第14話 孤立主義者の少女が偽りの恋と向き合う

「待って!」

 私にとって、これが千載一遇のチャンスだった。

 「首領」のメッセージに応えるまでもなく、花火大会には来る予定だった。

 問題は、あの男子だ。

 この2ケ月とちょっとの間、人のことなんか全然見ていなかったクセに、お誘いだけは要領よくかけてくる。ましてやこの大イベントを忘れるはずもなく、こっちが断らないのをいいことに約束をとりつけてきた。

 今日の今日になってみれば、ビニールシートだけでなく、手作りの弁当まできっちり準備している。これをきっかけに、この夏休みで勝負をかけてくることは見え見えだった。

 正直、ダメだ。こういうタイプは。

 この夏、このまま押し切られたまま高校生活の3年を送るのかと思うと、気が遠くなる。

 その一方で、きっちり気合を入れてミニスカートをはいてくる自分もたまらなくイヤだったが。

 何とかしたいと思いながらこっそりチャットを見ていたら……ビンゴ!

 今まで名前しか知らなかった「ヒロくん」が、ちょっと頑張ればすぐ手の届くところにいる。

 私はあの男子が慌てふためくのを尻目に、林の木々のように乱立する人の群れの中へと駆け出したのだった。

「あ……!」

 走れば、つまずく。全力疾走していた分、反動も大きい。

 もんどりうって豪快に河川敷へと倒れ込んだ私は、思いっきり石や砂利で顔面を打つことも覚悟していた。

 だけど。

「大丈夫?」

 私の身体は、腰を抱えられてふわりと宙に浮いた。

「ヒロ……くん?」

 少女マンガでもあるまいし、そんな期待がそうそうかなえられるわけがない。

 大輪の花火の閃光を浴びて微笑むのは、例の色男だった。

「誰……? それ」

 困ったように問いかける口元には、ちょっと女の子好みの憂いがある。

 でも、それはどうか他の誰かに見せてやって!

「離して」

 この2ケ月ちょっと拘束されてきた、自信過剰男のくびきは、冷めた一言でするりと緩んだ。

 ごめん……その素敵な笑顔は、他の誰かに向けてあげて。

 私は再び砂と小石の地面を蹴って、ヒロくんの消えた方向へと走った。

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