第22話 誕生日 (影野 紫音)
新学期になって、俺は
結果、気分を悪くさせた。正確には俺が誘ったのが、いけなかった。俺が歌を歌わなかったというのもある。歌いたくなかったわけではない。津久葉の歌を聴きたかっただけだ。そもそもカラオケは歌を歌うために行くはずだよな。それに気付かなかった俺が悪い。その日はすぐ解散になってしまった。また、誘おう。カラオケに。
そして、今現在。俺は家に居るんだが……。なぜか、父さんも母さんもいる。いつもなら職場である病院にいるはずだ。おかしい。なにかあったか?
「
不意に父さんがそう言った。俺は嫌な予感がした。珍しく家にいて、急に話があると言われれば、嫌な予感がするのは当たり前だ。なんだ、この胸騒ぎがするのは。取り敢えず、リビングのテーブル席に座った。向かい側に父さんと母さんが並んで座っている。まさか、離婚か。それで、俺はどっちにつくとかどうとか……
「紫音、誕生日おめでとう!」
「おめでとう!」
二人はそう言って、クラッカーを出した。うわ! 急にクラッカーなんて出すな! 一瞬、心臓が止まるかと思った。
「紫音、大丈夫か?」
父さんはそう言うが、大丈夫じゃない。大丈夫じゃないのに嬉しい。よく分からない感情が交ざったせいか、思考が停止した。どうしたら、いいんだ。
「紫音!」
母さんの声で俺は我に返った。
「ほら、父さんと母さんからのプレゼントだ。二年に上がったお祝いも兼ねて豪華にしたぞ」
進学したなら分かるが、高校一年から二年に上がっただけで豪華になるか。俺は渡されたプレゼントを開けた。
今までに貰った誕生日プレゼントよりも包装がしっかりしてあるな。中身はなんだ? それにやけに大きいな。中から出てきたのは意外なものだった。
「紫音、言ってくれないから。ボロボロのままじゃ嫌でしょ」
「気付かなかった俺たちが悪い」
母さんと父さんはそれぞれ口にした。いや、謝らないでくれ。二人は悪くない。寧ろ、俺のほうが悪い気がする。こんな良い
「泣くほど嬉しいか? 喜んでもらって良かった。なあ?」
「そうね」
その会話を聞いて、俺は目から涙が零れているのに気付いた。言葉にして伝えたい。
「父さん、母さん。ありがとう」
俺がそう言うと、二人は優しく微笑んだ。
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