第24話 気になる人 (影野 紫音)

 津久葉つくばは言った。コイツに監視されてるぞ、と。監視? 葛原かさはらさんはそんな人じゃないだろ、と俺は思った。

 新学期になった頃、それは学年が上がった時でもあった。その時に葛原さんと同じクラスになった。どうやら、選択授業は違うらしい。だが、俺は知っている。葛原さんは他の人に声を掛けられるが、自分からは話さない。いつも一人だ。自然と、俺の視界にその姿が映っていた。

 なんだか、俺のほうが葛原さんを監視している気がするな。ただ、津久葉が言う、前から俺を見ていたとは知らなかった。前って言ってもそんなに経ってない。俺、葛原さんに悪いことしたか? でも、話した事がない。気になってしまう。

 そんな事もあってか、津久葉が葛原さんを責めたてようとした時、俺は咄嗟に葛原さんを庇ってしまった。折角、津久葉と仲良くなったのに、俺のせいで……そんな時だった。


「か、影野かげのくん。仲を悪くしてごめん。私のせいで、」

 葛原さんが悲しそうな表情で俺に言った。

「いや、葛原さんのせいじゃない。アイツ、津久葉が葛原さんを責めたからだ。葛原さんはなにも悪くない」

 俺がそう言うと、彼女はまた悲しそうな表情をした。そんな顔をしないでくれ。そんな顔をさせたくないのに。

 その日、葛原さんとの会話はそれっきりだった。

____


「なあ、影野」

 俺は津久葉の声で我に返った。

「な、なんだ。津久葉」

 突然、話し掛けられたせいで挙動不審になってしまった。津久葉が俺の事をなにかを疑うようにジロジロと見てくる。なにもないんだが……。いや、あるといえばある。

「影野、なんか怪しいぞ」

 津久葉はそう言って、俺が先ほど見ていた方向へと視線を向けていた。

「は? アイツじゃんか。ほら、やっぱり影野を見てただろ」

 津久葉は言うが、見てたからなんだというんだ。葛原さんは悪い人じゃない。津久葉にも気付いてほしい。

 そうしたら、俺たちと友達になれるんじゃないかと思うのは悪い考えだろうか。

「聞いてるのかよ」

 津久葉の声が聞こえた。俺はいつの間にか上の空になっていた。

「アイツに近付くな。危ない気がする」

「いや、葛原さんは、」

 俺は答えようとしたが、運悪く鐘が鳴ってしまった。

 それから、俺たちはいつも通り過ごした。だが、津久葉の様子がおかしい。なんか、警戒しているような、俺の気のせいだといいんだが……。

 それよりも、葛原さん大丈夫だろうか。一人なのが気になって仕方がない。またいつか、今度は俺から声を掛けよう。

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