力量差
この短時間で、玖島達はめきめきと、それはもうあり得ないくらいのスピードで強くなっていった。
これまでパラメータスキャンはパラメータのみを表示する機能を用いていた。大体3日に1回のペースで上達度を検査していたのだが、あまりの伸びの速さにドルバーが唖然としていたようだ。誰も彼も初めは1だった総合レベルは平均35を上回り、各パラメータもクラス4越えが続出。
元々センスがあったのか、玖島や紫吹と言ったトップカーストグループに関しては総合レベル40越え、パラメータクラスは5を超えているという。この世界からしてみればチートの権化そのもの。もはやそこらの兵士では相手にならないらしい。しかもまだまだ伸びる余地あり。とんだ化物集団である。
一方の俺は、皆と同じく【勇者】として喚ばれたにもかかわらず、伸び率は平均並み、いや、むしろその下らしい。総合レベルは18、パラメータクラスは2~3。ひそかにチーレム主人公となることを望んでいた俺にとってそれは妄想を粉々に打ち砕く結果となっている。挙句の果てに魔法は使えず、双剣の技術も今一つ。
そんな俺は、いつしか〝無能〟と呼ばれるようになっていた。
俺が《リーンカルナ》に召喚されて一ヶ月。この日、俺達は稽古場ではなく大広間に集合していた。集まった俺達の前にある舞台の上には王国騎士団団長のドルバー、副団長のヘルメス、宮廷魔術師団トップ、ファルスが居た。
「さて、お前達がこの世界に来て一ヶ月がたった。まずは、今までの訓練、よく頑張ってくれた」
俺らにそう投げかけるのはドルバーだ。
「今日は、パラメータスキャンを行う。今間での簡易的なものじゃ無い。スキル欄も表示されるものだ」
その言葉に、誰かがゴクリ、と喉を鳴らす。
「この一ヶ月の鍛錬で強くなったお前達は、多かれ少なかれスキルを習得しているだろう。者によっては《ユニークスキル》を開放している奴もいるかもしれない」
《ユニークスキル》は持っているものがそもそもすくない希少な能力。これがあれば更なる高みへと至ることが出来る。ましてや二つ三つあったものなら、それはもうただの化物だ。
「この《ユニークスキル》は、《コモンスキル》と違いそいつ自身の個性が形となって現れる物だ。しかし、一種類だけ例外がある。それが、〝覇者の称号〟だ」
《ユニークスキル》覇者の称号。これが与えられるものには体のどこかに紋章が浮かび上がり、【○○の覇者】を名乗ることが許される。また、このスキルは所有者の得意な武器種に関する能力が莫大に上がるという能力を持っていて、これがあればほぼ敵なしだと言われている。ただあくまで威力が上がるだけで、それを制御するための技術が上がらないのが難しい所だ。
「このスキルはその存在を認識した瞬間に自らの物になる。だからこそ、お前達にはこの日までわからないようにしていた。楽しみが無くなってしまうからな」
ドルバーが快活な笑い声をあげ、それをヘルメスがため息をつきながら諫める。あの人、かなりの苦労人だな…
「よし、それじゃあ呼ばれた順に来てくれ。まずは…シンセイ」
「はい」
返事をして玖島がパラメータスキャナーの下へと歩み寄る。もはやためらいが無くなった一連の動作を行い、結果が出るのを黙って待つ。
数秒後、光が収まった魔法器具の中の羊皮紙を裏返しのまま手に取る玖島。ドルバーの方を見て頷かれると、一思いにひっくり返した。
その瞬間、大広間が純白の光に包まれた。
光の元は玖島だ。彼の体から膨大な魔力があふれ出ているのだ。それらは一つに収束すると、玖島の右手の甲に浸透していく。と同時に、そこに剣の形を模した文様が刻まれる。
「シンセイ、内容を見せてやれ」
その言葉に首肯を返し、玖島が晴れやかな顔をしながら羊皮紙を掲げた。
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《個体名》 《種族》
シンセイ・クシマ ヒューマン
《パラメータ》
総合Lv.48 魔力 Rank.8
・攻撃 Class.8 Lv.62 ・防御 Class.7 Lv.23
・魔攻 Class.6 Lv.43 ・魔防 Class.6 Lv.32
・俊敏 Class.7 Lv.57 ・幸運 Class.6 Lv.21
《コモンスキル》
・知覚拡張Ⅳ
…五感の強化。範囲の補正。強化率は2.4倍
・思考加速Ⅳ
…思考速度上昇。強化率は1.8倍
・身体強化Ⅲ
…魔力による身体機能の強化。強化率は2.5倍(任意発動能力(アクティブスキル))
・詠唱破棄Ⅱ
…第二階級魔法までの魔法詠唱を魔法名以外破棄
・詠唱短縮Ⅳ
…第四階級魔法までの魔法詠唱を第一小節まで短縮
《ユニークスキル》
・剣の覇者
…武器種〝剣〟を持った時の能力大幅上昇。
・言語理解
…異言語に対する理解補正。
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一言で言えば、チートだった。
「おぉ…まさかここまで成長しているとは。流石だな、シンセイ」
「あ、ありがとうございます…っ!」
手の甲に刻まれた文様を眺め興奮気味にそう答える玖島。彼が拳を高くつき上げると、場がドッと沸いた。
「それじゃ、じゃんじゃん行こうか!」
ドルバーに呼ばれてスキャンをしていく皆。誰も彼も最初とは比べ物にならないくらい強くなっていた。その中でも紫吹が〝刀の覇者〟を、小野寺が〝拳の覇者〟。そして、桑葉は〝覇者の称号〟ではないが、〝癒の聖典〟という《ユニークスキル》を手にしていた。流石はトップカースト集団。まさにラノベの主人公にふさわしいチートぶりだった。
〝覇者の称号〟を得ていない者たちでもそのステータスは異常なほどで、誰もが一つずつ《ユニークスキル》を発現させていた。
だが…
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《個体名》 《種族》
リョウ・カムヤ ヒューマン
《パラメータ》
総合Lv.18 魔力 Rank.—
・攻撃 Class.3 Lv.22 ・防御 Class.3 Lv.14
・魔攻 Class.— Lv.— ・魔防 Class.— Lv.—
・俊敏 Class.3 Lv.28 ・幸運 Class.2 Lv.18
《コモンスキル》
・気配感知Ⅰ
…一定範囲内の生物の気配を感じ取る。範囲上限半径3m
《ユニークスキル》
・言語理解
…異言語に対する理解補正。
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俺の場合、異常なほど成長が遅かった。【勇者】とはなんだ、と言わざるを得ないほどの能力値の低さに、あの陽気なドルバーでさえ俺を気遣うような言葉を投げかけ、それを聞いた加室たちはあざ笑うかのような笑みを浮かべていた。
「さっすがだな、〝無能〟。これで晴れて名実ともに〝無能〟だなぁ!」
その事倍思わず歯噛みする。思っていたのと全く違う現実を突き付けられ、俺は惨めな気分になった。
「ま、まぁ、これからしっかり訓練すりゃまだまだ成長するさ。だからそんなに落ち込むなよ…」
「ドルバーさん、お気遣いありがとうございます。ですが俺は大丈夫です。ご心配なく」
肩に手を置きそう声を掛けてくれるドルバーにそう言って、俺は下を向いたまま壇上から降りる。
「神矢…」
霧陰が俺に声を掛ける。しかし俺はそれにこたえることなく大広間を出た。俺の背に嘲笑する奴らの視線が突き刺さる中、霧陰ともう一人だけが心配そうにこちらを見ていた。
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