判明
「——様、リョウ様」
「…なんだ」
寝ている俺を揺さぶってくる。可愛らしいその声に徐々に意識を取り戻していく。
「おはよう、リセ」
「はい、おはようございます」
そう言って微笑むのは俺の傍付き、リスティ・アルセストだ。その端正な顔立ちはまさに貴族の令嬢で、たぶん地球で合っていたら絶対に関係を築こうとは思わなかっただろう。
「今何時だ?」
「先ほど七回鐘が鳴りましたので、七鐘時(しちしょうどき)ですね」
この世界の時間の進みは地球とは結構違う。まず一日は20時間。前半後半で10時間ずつ。ただ、現実換算だと1時間で1.5時間分なので、実際30時間くらいある。また、この世界では1時間ごとにその回数分の鐘が鳴るため、〝〇鐘時〟と表す。
また、1年は400日、1ヶ月40日である。
「分かった。確か、集合の前に朝食を食べておくんだろう?」
「はい。では、私は部屋の外でお待ちしております」
「ああ。頼む」
そう言うとリセはお辞儀をして部屋の外へと出た。
異世界に呼ばれて二日目。昨日の夜の決意が俺に今一度の気合を入れる。
「さて、服は…これか?」
リセが置いてくれたのだろう、デスクの上に置かれた服を広げる。
「…おぉー」
思わず声を出してしまった。
白を基調としたパンツとシャツ。素材は丈夫な繊維で出来ていて、アクセントで入っている黒いラインがよりカッコよさを引き立てている。極めつけは左胸に刺繍されたウィスターン王国の国章である龍と二振りの剣。黒の生地に金色の糸で縫われていることでこれまた男心を刺してくる。
「もう着替えましたか?開けますね…おぉー」
扉を開けて俺の姿を見たリセが俺と全く同じ反応をする。
「この服、動きやすいな。それにとても軽い。何しろかっこいい」
「そうですね。とてもよくお似合いです」
「ありがとう」
窓に姿を映してみて思う。本当にこの服かっけぇな。
「さて。見るのも程ほどにして、食堂に行きましょうか」
「そうだな」
そうして、俺はリセを連れて食堂へと向かうのだった。
+ + +
時間は進んで集合時間の九鐘時の鐘が鳴った。俺は戦士部隊の面子と共に稽古場に来ていた。
「皆おはよう。私はシュリアート王国騎士団副団長、ヘルメス・グリューデンだ。ここから先、君たちの指導監督を務めることになる。宜しく」
そう言って軽く頭を下げたのは、俺ら戦士部隊の監督責任者のヘルメス。緑がかった髪に黒の眼鏡。腰には立派な一振りの剣が吊るされている。
「これから二か月、我々の指導の下、君たちに前衛で戦うための技術を学ぶことになる。目標は【アルヴェンデンの大迷宮】50階層到達だ。各々気を引き締めて訓練に臨むことだ」
【アルヴェンデンの大迷宮】とは、シュリアート王国領地より東にある、いわばダンジョンだ。昔の偉人、【賢師】アルヴェンデンが作ったとされる巨大洞窟であるこの迷宮は、地下100階にも及ぶ層が存在する、らしい。確定ではないのは、そこまで到達した者が存在しないからだ。
このようなダンジョンは世界に点在している。古代の遺跡だったり、沈んだ都市の神殿だったり。そこには昔の情報や強力な武器が眠っていることもあり、冒険者たちが日々夢を追いかけダンジョンへと消えていく。
そんな中でもこの大迷宮は初心者向けなダンジョンとされている。下にもぐるほどモンスターが強くなるという特徴があり、分かりやすいからだ。この近くにできている《無国家都市ヴァドリア》は冒険者たちで栄えていて、仲間が集めやすいのも理由の一つだったりするそうだ。
「今回はまず、君たちの相棒となる武器を決めてもらう。武器の等級は、慣れるまでは希少級(レア)、我々が許可を出した者から特異級(ユニーク)または伝説級(レジェンダリィ)に変えていく。高等級になるほど扱いが難しくなるから、文句は言うなよ」
