四臭
「こんにちは」
声をかけられた私が振り向くとブレザーを着た可愛い小さな自称女子高生が立っていた。
「ああ、朝の」
そこまで言って嫌な臭いに、やっぱりこの女の子からしてるんじゃないのかと思う。
「死向臭(しこうしゅう)と言います」
「しこうしゅう?」
「死に向かう臭いと書いて死向臭と言います。字のごとく死に向かう人から発生する臭いです。ですので、わたくしの体臭ではありませんのよ」
「違うんだ……」
「違いますぅ!」
あっ、ちょっとむきになった。その顔も可愛いと思って、じっと見つめてしまう。
「で、ですから、その臭いが強くなる方向には行かないようにして下さい。臭いが強いところには“死”が待っています。臭いを感じるのは一時的なものだと思いますから、少しの間我慢して下さい」
でも、どうして、この子はそんなことを知っているのだろう。
「わたくしがお伝えしたことはそれだけです。臭いのはわたくしではありません。臭いのはわたくしではありませんからお忘れなきよう」
小さな自称女子高生は、自分が臭くないと二度繰り返した。大事なことなので二度言う、という奴だろうか。
「えっと、そんなことを急に言われても…」
戸惑う私の声に小さな自称女子高生はゆっくり振り返った。サラサラの髪の毛が遅れて揺れる。
「そうそう。先ほどのご一緒にお食事をなさっていた方はお友達でいらっしゃいますか?」
「えっ、ええ。大学からの……」
「そうですか……」
少し考えて小さな自称女子高生は、はっきりと言った。
「早めに縁を切られた方がよろしいかと思いますわ。良くない事が起こらないうちに」
「なっ、子供のクセになに訳知り顔で言ってるの!」
生意気だと思って怒る私のスマホが鳴った。職場からだ。
「はい」
「昼休み終わってるわよ? 誤魔化してあるから早く帰って来なさい」
先輩のあきれた声に腕時計を確認すると、とっくに昼休みが終わっている。
いつのまにこんなに時間が経ってたんだろう。
「すみません。すぐ戻ります」
通話を切った時には小さな自称女子高生の姿は消えていた。
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