第25話 知らぬ間に (津久葉 晴)

 俺は見た。影野かげのがたまーに葛原かさはらってやつを気にかけるのを。なんでだよ。危ねえやつかもしれないのにさ。止めとけ、とは言えなかった。

 だってさ、話しかけたそうにしてたり、嬉しそうに笑ってるように見えたんだ。もしかして、好きなんじゃねえのかって思っちまったんだ。


津久葉つくば。今日、先に帰っててくれ」

 不意に影野が声を掛けてきた。

「お、おう。委員会か?」

 俺は我に返ると、思い出したように問い掛けた。そういや最近、影野は委員会で忙しそうだもんな。昼をまともに食ってなさそうだし。昼飯くらい今度、奢ってやろう。普段もそんなに食べてないみたいだからな。いつか、倒れちゃうんじゃねえか?


「津久葉、聞いてるのか?」

 あ、やべえ聞いてなかった。また、俺の悪い癖が出ちまった。

「お、おう」

 俺が返事をすると、影野はじっと俺を見てきた。なんだよ、見んじゃねえよ!

「また、なにか考え事してただろ。あまり無理するなよ」

 影野にバレていた。考え事しちゃ悪いかよ! とは言えず、いつの間にか影野はいなくなっていた。こういう時、なにか部活をやっていれば良かったな。まあ、いい。かばんを肩に掛けて俺は教室を後にした。

____


はる、おかえり」

 家に着くと、母さんが俺を見つけて、言った。俺は無視した。今、そんな気分じゃない。

「どうしたの、そんな顔して」

 うっさいな。どうもしてないし、人の顔見るなよ!

「また、考え事してるの? 誰に似たのかしら」

うるさい!」

 俺はイライラした。手洗いが終わったら、そのまま二階の自分の部屋へと向かった。

 部屋に入ると、鞄を放り投げ、着替えた。窓の向こうから雨の音が聞こえた。さっき降り始めたのか。ギリギリセーフだ。先に帰って、運が良かった。

 そういえば、影野は大丈夫か? 雨降るなんて言ってなかったし、傘持ってくるなんてやついるかよ。

 あ、アイツなら持ってくるだろうな。まあ、縁を切ったし、アイツの事なんてもういいんだよ。ったく、嫌な記憶を思い出しちまったじゃねえか。

 俺はベッドにダイブした。一人なんて久しぶりだぜ。何年ぶりだっけか? そんな事はいっか。それより、眠くなっちまったな。

 横になっているうちにいつの間にか眠ってしまった。疲れてたんだ、きっと。

 その日はあっという間に過ぎちまった。俺は翌日驚かされる事になろうとはこの時知らなかった。


「津久葉、おはよう。昨日は悪い」

「おう、影野。おはよう。別にいいって。それより、雨降ってたよな。大丈夫だったか」

「お、おう」

 なんだよ、その反応。なんか怪しいな。その時だった。影野に近付いてくる葛原の姿が視界に映った。

「あ、葛原さん。昨日はありがとう。助かった」

「影野くん。大丈夫だよ。また、なにかあったら言ってね」

 葛原は影野に言葉を返すと、去っていた。

 影野が笑ってやがる。は? どういう意味だよ。俺がいない間になにが起こったんだよ!

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