第26話 彼女と雨と (影野 紫音)

 俺は彼女の事を気に掛けた。なぜなら、一人だからだ。友人はいないのだろうか。誰かいてもおかしくないのにな。

 去年、独りだった俺が思うのもおかしな話だ。津久葉つくばがいなければ、俺だって今頃一人だったかもしれない。津久葉にはいつかお礼を言わないといけないな。

 そんな事を考えていると、彼女は嬉しそうにお弁当を出した。あ、そうか。お昼だ。彼女は誰かと食べるのか? いや、一人だ。もし、出来るならば……。


「おい、影野かげの。売店に行こうぜ。早く行かないと売れ切れちまうぞ」

 不意に津久葉の声が聞こえた。ヤバい、そうだった。

「今すぐに行くぞ。アレが無くなったらお前が困るだろ」

 俺はそう言って、咄嗟に立ち上がった。そして、急いで教室を出た。

「おい、待てよ! 影野、早いって!」

 津久葉が後を追ってきた。アレがないと津久葉が元気をなくすからな。俺だけでも先に買っておかないと。


「ほら、買えたぞ。コレ、お前の好きなやつだろ」

 俺は津久葉に例のモノを渡しながら言った。

「お、おう。影野はいいのか?」

「俺は直ぐに委員会だから食ってる暇なんてない」

 俺が言うと、津久葉が元気なさそうな顔をした。最近、元気がなさそうだったのは海老カツサンドが食えなかったからじゃなくて、俺の所為せいだったのか? そうだとしたら、悪いことをしたな。だが、委員会は出なきゃいけない。まだ先だが、成功させたいからな。文化祭を。

 それから、俺は早めに昼を切り上げて、委員会へと向かった。

____


 放課後もか、と俺は思った。昼休みが終わっても委員会は放課後に伸ばされた。仕方ない。津久葉に先に帰るように伝えなければ。連絡先を知っているから、携帯でのやり取りでもいいのだが、直接伝えなければと思ってしまった。

 そして、授業を受けていつの間にか放課後になった。

津久葉つくば。今日、先に帰っててくれ」

 津久葉は分かってくれた。だが、なにかおかしい。どうやら、津久葉の悪い癖が出ている。なにかある度に考え事をしている。俺は気に掛けるように言った。それから、委員会へと足を運んだ。


 委員会は一、二時間で終わった。さすがに疲れた。早く、帰ろう。俺は下駄箱で靴に履き替え、外に出た。

 そこで気づく。雨が降っていた。天気予報で雨が降るなんて言ってなかったよな。濡れて帰るしかないか。そう思った時だった。


「か、影野くん? 折り畳み傘で良ければ、」

 葛原さんは傘を差し出した。他の傘は見当たらない。俺のために折り畳み傘を貸そうとしてくれている。

 それよりも彼女はどうしてここにいるんだろうか。

「あ、急にごめんね。私、図書室で勉強してて、帰ろうと思ったら影野くんが見えて、」

 彼女はそう言った。一人で勉強していたのか。彼女にしては意外な一面だ。


「そうか。傘ってこれだけしかないなら、葛原かさはらさんが、」

「じゃ、じゃあ迷惑でなければ、一緒に帰ろう」

 なぜか断れなかった。それから、俺たちは帰った。所謂いわゆる、相合傘で。

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