第10話 孤立主義者の少年が少女に思いを馳せる

 家に戻った僕は、メシもフロも放心状態で済ませて、後は寝るしかなくなった。

 布団に潜りこんでスマホを確認すると、「首領」からのメッセージが届いていた。

<後悔はしていないな?>

 KSGにどれだけの人が参加しているのかは知らないが、特定の誰かにメッセージが送られてくるというのは聞いたことがなかった。

 知らん顔もできないので、返事だけはしておいた。

<チャットで言った通りです>

 それっきり、メッセージはなかった。やはり、これも社交辞令だったのかもしれない。

 もっとも、今日はもうKSGと関わる気はなかった。

 いろいろあったから、今夜はぐっすり眠るつもりだった。

 明日からは、普通にチャットに参加して、「ルイ」がそこにいることを確かめられればいい。

 今までみたいに未完の小説について、ああだこうだと言葉を交わすわけにはいかないが。

 だが、ルイが見ているに違いない小説ぐらいにはせめて、目を通しておきたかった。

 小説家志望の人たちが長い間かかって投稿を続けているWebサイトを、閲覧履歴の中から拾い出す。

 絶対に更新されることのないその小説は、検索をかけてやらないと見つけることはできなかった。

 あった……。

 『トリック~Un truc astucieux planté juste pour un garçon~』。

 波線に挟まれた文字列の意味は、英語も読めない僕などに分かるはずがない。

 作者名の欄には、ただ「。」とだけ記されている。

 こんな話だ。


 無気力な少年が、ある美少女に頼まれて、遊園地のヒーローショーでアルバイトをする。

 少年の役は仮面のヒーローだったが、倒す相手はことごとく、次元の狭間から現れた本物の怪物たちだった。

 食い殺したスタッフになりすます怪物たち。

 そのあぎとから美少女を守るためにできることは、一つしかない。

 夏休みの間に、このショーで怪物たちをことごとく打ち破ることだ……。

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