第9話 友とは (津久葉 晴)

「友ってなんなんだろうな……」

 俺はふと思った。過去に嫌な事があったから、何度でも思う時があった。けど、答えなど出てこなかった。そういうものなんだろう。

「なに、今更考えているんだよ。そんなに悩むな」

 突如、その言葉が聞こえ、同時に頭を何かで叩かれた。

「痛えな!」

 俺は思わず声を上げてしまった。

「お前らしくない。そんな事で悩むような性格じゃないだろ」

 我に返ると、水瀬みずせの姿が視界に映った。かと思えば、なぜか否定の言葉を耳にした。

「は? なにいってんだよ」

 水瀬の言葉がよく分からなかった。すると、水瀬は長めの溜め息を一つついた。


「友ってなんなんだろうって言ってただろ。それがお前らしくないって言ってんだよ」

 それを聞いて俺はハッとした。まさか、今の言葉が声に出てたとは……。


 それから、水瀬はいつの間にかその場からいなくなっていた。それもそうだ。授業が始まる鐘が鳴って、自分の席に戻っていったんだからな。水瀬だけじゃない。他のクラスの奴らも席につき始めている。

 次の授業の先公は直ぐに来るからだ。おまけに席についていないと遅刻扱いされてしまう。嫌な先公だ。

 その時だった。


 突然、教室の扉が開いた。眼鏡を掛けた如何にも生真面目な先公が入ってきた。先公は教室内を見渡す。そして、眼鏡の位置を直すように手を動かした。日直の号令とともに授業は始まった。先公は早々に板書し始めた。

 俺は溜め息を一つ。窓際の席だったため、窓の外を眺めた。

 その日はなぜか日の光がやけに眩しかった。

____


 それから、数日が経った。あれから、俺はアイツに会っていない。それは、単純に会う機会がなかったからだ。だが、今日は選択科目でアイツのクラスと合同だ。

 あの時、俺はアイツに言った。

『なにか悩んでる事があったら相談乗るからな』と。

 しかし、アイツはなにも言わなかった。言えなかったのかもしれない。今日はなにがあったのかくらいは聞いてやる。


 そして、合同授業が始まった。アイツは何事も無かったことのように普通に授業を受けている。本当に……なにもないのか? なにかあるはずだ。なぜなら、あの時のアイツのクラスの奴らの視線が異常だった。まるで恐れているかのように。その理由を水瀬は知っているようだった。

 俺だけ知らないのか? 知らなくても雰囲気でなにかがあるかは分かるんだよ。誰か教えてくれ。

 不意に隣の席の水瀬に視線を向ける。すると、水瀬が俺の視線に気付いた。

はる、なんだよ。まさか、小テストすること忘れてたのか? 何度も言ったじゃんか」

「は? 小テスト? マジかよ」

 俺は水瀬の言葉で現実に戻された。

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