飾り窓
老主人の硬い声は
「前から、素敵なお店だとは思っていたんですけど」
中々入る意気がなくてとは流石に言い兼ね、逆さに繋いだ尻尾は据えるべき腰を失って虚しく空廻った。翁面の柔和なまま、主人は不躾な尾を丁寧に撫で取った。
「普段から閑かなものです。こんな時間にいらっしゃる方は珍しい」
閑かが意識にのぼると急に、そこらの物音が我を我をと色を見せる。昼間の残照を残す土瀝青を踏みしだく無数の靴音。鴉が一直線に塒へ送る口笛。街灯を鈍く透すショウウインドウを軽やかな輪転に弾んだ喚声が通り過ぎた。世塵に隔絶した一画一筆の間隙ばかりは、全ての波紋を壁に迫る綿埃に受け止めて沈んでゆく。
既に日は暮れかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます