第20話 楽しい日々を (影野 紫音)
もうすぐあの時期だ。学年が変わる時期でもあるが、クラスが変わる時期でもある。俺にとっては学年が変わることよりもクラスが変わることのほうが都合がいい。なぜなら、アイツらと別々になるかもしれないからだ。
全部で八クラスもある。アイツらと離れられる
今はまだ嫌な気分になるが、アイツが居れば嫌われていることなど忘れていられる。だが、過去に俺がしたことは忘れてはいけない。なぜなら、津久葉にもしてしまうかもしれないからな。
____
俺がいつも通り、学校に行っている時だった。突然、背中に衝撃を受けた。振り返ると、津久葉がいた。
「
津久葉は笑顔で挨拶をしてきた。おい、待て。笑顔で俺に体当たりしてきたのか? 危ないだろ。
「影野?」
「なにがおはようだ。いきなり、突進してきて危ないだろ。今の衝撃、驚いたし痛むんだが……」
俺は言うが、津久葉は未だに笑っている。気持ち悪い。
「悪い悪い。それよりも早く行こうぜ」
いやいや、全然悪いと思っていないだろ。言い返したいが、なぜか許してしまう。いつから許してしまったんだろうか。あ、出会った頃からか。俺がそんな事を考えていると、視界から津久葉の姿が消えていた。いや、よく見ると、遠くで手を振っている、のか?
「影野、早くしろよ!」
大きな声で呼びかけている。ちょっと、待て。他の奴らもいるだろ。なるべく目立ちたくないんだ。やめてくれ。俺は急いで津久葉の元へと走った。
「アレはないだろ。また変に思われたらどうするんだ」
「あ? そんなのまだ気にしているのか? そんな奴らぶん殴ればいいだろ。影野なら、」
津久葉はそう言うが、途中で黙ってしまった。その理由が直ぐに分かった。直後、気まずい空気になった。
「悪い。お前の過去を知っているのに、余計な事を言って馬鹿だな、俺」
津久葉は謝って自嘲気味に笑った。別に気にしてないのにな。その顔を見てたら、俺が悪いみたいじゃないか。そんな事を思っていても口には出せなかった。
それから、俺たちはいつも通り過ごした。一年の残りの時間など忘れて、楽しく過ごした。
次の学年、二年になにが起こるなんて想像も出来なかった。俺に大切な人が出来ることも。俺の身に起きることも。
だが、これだけはずっと思うだろう。津久葉と楽しい日々を過ごしただろう、と。
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