パラメータ
「…皆、今の状況を整理しよう」
兵たちが一度退出し、静まり返った大広間に玖島の声が響く。
「簡単に行ってしまえば、俺達は地球とは別の世界に来てしまった、という事だ。この世界で俺らは強くなって、この世界のどこかにいる【魔王】とやらを倒さなきゃいけないんだ」
「…そんなの、無理に決まってるよ」
そう言ったのは確か、朝木志帆(あさぎしほ)、だったか。彼女の発言を皮切りに、カースト中位のやつらが次々に騒ぎ始める。
「要するに、俺らに死ねってことだろうが!」
「そんなの無理だよ。さっさと帰らせてよ!」
「ふざけ、ないでっ…!」
その言葉に込められた不安と恐怖が皆の心に浸透していく。思春期の少年少女の精神だ、あまりの出来事にあっさり砕けそうになっていく。
「黙りなさい」
しかし、そこに冷気を感じる言葉が突き刺さる。発言者は今まで静観していた無表情少女、紫吹である。
「もう起こったことは仕方がない。ドルバーっていう男も言っていた。『腹をくくれ』って」
「そ、そうだぜ!あいつの話じゃ、俺らにはすげぇ力があるかもしれねぇってことじゃねぇか。この世界で羨望の眼差しで見られるんだぜ?なんでそんな落ち込むんだよ!なぁ桑葉!」
「え?う、うん。この世界の人たちは困ってるってことだよね?だったら私たちが頑張らないと」
桑葉が小さな握りこぶしを作りながらそう言う。その仕草が刺さったのか、数人の男子が「おおう!」「やってやろうじゃねぇか!」と叫ぶ。その目線がちらちらと桑葉に向いていることから、その本心は丸裸になっている。
「確かに僕も怖い。これからどうなるのかわからない。でも、ここで立ち止まるなら、前に進んだ方が良い、壮だろ?」
さらに、玖島の爽やかスマイルが炸裂。消極的だった女子共が頬を赤らめながらも頷く。
「よし、そしたらみんなでパラメータの確認をしていておこう」
その言葉で皆が魔法具の前に並び、スキャンを行っていく。時々上がる歓声を聞きながら、俺もその列に並ぶ。
俺は思案する。もし俺にチート能力があったら何をしてやろうか。ハーレムでも作って、王国を作って…と。
スキャンが終わり、結果を見てみると、まさかの内容に俺はしばし言葉を失った。
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《個体名》 《種族》
リョウ・カムヤ ヒューマン
《パラメータ》
総合Lv.1 魔力 Rank.—
・攻撃 Class.1 Lv.6 ・防御 Class.1 Lv.4
・魔攻 Class.— Lv.— ・魔防 Class.— Lv.—
・俊敏 Class.1 Lv.5 ・幸運 Class.1 Lv.2
《コモンスキル》
Nothing
《ユニークスキル》
・言語理解
…異言語に対する理解補正。
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パラメータはまちまちだが、魔力に関する所に関しては表示がバグっているのか非表示になっている。また、コモンスキル欄には〝Nothing〟の文字が無機質に書かれていた。
「はっ、なんだこりゃ。クソザコじゃねぇか!」
加室が俺のパラメータを見て鼻で笑った。こいつの高圧的な態度を見る限り、それなりだったんだろう。見下すような目線が癪に障る。思わず殴りかかろうとしたところに、
「加室くん、スキャン終わったら結果をドルバーさんに提出してだって」
「く、桑葉。分かった。俺に伝えてくれてありがとう。あっ、これ見ろよ。なかなか高くねぇか?ほら、何なら玖島の奴の代わりに俺がお前をま、まも、守って———」
「うん、それは遠慮しておくよ。加室くんの手を煩わせたくないし、ね?」
「そ、そう言う事ならしょうがねぇな…気が向いたらいつでも言ってくれよ?なっ?」
加室は早口にそう言い放つと、数人を引き寄せていつの間にか姿を表していたドルバーの下へ嬉々として羊皮紙を掲げる姿が見えた。
「その様子じゃ、諒くんのパラメータはあまりよくないみたいだね」
「ああ…周りとあまり変わらん。桑葉の方はどうだった」
「うん、こんな感じかな」
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《個体名》 《種族》
アマノ・クワバ ヒューマン
《パラメータ》
総合Lv.1 魔力 Rank.5
・攻撃 Class.1 Lv.2 ・防御 Class.1 Lv.3
・魔攻 Class.1 Lv.9 ・魔防 Class.1 Lv.8
・俊敏 Class.1 Lv.4 ・幸運 Class.1 Lv.3
《コモンスキル》
・魔力量上限上昇Ⅰ
…通常よりも魔法に注入できる魔力量上限上昇。強化率は1.3倍
・回復魔法効果上昇Ⅰ
…回復魔法に関して対象に与える効果が上昇。強化率は1.2倍
《ユニークスキル》
・言語理解
…異言語に対する理解補正。
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「魔法系統の補正が2つもあるのか…」
「うん。なんか魔法がかなり使えるみたい。これを見せたらファルスが喜びそうだってドルバーさんが言ってた」
「そうか」
もしかしたらこいつの方が玖島よりも主人公かもしれない、俺はそう思った。
その玖島がこちらに、正しくは桑葉の方に向かって来たので、俺はそそくさとその場から離れ、ドルバーの方へと向かった。
+ + +
「彼らの様子はどうでしたか?」
数時間後。異界の少年少女たちが退出した大広間に、毅然とした佇まいで一人の男が入ってきた。声の主は、彼らをこの地に呼び出したシュリアート宮廷魔法師団トップ、ファルスである。
「ああ。シンセイが取り持ってくれたみたいでな、皆現実を受け入れてくれはしたぞ。今はそれぞれの部屋に案内したとこだ」
シュリアート騎士団団長ドルバーはファルスの言葉に背を向けたままそう返す。手元の羊皮紙に目を落としている所から、玖島たちのパラメータを確認しているのだろう。
「内訳はどんな感じだ」
「そうだな…全40人のうち、戦士系が18、魔法師系が15、支援系が6、ってとこか」
「ふむ…ん?あと一人はどうした」
「あぁ。これを見てくれ」
そう言ってドルバーが渡したのは《個人名》の欄に〝リョウ・カムヤ〟と書かれた羊皮紙だ。
「…これはっ」
「まさか、としか言えないな。こいつは残念だと言わざるを得ない」
彼らが注目しているのは魔力系統のパラメータ。そこが非表示になっていることがどういうことなのか、彼らは良く知っている。それ故に、彼に対し同情の気持ちが湧いているのだ。
「こいつは厳しくなるぞ…」
「ああ。陛下に報告するのがつらいが、仕方がない」
ファルスはドルバーから資料の束を受け取り、身を翻す。
「判断を、誤るなよ」
そう言い残して、彼は大広間から出て行った。
「…分かっている」
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