第4話 独り (影野 紫音)

「ただいま」

 俺は学校から帰って家に着くと、そんな言葉を自然と口にした。当然、家には誰もいない。俺の家族は両親と俺だけ。兄弟はいない。

 両親は共働きで職業柄のせいか、家を空ける事が多い。小さい頃はそんなでも無かったのだが……。

 家を空ける最初の頃はどこか寂しさを感じた。だが、今は慣れてしまった、といえば嘘になる。家に居ても、学校に居ても独り。挨拶をして寂しさを紛らわしていた。

 普通の学生ならば、独りになる事がこんなには多くはないはずだ。放課後に部活動や友達と遊ぶのだろう。しかし、俺にとってはそれが一切ない。友達を作るのにも上手くはいかず、今の状況に至っている。

 このまま、仲が良い奴が出来ないまま、学生の時を過ごしていくのだろうか。そんな事、考えたって仕方ないか。

 俺は溜め息を一つ零す。そして、玄関で靴を脱ぎ、リビングへと移動する。

 リビングのテーブルに買ってきたものが入っているビニール袋を置こうとした時、それは目に入った。


『明日のお昼と夕飯分のお金置いておくね。いつもごめんね』

 そう書かれたメモと三千円が置かれていた。一人で三千円は多すぎかと思うが、両親は収入が多いほうだから損はないと思う。

「母さん、いつになったら謝らなくなるんだろうな」

 誰かに言うわけでもない言葉が口をついて出た。

 それから俺は買ったものをテーブルに置くと、自分の部屋に鞄を置きに行った。次に洗面所で手洗いを済ませて、少しばかりの休憩をとる。

 休憩している間、俺以外誰も居ないリビングには掛け時計のカチコチという規則正しい針の音だけが響き渡った。

 次第に寂しさが募る。


 やるか。俺はそう心の中で呟くと、僅か数分経ったところで椅子から腰をあげた。リビングテーブルの上に置かれたビニール袋。そこから、食材を出す。今日は簡単な牛丼だ。市販の牛丼ではない。自分で一から作る。

 いつからだろう。俺は寂しさを紛らわすために料理を作ることにした。母さんと父さんが仕事で居ない事が多い俺にとっては自分磨きに適していた。

 そんな事を考えながら、黙々と料理をする。といっても、簡単な牛丼を作るのに時間は掛からなかった。

 約十五分くらいで完成した。俺はすぐには食べずに、皿に盛り付けて、ラップを掛けた。

 なぜかって? まだ十八時にもなっていないからだ。寝る前にお腹が空いてしまう。

 それから、俺は早々に風呂に入り、自由時間を過ごし、牛丼を食べて一日を終えた。

 この時はまだ思っていなかった。


 彼奴アイツと親友になって楽しい時間を過ごすことになることを。

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