武器の等級は下から一般級(ノーマル)・希少級(レア)・特異級(ユニーク)・伝説級(レジェンダリィ)・神話級(ゴッズ)となっている。その中でも伝説級(レジェンダリィ)は〝宝具〟神話級(ゴッズ)は〝神器〟と呼ばれ、特別視されている。かなり数が少ない他使用者をかなり選ぶため、使えるのはごく限られた人間しかいない。
また、特異級(ユニーク)は〝魔剣〟〝魔杖〟とも呼ばれている。これは、特定の魔法を放てたり特別な効果をもたらしたりなど、個性を持っているため〝魔法武器〟と呼ばれることもある。
これらのほかに、はるか太古に制作され、極稀にダンジョンから出土する古代級(エンシェント)と呼ばれるものも存在する。これに関しては、今に生きる者達には扱えないものとされ、市場に出回ることはない。
「それでは、この中から好きな武器種を選んでくれ」
ヘルメスのその言葉に、俺達は床に並べられた武器を一斉に覗く。俺はその瞬間、目を見開いた。
剣や槍、斧と言ったものの他にも、刀や籠手、盾と言ったものまで豊富な種類の武器がそこに並んでいた。
皆が思い思いの武器を手に取っていく。玖島は両刃剣、加室は片刃斧に片手盾。紫吹は刀を手に取っていた。まぁ、予想通りだな。
俺はと言うと、迷うことなく双剣を手にしていた。頭にあったのは、[オルウォッドの鍛冶屋]で見た双剣【日輪】と【夜月】。あいつらを使えるようになるため、俺は今から双剣の技術を得ようと思っていた。
「よし、選べたようだな。当分の間、その武器が君たちの相棒だ。しっかり大切にしろよ」
副団長の言葉に返事を返す俺たち。
「その武器は当分の間は使わん。自分で保管しておけ…さて、これで戦士部隊の事前集会は終了する。武器を各部屋に置き、十鐘時に大広間に集合だ。それでは、解散!」
その言葉で、俺達は思い思いに動き始めた。
+ + +
それから1か月間は、怒涛の日々だった。
朝は基礎体力をつけるためのトレーニング、朝食後の座学、昼食を取って魔法訓練、その後各部隊に分かれての専門訓練…それを毎日毎日続けていった。
ただ、ラノベと違ってそう簡単にはいかなかった。まず、この国で双剣を扱う者がごく少数で、ほとんど技術面を鍛えることが出来なかったことだ。双剣は扱いにくい武器とされていて、まさか選ぶやつが居るとは思わなかったそうだ。ここは、仕方がないので基礎的な動き方だけ学び、後はほぼ我流で鍛えていった。
そして、大きな問題となったのが…
「へっ、喰らえ!〝紅蓮炎(バーニングフレア)〟!」
加室の掌に生まれた火属性第二階級魔法〝紅蓮炎(バーニングフレア)〟の紅蓮の渦が俺目掛けて飛んでくる。それを間一髪で避けるが、その後も執拗に狙ってくる。流石は【勇者】として喚ばれただけのことはあり、俺らの中で中の上くらいの実力でもかなりの量魔力を持っていた。それに比べ俺は…
「〝火炎球(ファイア)〟」
第一級魔法、俗にいう初級魔法すら満足に撃てなかった。と言うより、そもそも魔法が出る兆候すら見当たらない始末。得物を持っていない今俺に反撃の手はなく、
「〝風衝波(ゲイルバースト)〟ォ!」
風属性第二階級魔法〝風衝波(ゲイルバースト)〟によって吹き飛ばされてしまった。
「ぐっ…」
しっかりと受け身を取ったおかげで大きな怪我にはならなかったが、それでも多少のダメージは受ける。
「はっ、初級魔法すら碌に放てねぇなんて、とんだ無能野郎だな」
「―――ッ」
その言葉が心に刺さる。
そう。俺の一番の問題。それは―――
魔法が全く使えない、という事である。
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