第15話 KSG首領が男女の修羅場を追う

 堤防の上から双眼鏡で眺めているうちに、アレが「ルイ」だろうと見当がついた。

 一方の「ヒロ」はというと、人と人との間を巧みにすり抜けて距離を開けている。

「そうはさせるか」

 誰のためにこれを仕組んだと思ってる!

 俺は「ルイ」にヒントを与えるべく、会場に散らばっているであろうKSGのメンバーに、問題を矢継ぎ早に繰り出した。

<いま、でっかいネズミ頭の風船持った子供の辺り走っていったのいるだろう>

<10代の男子ひとり>

 これで、目印が分かったはずだ。

 さらに。

<今、走っていったボーヤ、どっちに行った?>

<川べりの、人のいないほう>

 これで「ヒロ」の位置は、かなり特定できるはずだ。

 しかも、花火の上がるテンポはだんだんと速くなっていく。

 その間、閃光に照らし出された河川敷はずっと明るいはずだ。

 仮に「ヒロ」が人の少ない方向へと離れていこうとも、開いたさえ詰めれば、その姿は見えるはずだ。

「……え?」

 スマホ画面へと目をそらした隙に、人混みの中を逃げ惑う少年の姿はどこかへ消えていた。

 双眼鏡で河川敷を隅から隅まで眺めてみても、はっきりと分かるのは獲物を追う猛獣のごとき「ルイ」の影だけだ。

「どこへ行った……?」

 花火の上がるペースはどんどん上がっていく。

 フィナーレは、近い。それが過ぎれば、堤防へと人の波が溢れかえるだろう。

 「ヒロ」も「ルイ」もKSGのメンバーも呑み込んで。

 後に残るのは、花火会場の川上にある巨石の群れだけだ。

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