第9話 孤立主義者の少女は少年の決断に心乱れる

「じゃあ、また明日ね」

 爽やかな笑顔を残して分かれ道の一方を行く、ちょっと軽めの男子。

 後ろ姿は確かにすらっとしていたけれど、私にそれを見送る余裕はない。

 今までぴったり横について歩かれて、チャットを確かめることもできなかったのだから。

「何ソレ!」

 路地に誰もいなかったのは幸運だった。私は、自分でも分かるくらい素っ頓狂な声を上げていたのだ。

 スマホの画面上にあったのは、私に対する「ヒロ」の一方的な断交宣言だった。

 慌ててメッセージを送ってみる。

<ちょっと、どういうこと?>

 すぐに、返信があった。

<受信者の都合により、メッセージをお届けできません>

 それでも私は、諦めなかった。

<どうして? 私の気持ち、どうなるの?>

 まるでメール1通で恋人に捨てられた未練がましい女のように、無駄と分かっているメッセージを送り続ける。

<バレなかったら、いいじゃない! 通信の秘密は、憲法で保障されてるんだから!>

 自分でも、言っていることがよく分からなくなってきた。それでも、私がスマホを打つ指は止まらなかった。

<あの小説だって、まだ完結してないじゃない! もう、私たちしか読む人いないんだよ!>

 分かっているのは、支離滅裂さにも程があるということだけだった。何が悔しくて何が情けないのかよく分からないまま、身体の中から涙だけが溢れてくる。それを、道端の塀際に向かって立ちながら、ぐっとこらえた。

 私の後ろを、塾へ向かうらしい子どもたちの足音だけが通り過ぎていった。

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