉ!」
そして、ヴァイパーが
『キシャァァ……!』
剣が、蛇の首を刎ねた。断面から血が噴き出すと、間もなくヴァイパーは消滅する。
真っ赤な血が
『盾持ち
『ぐおぉぉぉぉぉっ!』
『盾持ち
「チッ、負けた!」
聖依は子々津の行動に違和感を覚える。
まるで、負けるのがわかっていなかったかのような言い草が、彼の心に引っかかる。
(まさかアイツ……こっちの使い魔の戦闘力が“わかってない”のか? それに、呪文の効果も理解してないような……そうじゃなきゃ、自分から攻撃を仕掛ける意味は無い)
子々津に疑問を抱いた聖依は、観察眼を鋭く睨ませる。
聖依も敵の戦闘力を直接確認する術を持ってはいないが、知識豊富な彼はカードの戦闘力を大体は覚えている。
しかし子々津には、それすら出来ていないように聖依の眼には映った。事実として子々津はカードには詳しくないし、戦闘力を計る方法も持っていないのだ。
――そして同時に、パキリと何かが割れた音がした。
その音は、『盾持ち
『盾持ち
(さて、俺の“召喚力”はあとどれだけだったっけ……)
子々津はおもむろに、左腕にはめた“腕輪”を見た。
その“腕輪”には、縞模様のように並んだ線状の“赤い光”が、『5本』並んでいる。
――そう、それは子々津の体内に蓄積された“召喚力”だ。
子々津が常に自分の持つ“召喚力”を把握しているのは、この“腕輪”で管理しているからだ。
そして聖依は、それを見逃さない。
子々津の視線が一瞬逸れたことを読み取ると、聖依はすぐに結論に至ることが出来た。
(そうか……! アイツ、あの腕輪で何らかの情報を“視ている”のか! 多分、最低でも自分の“召喚力”ぐらいはっ!)
聖依は思い出す。
ベリンダが、ケインの捨てた“腕輪”を回収していたことを。
その“腕輪”が、子々津の物と同じ形をしていたことを。
そして聖依は、即座にその“結論”へと行きつくことができた。
――そう、このままでは“対等の勝負”にならないという、焦りにも似た危惧へと。
「ベリンダさん! アイツの付けてるやつと同じ腕輪っ――! 確か持ってたよなっ!」
「え、ええ……今は持って来ていませんが……」
「持って来てくれっ! なるべく早く!」
「は、はいっ!」
聖依の要請を受けて、ベリンダは駆け出した。
その向かう先は、彼女のやって来た方向――すなわち、ベリンダの私室である。
「へぇ……よく気付いたねぇ」
「そんなにチラチラ見てたら誰だってわかるっ!」
「あっそ! んじゃ、ついでにこれでも食らいな!
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スナイプ・アロー
レベル1
速攻呪文
効果
自分フェイズ時:レベル1使い魔を1体破壊する。
戦闘フェイズ(対峙ステップ)時:実行中の戦闘を終了させる。
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空中に円陣が浮かび上がると、その中から1本の矢が出現した。
その銀色の矢は、見えない糸でつるされているかのように、空中に留まっている。
そしてゆっくりと、その矢先を
「――そのクソうざってぇ
矢が放たれた。流れ星のようにも見える軌道を描いて、『スナイプ・アロー』が飛ぶ。
その銀閃が『盾持ち
『ぐおぉぉぉぉぉっ……!』
「『盾持ち
「くっ……!」
「おっとぉ、まだまだいくよぉ! 『サラマンダー・チャイルド』の
子々津が
炎は乾いた音を立てて、さらに大きく燃え上がる。延びる炎が、新たな躰を作り出す。
そして遂に、“それ”は顕現した。
『コォォォォォォォッ……!』
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火精サラマンダー
レベル5(ユニーク)
妖精種・火属性
戦闘力:1900
能動技能
分裂:(コスト:召喚力2)この使い魔をデッキに戻し、デッキから『サラマンダー・チャイルド』を任意の数召喚する。この使い魔が召喚されたターンには発動することが出来ない。
受動技能
分裂回避:この使い魔が戦闘に敗北した時、「分裂」の効果を使用することが出来る。
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「『火精サラマンダー』召喚! コイツは強いよぉ!」
「やっぱ出てきたか、サラマンダー……!」
天井の高いエントランスホールでさえも窮屈そうな、大きな火のトカゲが現れた。
そのトカゲ――『火精サラマンダー』は、聖依を見下す。
諦めていたこととはいえ、『火精サラマンダー』の召喚を食い止められなかったことに、聖依は歯がゆさを覚えていた。
その使い魔を即座に打ち破れる戦術など、彼は持ち合わせていない。
(どうする……! どうやって倒す……!?)
1ターン、2ターン先の展開を考え、聖依は思い悩む。
しかし、そう長く考えることは出来ないだろう。なぜならば、敵は考える時間など待ってはくれないからだ。
すぐに次の手を打てなければ、彼に訪れるのは“敗北”という名の“死”のみである。
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