第14話 両親と (影野 紫音)

 俺は学校に行けなくなってしまった。あの場所に行こうとすると、過去が蘇る。

『お前も加われよ。アイツ、弱虫だし、当然だと思うぜ。なあ、そうだろ?』

 あの時のアイツの声が脳内に響く。

 次の瞬間、

『痛え。なにすんだよ! 殴るなら、ソイツを殴れよ。なんで、俺を、』

 アイツの痛々しい姿が映る。俺はアイツを殴ってしまった。だが、やった事は間違いじゃない。間違いじゃない、はずなんだ。

紫音しおん、ただいま。大丈夫?」

 突然、母さんの声が聞こえた。どうやら、帰ってきたようだ。ほとんど家に帰らない両親。珍しく帰ってきたと思ったら、俺を心配している。

 俺は学校に行っているはずなのだが、今は自分の部屋に篭っている。この間の出来事で、あの場所に行く事に恐怖を感じて、行けなくなってしまった。


 それより、なぜ俺が学校を休んでいるのを知っているのか。その理由が直ぐに分かった。靴を隠し忘れた。だから、俺が居ると思ったのか? だが、それにしたって……

「紫音、体調悪いの? もしかして、また学校でなにかあったの?」

 いつの間にか部屋の前まで母さんは来ていた。扉越しでさえも、俺を心配する。今の時間帯は朝だ。普通ならば、『遅刻する』『早く起きなさい』だと思うが、そうは言わなかった。

 俺がこうなっている原因を知っているからだ。過去にある出来事があったから。それを知っている両親は共働きといえど、心配している。


「紫音、大丈夫?」

 これで三度目の言葉だ。俺は答えようとしたが、やめた。

「お昼にお父さんが帰ってくるからね。無理しないで」

 その言葉を最後に、部屋から足音が遠のいていった。

 今、独りになりたい気分だったから、部屋に入ってこないだけでも助かった。 

 俺は暫く部屋に篭り続けた。

____


 学校を休んでいる間、父さんと母さんは交互に休んで、家から出れない俺と過ごした。そんなある日のこと。

「大丈夫か? あの時よりは大丈夫だと思うが、無理しなくていいからな」

 俺の両親は共働きではたから見れば、俺を放ったらかしにしているように見えるだろう。

 実のところ、俺に対して優しい。優しすぎるくらいに。

 あの時があったからかもしれないが、それにしたって普通の家庭よりは優しいと思う。そこがいい。安心していられる。

「いや、明後日から行くことにする。勉強に追いつかなくなると、厄介だから」

「そうか。無理はするな」

 父さんは言う。

「父さん、ありがとう」

 俺がそう言うと、父さんは嬉しそうに笑った。

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