第16話 以前との違いに (影野 紫音)

 俺は意味が分からなかった。アイツの行動といい、言葉といい、いったいなにがしたいんだ。俺に近付いたってなにもいい事なんてない。寧ろ、悪い事のほうが多いだろう。一番訳が分からなかったのは、俺が久々に学校に行って、聞かれたことだ。連絡先を教えてくれ、だと? 教えてなんの意味があるというんだ。

 だが、この時は知らない。教えてよかったと思える日が来るなんて、な。

____


 俺は断ることが出来なかった。アイツ、津久葉つくばに連絡先を教えてしまった。久々に会って、断ることが出来ると思っていたのが安易な考えだった。出会った時からアイツのペースに合わせちゃうんだよな。気を付けないといけない。って、今更そんな事考えたって遅い。

影野かげの、ありがとな! これから、なにかあったら連絡するから、影野も連絡してくれよ」

 やけに嬉しそうな顔をしているな。まあ、いい。それよりも俺は気になった。津久葉の隣にいた水瀬みずせがいないことに。

「そういえば、気になったんだが、水瀬はどうしたんだ? いつも、一緒にいたよな?」

 俺は聞いてみた。すると、一瞬だけ津久葉の様子がおかしく見えた。

「あ、他の奴らと先に教室に戻ったぞ」

 津久葉は答えた。戻った? 嘘なんじゃないか? 今日、津久葉が水瀬と話したところなんて見たことない。なにがあったんだ。

「それよりも俺たちも戻ろうぜ。次の授業の準備があるだろ」

 津久葉がそう言うから、気にすることはないのか。

 この時は気にすることなく、津久葉の言う通りにそれぞれの教室へと戻ることにした。そう、この時は知らなかった。俺のせいで津久葉が避けられていることを。


 それから、何日か経った。あれから、津久葉とは会っているが、水瀬とは会わなくなった。津久葉が一人でいるような気がした。

「なあ、水瀬はどうしたんだ? 俺のせいで、お前一人になったんじゃ、」

「久々にアレを買って食おうぜ!」

 俺が言うと、津久葉が昼飯に誘った。俺の話を聞いていなかったのか? いや、正確には誤魔化ごまかされた。やっぱり、俺のせいでコイツは避けられたのか。だが、問い詰めるのも悪い気がするな。ちょうど、昼だしお腹空いてきたな。ここは乗ってやるか。

「おい、なにやってんだよ。早く売店に行かないと売れきれるぞ!」

 津久葉はいつの間にか先を行っていた。急かされているような気がするが、早く行かないと売れきれるのは本当だ。津久葉と会うまでは売店に行かなかったから知らなかった。

 取り敢えず、今は考えている暇などない。俺は津久葉の後を追いかけるように売店へと急いだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る