判明、ここは“惑星ジェイド”

 ガーネット家の当主たちが去ると、聖依は客室に案内された。

 聖依はベッドに腰かけ、涙の跡の残るベリンダの顔を見つめる。


 立ったままのベリンダは、落ち着いた様子で話し始めた。


「すみません……折角来ていただいたのに、このようなことになってしまって……」


「それはいいから、早く教えてくれ。“ここ”はどこなんだ? “渡世人”って何なんだ? この、“召喚杖”って? それに、さっきから言ってる“召喚教団”って奴らは?」


 未だ状況の掴めない聖依は、次々にまくしたてる。

 少々その勢いに押され気味のベリンダは、苦笑いしながら答える。


「順番にお話しします」


「早くしてほしい。明日には出ていかないといけないんだろ?」


「いえ、確かにここを出ていくことにはなると思いますが、あてはあります」


「……ん? それってどういう……」


「それは後でお話ししましょう。まずは――」


 聖依は息を呑む。

 自身の命運を分けるかもしれない情報を、聞き逃すまいと耳を澄ませる。

 ベリンダはその様子を察し、聖依の眼が据わるのを待ってから口を開く。


「ここ“惑星ジェイド”についてお話ししましょう」


「“ジェイド”……? そんな惑星、聞いたことないけど……さっきの人と同じ名前じゃないか」


「それはそうです。彼女こそは、この地を治める“五氏族”が一人――その中でも最高位の“ジェイド”の当主なのですから」


 “五氏族”というものは聖依にはわからなかったが、先ほどの緑髪の女がこの世界における最高権力者であることだけは理解できた。

 国どころか惑星すらもその名前を冠していることから、強大な権力の力を想像して聖依は震えた。


「つまり、王様みたいなものか……」


「はい、そのような認識で間違っていないと思います。そして、先ほどの男性……私の父上なのですが、あの人も“五氏族”の当主の一人で、陛下ほどではないにしろ、この世界では影響力のある人物です」


「へぇ……じゃあ、貴方はお嬢様ってわけだ」


「茶化さないでください」


 つまらない奴だと思いながら、聖依は続くベリンダの言葉を待つ。


「もう、わかっていただけていると思いますが、ここは貴方の世界ではありません」


「ああ……ここが“惑星ジェイド”だなんて言われれば、流石に異世界だってわかるよ」


「話が早くて助かります。つまり、貴方は私たちにとって“他の世界から渡って来た人間”――“渡世人”なのです」


「なるほど、言葉の意味は分かった。でも、一つ教えてほしいことがある」


「何でしょうか?」


 聖依は思い出す。怪しいフードローブの男、ケインの言葉を――


(確かアイツ、僕の“髪色”で“異世界人”だって判別してた。“召喚されたて”だとも言ってた)


 その言葉の真意を、聖依は知りたかった。

 髪の色に何の意味があって、“渡世人”は何者かの意思によって“召喚”されているものなのか――


 それは、今聞いてどうにかなるものではない。だが聖依は、それでも知りたかった。

 なぜならば、彼は“転生神”の正体を知りたかったのだ。“実在するはずのない彼女”が一体何者なのか、突き止めたかったのだ。

 そのための材料が、今は一つでも欲しかったのである。


「その“渡世人”っていうのには、共通点とかあるのか?」


「そうですね。“渡世人”は、“五色”とは違う髪の色をしていることが多いです」


「“五色”?」


「はい。火を司る“赤”、水を司る“青”、風を司る“緑”、地を司る“茶”、雷を司る“黄”――この5つの色を“五色”と呼びます」


(……偶然か? 使い魔の“属性”と同じだ……何故か1つだけ足りないけど)


 色、そしてそれに対応する属性が、“エレメンタルサモナー”と同じなのだ。

 聖依には、単なる偶然には思えなかった。1つだけない“ある属性”のことを考えても、そう思わせるには十分であった。

 そんな聖依の様子などいざ知らず、ベリンダは話を続ける。


「そして私たちは、この生まれ持った色に対応する“召喚術”を使えます。例えば、このような感じに……」


 ベリンダが人差し指を立てると、その先にライターほどの火が灯る。

 聖依はあまりにも突拍子もない不可思議な出来事に、手品すら疑った。

 だが、本当にタネも仕掛けも無いのだ。直に聖依も、信じざるを得なくなった。


「な、なるほど……じゃあ次だ。ケインは“召喚されたて”って言ってたけど、何でわかったんだ? いやそれより、“渡世人”を“召喚”しているのは誰なんだ?」


「大抵の場合、“渡世人”の召喚を行っているのは“召喚教団”です。彼らは貴方のような何も知らない人間をこの世界に引きずり込み、意のままに操ろうとします。ですが――」


「ですが?」


 ベリンダは少し考えこむと、その“憶測”を語る。


「……貴方の場合は、違うかもしれません。他とはあまりにも違いすぎます」


「違う? ……ってことは、僕を召喚したのはその教団とやらではない?」


「断言は出来ません。ですが、あの場に溢れていた強大な“召喚力”――あのようなものは、見たことがありません」


 溢れかえっていた“赤の召喚力”を思い出すベリンダは、驚愕――いや、戦慄すらしていた。

 高位の使い魔すら即座に呼び出せてしまう圧倒的な力――そして、それをいともたやすく操ってみせた、聖依の力に……


 一方で聖依は、大した情報を得られず落胆していた。


「……そうか、わかった。じゃあ、召喚されたてなのが分かったのは?」


「それは簡単です。こちらへ――」


 ベリンダが手招きすると、聖依は立ち上がった。

 そして、案内されるがままに、部屋の隅にある大きな全身鏡の前に立たされた聖依は――


「だ、誰だ……“コレ”は?」


 目の前に映る“見慣れぬ人物”の姿に、困惑していた。

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