第20話 孤立主義者の少女が恋の獣と化す

「ヒロ君!」 

 暗がりの中だったけれど、思い切って飛び降りたのが良かった。

 私は足を滑らせて転んだけど、やっぱり顔面を打つのだけは免れた。

 といっても、もうあの男子のおかげではない。

 前のめりに倒れたところで思わず掴まったのが、岩陰から飛び出した誰かの足だったのだ。

 そこにタックルを食らわす形で、私はその背中に覆いかぶさっていた。

「ルイ……さん?」

 苦しそうに呻く声で、それがヒロ君だと分かったとき、私は思わずその身体にしがみついていた。

「会いたかった……ずっと、会いたかった……」

 もがくヒロ君の、生身の身体は温かかった。チャット画面の向こうに想像していた人が、今、私の身体の下にいる。

 今までの寂しさが身体の底から湧き上がってきて、ヒロ君の足にしがみつかないではいられなかった。

「来るなって、言ったのに……ルイさん!」

 そんなのは、最後の花火の音で聞こえなかった。聞こえたって、従う気など起こらなかっただろう。

「何で……私のこと、嫌い?」

 今まで口にしてきた「事務的」な言葉からは想像もつかない、私の心からの言葉だった。

 だが、それさえもヒロ君は身もだえして拒んだ。

「違うんです……離してください……そうしないと……」

 返事をしてくれないかもしれない。それでもよかった。私を分かってくれる人と、ずっとこうしていたかった。

 すると諦めたのか、ヒロ君は抵抗をやめた。

 代わりに、低くつぶやく。

「補導されます」

 その一言で、私の頭の中は一気に現実へと引き戻された。

「……帰る」

 2ケ月ちょっとの間、ずっと待ち望んでいたひと夏の夢が、一瞬で崩れ去ったような気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る