第21話 新学期とカラオケと (津久葉 晴)

 もうすぐだ。もうすぐ、学年が変わる。もし、学年が変わったら……。

はる、いつまで寝てるの! 新学期早々遅刻しちゃうわよ!」

 俺はその言葉で我に返った。いや、目を覚ました。と同時に枕元の携帯を見た。時間は八時過ぎていた。やべえ、遅刻だ。

 俺は急いで学校に行く準備をした。洗面所に行き、顔を洗って、歯を磨く。制服に着替え、鞄を持って、準備は整った。どのくらい経ったんだ? 急いでいて、時計を見てる時間はないはずなのに、気になってしまう。もういい。玄関に向かって靴を履く。

「晴、朝ご飯は?」

「いらねえ」

 俺はそれだけ言うと、学校へ急いだ。間に合わねえ。


   *


 あれから、二時間が経った。今日はクラス発表と始業式だけで終わった。学校にはなんとか、いや、遅刻してしまった。大失態だ。まあ、いい。なぜなら、影野かげのと同じクラスになれたからな。

津久葉つくば、どうした?」

 影野は言った。どうしたじゃねえよ。遅刻だ遅刻。ったく、どうしてくれるんだよ……って言っても八つ当たりになるだけだから、心に留めておいた。

「おい、聞いてるのか?」

「ああ、聞いてるよ。遅刻したから損した」

 俺はそう言って机に突っ伏した。けど、思っていない言葉が返ってきた。

「聞いてないじゃないか。早く終わって暇だし、カラオケに行こう」

 影野はそう言った。待て、影野からカラオケに誘ってきた、だと? まじか。

「なんだ、その目は。行かないのか?」

「い、行くに決まってんじゃんか!」

 あまりに急すぎて、影野の口から『カラオケ』って言葉が出たから驚いただけだし! 俺は影野が歌うのを期待する事にした。


 カラオケに着いて、三十分。影野は一向に歌おうとしない。休憩なしの一人で三十分歌うのはさすがに疲れた。

「お、おい。歌えよ! お前が歌うかと思って期待してたのによ」

 俺は言うが、影野は予想外な言葉を発したんだ。

「津久葉の歌が聞きたかっただけだ。初めて聞いた時、上手いなと思ってな」

 んな、馬鹿か。呆れた。

「やめだ! 帰る」

 俺はカラオケの個室から出た。

「ちょっと、待てよ。悪かった」

 影野は謝って俺についてきた。会計を済ませ、その場を後にした。結局、影野もやめたみたいだ。つーか、よくよく考えれば男二人でカラオケってのも変な話だよな。

 その後、俺と影野は解散した。影野と帰り道が逆だった事もあり、別れたけど、誘われたのに帰るって酷い事しちまったかな。俺は振り返る。下を向いて歩く背中が見える。前向いて歩けよ、前を。ぶつかっても知らねえぞ! 仕方なくその日は帰った。

 この時から現れた。影野の様子を伺っている誰かが。いったい、誰なんだ? まさか、ストーカーか? 気味悪いな。

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