第5話 登校 (津久葉 晴)

 俺は友達がいない。と、いえば「いやいや、いるじゃん」とか「明るい性格からいるでしょ」とか言われるだろう。けど、居ないのが本当で、居るのは嘘だ。

 だって、結局は上辺の付き合いなのだから……。


   *


はる、おはようさん」

 不意に挨拶をする声が耳に届いた。声のした方へと振り向くと、そこには気持ち悪いくらいにニヤニヤしている水瀬みずせの姿があった。


「おはよう!」

 俺は元気に応える。

「相変わらず、晴は元気だな」

 水瀬はそう言う。だけどな、本当はそういう風に見えるだけで元気ではないんだよな。装っているって言えばいいのか。その理由は中学にあった。俺は、中学で……。

過去を振り返ろうとした、その時だった。


「おい、晴。聞いてるのか?」

 その問いかけに俺は我に返った。悪い癖が出ちまった。時々、俺はふと過去の事を考えてしまう。考えたって過去は過去だと分かっているのに考えてしまうのは俺のさがのせいだ。

「悪い。聞いてなかった。で?」

「おいおい、またかよ。しっかりしろよ」

 俺が話を戻そうとすると、水瀬が俺を注意した。自分が悪いと分かっている。分かってはいるはずなのに軽く流してしまう。その度に嫌な気持ちになる。反省したい気持ちはあるんだ。水瀬、許してくれ。そう心の中で呟いた。


「あ、影野かげのじゃん」

 突然、水瀬が呟く。その言葉に俺は再び我に返った。すると、視界に影野の姿が映った。

「おーい、影野!」

 少し遠くにいた影野に自然と呼びかけていた。

「あ、おい、晴!」

 水瀬の呼び掛けなど気にもせず、影野のほうへと向かう。


「影野、おはよう」

「おはよう」

 挨拶をすると、影野は驚いた表情で挨拶を返した。返すのは当たり前だろうけどさ、なぜそんなに驚くんだよ。

「今度は何の用だ?」

 挨拶をした後、俺が動かないせいか影野は眉間にしわを寄せて聞いてきた。そんな顔しなくてもいいだろ、と言いたかったが口にしなかった。いや、出来なかった。

「折角だしさ、俺たちと学校行こうぜ」

「俺たち? あ、そういうことか」

 学校に行くことを誘うと、影野は不思議そうにしていたが、俺の隣に水瀬が来たことで理解した様子を見せた。

「おい、晴。先に行くなよ。こいつ、影野を見つけたら早足になったんだよ」

「うるせえ」

 水瀬の言葉に俺は苛立った。別にいいじゃんか。早足になってなにが悪いんだ。

「晴、どうした?」

 ふと我に返ると、水瀬の声が問いかけていた。

「なんでもない。行こうぜ」

 そう言って、走り出した。


 俺たちは競走するように学校へと向かった。

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