3号室「彼」

 枯葉舞う季節、窓の外に舞う葉を見つめるのは紅い瞳。

その瞳は、人間とは思えない冷たさを含んでいた。

なぜなら、その瞳は彼女の瞳ではないから。

その身体は、「X」のものだから。


 「彼」の身体に温もりはない。

そう、その「身体ボディ」には温もりはないのだ。

叩けばコツコツと音が鳴る。

関節を動かすとモーターの音が聞こえる。

形こそ人間のものではあるが、服の隙間から覗くプラスチックの質感は、明らかに人間の肌のそれではない。


 それでも、彼女は生きているのだ。

彼女として、人間として生きているのだ。


 彼の身体に、彼女の脳。

この歪な組み合わせも、もう限界が近い。

彼女の脳の寿命が近づいているのだ。

保存液で保護しているとはいえ、流石に人間の1部をロボットに接続させている状態は、非常に不安定で負荷のかかるものだ。


 そして、ついに最期の時は来た。

彼女の脳は崩壊を始めた。

大勢の人に見守られながら、彼女は


「私の身体、彼に返してあげてね」


と呟いてこの世から消えた。


 そして、数日後。

「彼」の身体には「彼」のAIが積み直された。

しかし「彼」は前と同じように動くことはできなかった。


​───────彼女を探しているから。

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